僕等たすゴマメがひとり同盟

ももいろ珊瑚

第1話 初めの始め

 僕はドラ。


 ドラゴンを意味するドラだ。


 言っとくけど某〇〇エモンと一切関係ない。


 種族は定かでない。


 生息地イルトコロは家、ときどき庭 、しばしばケージの中。


 性別は勿論オスである! ――因みに猫の、エヘっ♡






 夏がやってくる前のダラダラふり続く、肌寒い雨のなか、仕事からの帰り道で。

 雨が傘をたたく音にまぎれ、何かが聞こえてくる。

 やっと聞こえるかどうかのスレスレの、でも必死にSOS救援救助を発っする猫のような鳴き声。


 立ち止って耳を澄まし、注意深く気配を探れど主の姿は見えず、が目線の斜め下なのは確かだ。

 怪しいとしたら足元からほど近い溝ドブ。


「流石さすがにここじゃないわなぁ」


 呟きながら脇に立つと気持ち聞こえが良くなる。 しゃがむともっと。

 更に中を覗き込むと、白いものに気付いた。


 誰かが投げ込んでいったゴミやらなんやらに堰きせき止められた雨水が、半ばまでを覆っている不自然に真新しいコンビニ袋。


「信じたくないけど間違いなくこれだ!」


 掴んで道の上に引っ張りあげ、キツく縛ってある結び目を引きちぎり破いったら――




   中には僕が入ってたんだ!




 その時の僕はまだ目もあいてなくて


 四肢あしを踏ん張ることさえ出来てなくて


 数日前に産まれてすぐ母猫から引き離され


 ひっくり返せばへその緒がついてそうな


 唯一、奮い立たせる直立させたしっぽもコヨリみたいに細い。

 手のひらにのせてるってことも、どうにかすれば忘れちゃえそうに軽い。

 手に感じるのは体温と呼べない冷たさ。

 それが消えいりそうな声で鳴き続けてる。


「お前、重みがないにも程があるだろ」




(口をついて出たのはこの言葉だったって。父さんトーサンが思い出してはこう話す)



 ◇◇◇



 その後ちょーっと思案したけど、父さんトーサンは結局、僕を保護すると決めて。 首に巻いてたタオルに僕をくるんで、家まで持って帰った。


「それがドブに浸かってたも同然だったから、体中すごい色になっちゃっててな」とか、


「洗ってやれば白くなるだろうって期待して、めちゃくちゃキレイキレイしたやったんだが、結果。まさかの全身ねずみ色」とか、


「毛は長いようだけど濡れてる状態がショボイったらない。ケナガネズミって特異種か? ってな! アハハハハハ……」とかとか。



 今では笑い話にしてるけど。

 その時は鳴き声もか細くて、上手くミルクも飲めなかったし、鼻がつまって息もしづらそうにしてるし。

 育たないかも、って心配したらしい。




 数日しても弱々しい僕に、「もっとデッカクなってくれよ」 って父さんトーサンが言って、広輔コースケが「どれぐらい?」 って訊いた。


「そうだなぁ……龍くらいにだ!」


「龍ってドラゴンのことだよね? じゃあ今からお前はドラだ!」 って名前を僕にくれた。

 そして、餌やりゴハンガカリ広輔コースケの当番になった。


 いっぱい食べさせてくれて、いっぱい遊んでくれて、いっぱい撫でてくれたから。 しっぽもフサフサになったし、階段も一段とばしで昇れるようになったし。


 龍にはまだ成れないけど。 バッタには絶対に負けないほど、強くなれたのかな? って思う。




 だから僕が広輔コースケの家族になってあげるのさ!


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