ご老人とロボット
星うめ
ご老人とロボット
あのご老人は、何度言ってもロボットの私を人扱いした。
私はロボットだ。
売られた当初は人に限りなく近いケアロボットだともてはやされもしたが、
とうの昔に型落ちし、私の持ち主はほとんど捨てるように私をこの人に預けた。
彼女は、私を孫からのプレゼントだと、そういって喜んでいた。
「ご老人、何か手伝うことはありませんか」
それなのに、彼女は私に仕事を任せてくださらない。
やれることは全部自分でやろうとする。
私ももちろんサポートするのだが、
いつも手伝ってくれるから今日くらいは休んでと、ソファに促されてしまう。
促されては従うしかないので、一度ソファに座る。
そうしてまた、彼女の元へと向かうのだ。
その彼女が私に必ず願うこと。
それは、一緒にものを食べることだ。
私がこの家に来て、何を話そうかと悩んだ彼女は、まず私に質問をした。
お腹は空いている?と。
「ご老人、私はロボットです。食事はとりません。」
彼女は少し寂しい顔をして、どうしても食べられないのかと聞いた。
私は、ふむ、と考え込んだ。
入った異物を自分で取り除くことはできる。
事実として可能ではあるのだ。
食べることは可能ですと伝えると、彼女は嬉しそうに、洋梨のパイを差し出した。
一緒に食べましょう、と。
後から聞くと、洋梨のパイは彼女の大好物なのだそうだ。
…人は老いる。
身の回りのことを全てやりたがった彼女も、だんだんと動けなくなっていった。
そうしてベッドに寝たきりになった彼女は、家事をする私を見て謝るのだ。
私は本来の仕事をしているので気にしなくていい、と答える。
…しかし、仕事をしない罪悪感なら私にも理解できる。
それならばと、私は彼女にお願いした。
「洋梨のパイの作り方を、教えてくれませんか」
穏やかな日が差し込む午後3時。
私はベッドの横の椅子に腰掛けて聞いた。
「ご老人、何か手伝うことはありませんか」
彼女は言った。
洋梨のパイを一緒に食べましょう、と。
おやつに焼いた、彼女のレシピ通りに作ったパイを持ってきて、彼女の口元に運ぶ。
そうして私も、自分用に切り分けたパイを口に運んだ。
私は味覚を感じるようには出来ていない。
食べるものは全て異物で、正直、あとで取り除くのも面倒だ。
それでも、おいしいわね、と笑う彼女を見ると、わかるのだ。
「はい、本当に」
私は知っているのだ。
おいしいということを、私は彼女から教わった。
ご老人とロボット 星うめ @wakamori
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