JKリフレで指名した人気No.1キャストが、高校時代のアイドル的同級生だった。
月原蒼
プロローグ
JKリフレで高校時代のアイドルと再会した
晴れやかな空がどこまでも広がっているような、そんな秋のある日のことだった。
俺は、高校時代に密かに憧れていた同級生と運命的な再会を果たした。
「裏オプあるけど、どうする?」
「裏オプって何なの?」
「まぁ、エッチのことかな」
――JKリフレという、外界とは断絶された個室で。
■
「なぁ
不意に、そう声をかけられた。
大学に入学してから一年と半年。すっかり講義やレポート課題にも慣れ、こうして講義が終わった後に声をかけてくる友達も出来た。
高校時代のクラスメイトが俺を見ても、とてもじゃないが同一人物だとは思えないだろう。
所謂大学デビュー、ってやつさ。
無造作だった髪も綺麗にセットし、服装にも気を遣い、あの頃の鬱蒼とした雰囲気とは打って変わって明るく溌剌とした性格。見事にデビュー成功だ。
高校時代、ひたすら勉学に励み、同じ高校の連中が合格出来ないくらいの大学に入学した価値もあるってもんだ。
なんせ大学デビューした姿をあの頃の俺を知る人たちに見られるなんてのは、この世における何よりもこっぱずかしいものに間違いないからな。
「今日の講義はこれで終わりだし、暇だよ」
振り返りながらそう返した。「待ってました! その言葉!」なんて言いながらニカニカと笑うのは、一年の時から仲良くしている
で、イケメンだから周りに人が寄ってきて、必然的に俺も友達が増える。
代わりに俺はレポートやらなんやらの手伝いをする。そんなWin-Winの関係もあって、こうして上手いこと付き合っている。
「どっか行くとこでもあるの?」
「おう! ま、黙ってついてこいよ!」
「はぁ、別に良いけど」
そう言って俺は、意気揚々と歩く流星の後を、言われたとおり黙ってついていった。
「はい、到着」
辿り着いたのは、怪しげなビル、その一室。
秋葉原へと降り立った時から何を企んでいるのかと思ってはいたが、ちゃんと怪しげな計画を企てていたらしい。
見るからに何か危ないことをしていますと風体で語るその鉄筋コンクリートの巨像は、俺のような純真無垢である一介の大学生を阻むかの如く、少しばかり怖い雰囲気を醸し出していた。
「で、ここは?」
「聞いて興奮しろ、JKリフレだ」
それを言うなら、聞いて驚け、だと思う。
「そのなに、じぇーけーりふれ? っていうのは?」
「お金を払って女の子とイチャイチャ――プラスアルファうっふんあっはんなあれやこれをする場所だな」
「見るからに犯罪臭がするんだが?」
「ここはそういうのしっかりしてる店だから大丈夫。まぁそういう店がないって言い切れないのが残念なとこだけどさ」
大学での姿からは想像出来ないくらい饒舌にJKリフレとやらの解説をする流星。
ていうかちょっと待てよ。
「流星ほどのイケメンがさ、なんで金払って女の子とイチャイチャすんの?」
よりどりみどりだろうに。なんでまたそんな事を?
「なんつーかさ、俺ってイケメンだろ?」
「うん」
「ツッコミを入れて欲しいところだが、まぁいい。そんでさ、それだと周りに女の子なんていくらでもいるわけ。それも俺が主導権を握れる女の子。それがなんつーか嫌でさ。金によって発生するフェアな関係っていうの? そういうのを求めた結果なんだよな」
あー、んー、まぁなんとなく、言いたいことが分からないわけではない、けど。なんかイマイチ納得出来ないな。
「で、なんで俺を連れて来たんだ?」
「今キャンペーンやっててさ、初めての友達を連れてくると全オプションが半額になるんだよ」
オプション? まぁいいか。
「それ、結局流星の為じゃんか」
私利私欲の為に友達をこんなけったいな場所に連れてくるとは。付き合う人間を間違えたのかもしれない。
「まぁ、そういうなよ。終わったら飯奢るからさ」
「焼肉な。それで、なんで俺なんだよ。よりによって」
「いや、なんかこういうのに拒絶反応示さなそうだし」
「いやまぁ、多少の興味はあるよ? 人生経験的にも。でも結構高いだろ、こういうお店って」
俺、財布の中身硬貨だけだぞ?
「まぁ、今回は幽人のリフレデビュー記念で俺が奢るからさ」
「それじゃあキャンペーンの意味ないじゃん」
「ま、キャンペーンは建前。俺はJKリフレフレンド、略してリフレンドが欲しいんだよ」
リフレンド、ねぇ……。
「じゃ、お言葉に甘えて。あ、でも悪いから後で半額は払うよ」
「それはまぁ、お好きにどうぞ。あと、お前の為に今日は人気ナンバーワンのキャストを予約しておいたぞ。予約取るの結構大変なんだからな?」
「そか。そいつはどうもありがとう」
「そいじゃ、レッツゴー!」
そう言って流星は、勢いよくビルのドアを開けた。
それからの事はよく分からなかった。若い男の人と流星が何か談笑に励んでいる様子で、見たところ相当な常連だということは分かった。
目の前の棚には、様々な種類の消臭剤や香水が置かれていた。まぁ、女の子とイチャイチャってことは、まぁそういうことなんだろうし、体臭には気を遣うのだろう。
俺はその中から一番無難そうなソレを選び、身体に吹きかけた。
「おーすお待たせ。大奮発の120分コース、楽しめよ」
「長いな、会話弾まなかったら地獄じゃんか」
「そういうとこも含めての人気ナンバーワンのちひろちゃんだろ? 相手に任せとけばいいんだよ」
「ふーん。そんなもんなのかね」
なんて話をしながら、俺達はパーテーションで仕切られただけの、部屋とは言い難い仮設個室へと案内された。
入ったときから思っていたが、この店、やたらと薄暗い。その上なんか爆音で音楽が流れている。既に頭が混乱してきたくらいだ。
案内された先、二重のカーテンを開けると、そこには誰もいなかった。
おかしいな、とは思いつつも、きっと準備が遅れているんだろうな、なんて適当な想像をしながら、歌詞の聞き取れない不思議な曲――後に流星から、これを電波ソングと呼ぶのだと教わった――に耳を傾けていた。
それからどれくらいだろうか。きっと一分とそこらなのだろうが、俺にはひどく長く感じた。
そんな折に、カーテンが開いた。
「初めましてですよね? ちひろっていいます! よろしく願いしますね!」
俺は、この爆音の音楽がなければ、きっと時が止まったと勘違いしていたと思う。
どれだけ思考回路が狂っても、無理矢理脳内に押し込まれるその騒音のおかげで、俺はなんとか意識を保てていたのだ。
だってそうだろう、驚くだろう。
目の前に立っている美少女は俺が高校時代に密かに思いを寄せていた、学校のアイドル的存在の同級生、
「ち、ちひろ……さん?」
あの時と変わらない可愛らしさ。言葉での表し方が出来ない可愛らしさ。
黒髪だったショートカットは、ベージュのショートカットになっていて、校則が厳しかったせいでナチュラルだったメイクも、いくらかランクアップ。それでもそれは化粧詐欺でもなんでもなく、ただ単純、シンプルにその可愛さの上塗りで。
制服をまとったその姿は、まるであの日、俺が高校時代にたった一度だけ二人で話したときと全く同じ情景で。
その見蕩れずにはいられない瞳には、俺しか写っていないことが少しばかり恥ずかしい。そんな感情が、決壊したダムの如く流れた。
「うん、ちひろです! 今日は何しよっか!」
けれども、彼女は。
残念なことに、彼女は。
俺のことなんて、ひとつも覚えちゃいなかったんだ。
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