第16話 赤鬼か青鬼か、これ問題じゃない


「……ごめんなさい」


 消え入りそうな声が聞こえた。

 見るとスエスエが青い顔して小刻みに震えてる。

 余っ程よっぽど、怒られたのが怖かったのね。

 わかるよ僕……可哀想になっちゃったな。


「ウナォ(元気だして)」


 仕方ないよな、広輔コースケの剣幕には父さんトーサンだって舌を巻きタジタジなときがある程なんだ。

 砂場に座り込んじゃってる肩に頭をもたげ、顔をスンスンして慰めてあげた。



「大した怪我しちょらん様ね。手を擦りみたか、消毒が必要だな。久保、救急箱を取ってきて。他の人も休憩してよし。チェストいけ!」


 遠巻きに見てるメンバーを掻き分け恵梨エリに走り寄り、あちこちの具合をどうか見ていたオニギリがキャプテンの久保っちを呼んで命じた。


「「「チェストー」」」


 と叫んで久保っちクボッチ以下、他メンバーは“見守り隊本拠地”へと全速力で走っていった。


『チェストいけ』って、必死こいて行ってこい、という意味らしい。

 カッコイイ! とこの夏メンバーはみんな『チェストーチェストー』らしいの、って鹿児島弁解説とチーム事情は横に置いといて。


 ホントだ、肘を擦りむいて少し血がにじんでる。

 それを広輔コースケも覗き込んで見てる。


「痛くないか?」


「イタない、こんなんヘッチャラ。洗って乾かしたら何ともない。アタシな、転んでも泣かへんねん。キズいってもバンドエイド自分で貼れるんやで。だからこうすけ、そんなに真面目な顔して心配せんでええから。キャそこっ、くすぐったい。やめてよコーチのお兄ちゃん」


「くすぐったい? そっか、他に痛いところは無いかな?」


「うん、あらへん」


「強い子だな。お兄ちゃんはね、覚えてね〜。ちょっとだけ待っててね。さてコースケ。確かに不手際はあった。がお前、物言いが


 ニシズカオニギリがしかめっ面で言って、それを聞いたスエスエの目が大きく見開く。


るゅー。やめて!」


 制しようとした手をとり、ニシズカオニギリはスエスエを引きあげて立ち上がらせ、続けた。


「責任持て? 恵梨ちゃんを連れて来たんなお前だろ? 未来花あすかは文句言わず引き受けちょったよな? そんなキツい物言いしよるんは、どう言うこと。じゃぁ言うなら、ああ俺にある。。それにな、小さい子にじっとしてろ、動くなって酷こくだわ。遊びとうなってと思うよ?」


「オレは。こいつが怪我させられたと聞いってカッなって……。考えればそうですね、責任転嫁していると言われればそうですね」


「わかってくれるか? 大人だって一個の人間。皆が皆、完璧じゃないし、予測つかないこともあるからさ。失敗もすれば叱られもする。だが一つをとって全否定する様なことを誰が出来る? そんなのはダメでしょ?」


コーチ……」


「エリちゃんは見た通り怪我して傷ついてる。体だけじゃなくても。失敗したと知って内心傷ついていたりするんだよ? 見て取れなくても、言ってなくても、だ。傷ついた二人に追い討ちをかける、それで!」



 さっき迄、納得いかなくて顔を真っ赤にしてた広輔コースケが、今は青い顔してる。


「……コーチ、オレ。すみません。謝ります。未来花あすかさん、調子にのって生意気言って、ごめんなさい。責めてしまいました」


「ううん、違うよ。コースケ君は正しいことを言ってくれてる。私の考えが足りなかった。大変な事になっていたら……恐ろしくて、申し訳ない……本当に」


 とうとう泣き出しちゃった……スエスエ。


「アタシが悪いの。お姉ちゃんは悪いことない。鉄棒やってみたくて、アタシが我をはったんや。危ないよって言ってくれた、ねっ? お姉ちゃん。そうやんね? 泣かないで。ごめんなさいお姉ちゃん」


「恵梨ちゃんは、正直で優しかね。お姉ちゃんは辛かったこと思い出しちゃったみたいなんだ。だから恵梨ちゃんは気にしなくていいんだよ。大事に至らなかったのだし未来花スエスエも、もう泣くなぁ」


 オニギリはそう言って、涙がこぼれ出しているスエスエの肩をぐっと抱いた。



======


――後書きです――

鹿児島在住の知人にお伺いを立てたところ、

今の若者はほぼほぼ“鹿児島弁・薩摩弁”を使っていないそうです。


私的に残念な結果でしたっ⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎⤵︎

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