第18話 命名しますっ!『僕等たすゴマメがひとり同盟』(マンマデスヤン)


「お前、じゃなくて恵梨えりはどうして、鉄棒なんてしたの? あんな高いさぁ、背も届かなかったろ? 怒らないから言ってみ?」


「うーんとね〜。お母ちゃんには言わないでくれるなら言ってもいい」


「なんで? 怒られるからか?」


「怒られたりせんけど、悲しむかも……やから」


「ふーん、わかった言わない」


「秘密ね。約束だよ。指切りして」


「「ウっソつぅいたっら♪ハーリの〜〜ます♪ゆぅびきった♪」」


 歩いてたのを立ち止まて指切りした後、家までの帰り道、恵梨エリは鉄棒のことを話してくれた。


 前に一緒に暮らしたらしいお父ちゃんトーサンとの思い出。

 それが何処だったかわからない公園の鉄棒で、お日様を背に、笑いかけながら鉄棒を逆回転で回り続ける姿が、お父ちゃんを覚えてるたった一つの思い出なんだ、って言った。

 大きくなったら同じように回ってみたい、って。

 それから、そのお父ちゃんトーサンが家から出ていった時、恵梨エリは小さくて、殆ど記憶に残ってなくて、母さんカーサンに訊くと悲しそうな顔をするから駄目なんだって言った。


「きっともう覚えても無いんだよ! オレの父さんと同じさ」


「こうすけのお父ちゃんも、こうすけのお母ちゃん? お母さん? の話すると悲しい顔するん?」


「母さんな。いや、悲しい顔はしないけど自分から話さない。随分と前から話してくれなくなった。忘れたからさ。だから他の人なんか……あのね恵梨」


「なに?」


「恵梨は、そのお父ちゃんのこと好きなんだろ?」


「うん、好き!」


「じゃあ提案なんだけど。オレ達の同盟に入らないか? オレとドラで同盟を組んでるんだけど、それに入らない?」


「どうめい? 何するの?」


「オレの父さんと恵梨の母さんが仲良くなるのを阻止するんだ」


「仲を悪くするの?それはイヤだ」


「でも母さんにお父ちゃんのこと思い出して欲しくない? オレは思い出して欲しいんだ。母さんのこと大好きだから」


「お父ちゃんのことも大好きだけど、ケンカは良くないし、ケンカさせたくない」


「じゃあ喧嘩はさせないけど、一緒に住ませないようにしたい」


「ちっちゃいアタシにも出来る?」


「恵梨が同盟に入ってくれたら出来るよ、絶対に」


「決めた、あたしもそれに入りたい。何するといい?」


「トリマ女の子の恵梨は『ゴマメ』。何しようか? オレ考えとくよ」


 おお〜同盟の再結成だね。

 命名は僕に任せといて。

 ん〜、元が “僕等われら同盟”で固すぎた。

 それに足すことのゴマメ一名か……



僕等ぼくらたす一人ひとり同盟』ってのでどうでしょう?


 ジャジャーン決定〜♪♪




 夕方に、オニギリから聞かされ仕事を放おっぽりだして、父さんトーサンが帰宅してからが大変だった。


「大丈夫かー!」って恵梨エリを抱きすくめて。

 それからそこかしこ、本当に中身まで裏返してしまうんじゃないかぁー、って心配しちゃうほど体全部を、隈無くまなく確認してるかと思ったら、


「杞憂かもしれんが脳波もとって貰う。外科に連れてくからお前たちは何か食って待ってろ」って、車に恵梨エリを乗っけて出ていった。

 帰ってきた途端に「大丈夫だったよ……」ってさ。

 玄関先で力も魂も抜けたみたく虚脱してんの。


「広輔は食べたか?」


「そんな気しないよぉ。それより恵梨は? どうも無いの?」


「ああ。どこも異常なし、だった。心配しただろ。恵梨ちゃんもお腹がすいてるだろう。今日は外に食べに行こう」


 広輔コースケの頭に手を置いて父さんトーサンがそう言った。






(えっ僕のご飯! それはニャイニャーン)


 ハァー、この心からの叫びも虚しく。

 三人は僕を置き去りにしてディナーに出掛けてった。


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