第14話 声の調子で読みとるのは人心掌握術の基本だよん


 ノドの渇きを癒せばトイレの場所を探したくなるもの。

 お弁当を取りに行ってたメンバーが戻ってきて、各自のオーダー照合と立て替え分の計算が始まって、にわかに真剣モードなおばさんカーサン達。 オニギリの嫁さんは、渡されたメモを凝視して取り分けの最中。

 横を見上げると恵梨エリが、遠い目をしてグランドを眺め、喧騒けんそうのなか取り残された少女のたたずまい。

 ヨシ、僕のトイレ探しに付き合って貰おう。

 

 

「(恵梨エリも退屈だよね?)ミッ?(一緒に探検しに行こう!)ナァナァ、ナァゴ〜!」


 グフッ!――


 ベンチを飛び降りて走り出そうとして、どうして気付いたのかオニギリの嫁さんに捕縛ほばくされた。


「あっぶなっ。ドラ猫くん! 君は死にたいのかぁ? これを見てみな、逃亡しないようにくくりつけてあるんだよ。首が締まって死ぬるところよ。」


 おーおー忘れてた。 マジで首輪の性能試験するトコだったわ。


「(危ういトコだった、サンキュー)ミュン」


 これからオニギリの嫁さんを排し『スエスエ』って呼んであげることにしよう。


「ミャン(スエスエ♡♡)」


「キャー!何そのつぶらな瞳♡」


 ギュギュギュwwwってやめてぇお願いします。


「そ〜か〜。お姉さんとお散歩に行きたいのね? じゃあ行きましょう」


「お散歩? ウチも行きたい」


「当たり前よ、恵梨ちゃんも一緒。 レッツゴー!」


 ケースに括り付けられてたリードを、スエスエが解いてくれた。

 なぜスエスエって呼ぶか?

 それはね、オニギリが甘えた声で嫁さんをこう呼んで、どう反応してたかを見たからさ。

 つまりね、甘え声でこう呼ぶと……


「ミャ〜ン(スエスエ〜)」


「ドラちゃんなぁに? お姉さんに言ってみなさい♡」


 そう言って人差し指を僕の顔に近づけたから嗅いじゃおう。

 すると抱き上げられて、ふうっと僕の鼻先に息を吹きかけられた。


「(うぉー甘い匂いのおまけ付き!)ゴロゴロゴロゴロ」


 ねっ、飛びっきり甘々の意思疎通をはかってくれただろ。 スエスエのハート掌握、大成功〜!



 僕の先導でラグビーの練習を邪魔しないようにグランドの端を通り、木が植わってるネット裏まで来た。

 他の猫の縄張りを確認つつ、イイ感じの白砂しろすなに目星をつける。

 だけど二人に観察されてる。 マーキングするだけなんだけど見られてると気マズイものがある。


「トイレするんかな?」


「みたいね。恵梨ちゃん、あっち向いててあげよっか」


「どうして?」


「きっとドラちゃん、恥ずかしがると思うよ?」


「あっドラも恥ずかしいんか。私らと同じやね」


 そうだよ、僕にも猫権ニャンケンというものがあるのさ。 『誰しも人権は守られるべきだ』って父さんトーサンも日頃言ってる。

 猫にだってそれはあるのさ。


 言い忘れてたけど父さんトーサンは人権問題に特化した事務所で働いてる、つまり弁護士さんだよ。



「あそこに鉄棒がある!やってみたいな……アカン?」


「あれは恵梨ちゃんには高すぎるね」


「ぶら下がるだけでもダメ?」


「それくらいなら私にも支えてあげられるかな……少しだけチャレンジしてみようか」


「うん♪」



 満面の笑みの恵梨エリ。 その様子を嬉しそうにスエスエが見つめてる。



 トイレも確保したし次は鉄棒まで探検だ!


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