『月曜日の彼女』は僕の彼女

シモルカー

第1話 僕の彼女を紹介します

 ――僕の彼女を紹介します。


 そう言ったら、嫌味に聞こえる人もいるかも知れない。

 一週間前の僕だったら、そう感じたから、よく分かる。

 

 だけど今は、違う。僕には、彼女が出来たから。

 それも、とびきり可愛い――は言い過ぎかも知れないが、いや、やっぱり可愛い。世界一可愛い。

 別にアイドルというわけでも、権力を持った生徒会に所属しているわけでも、美人だけど性格に難があるわけでも、幼馴染みというわけでもない。

 偶然、同じクラスで、席が近くて、入学当初は互いに知り合いもいなかったから、自然とよく話すようになって――その後は、互いに同性の友達も出来たけど、それでも、僕らの関係は良好だった。

 よく話す、仲のいい友達。

 それから、夏祭りや文化祭、体育祭にクリスマス……色んなイベントを共に過ごして、そしてようやく、二年生に進級して、また同じくラスになって――


 僕らは、恋人同士になれた。


 周囲からも応援されて、何度も「いけ!」と告白を責められた事が、今は懐かしい。その理由が、賭け事だった事は、後で怒ったが。


 そんな感じで、甘酸っぱい青春の一ページが、キラキラライフが、僕を待っている。いいや、僕らを待っている。


 まあ、あえて問題点があるとすれば――


「あ、風間かざま君!」


 教室の廊下を歩いていると、ちょうど今思い浮かべていた人物が駆け寄ってきた。

一色いっしきさん」

 一色七瀬ななせさん。

 女子の中でも長身に入る、細身な女子。中学時代は陸上部に入っていたらしく、他の女子生徒と比べると、身体が引き締まっている。

 彼女の知り合いに、大人っぽい身体つきの子がいるせいか、忘れがちだが、彼女もスタイルが良い。特に凹凸がはっきりしているわけではないが、スカートから伸びる長い脚はすれ違う男子生徒の目を誘惑する。

 栗色の髪から漂う甘い香りも、隣を歩く僕の頬を掠る度に香りの濃度が増している気がして――

「どうかしたの?」

「ううん、何でもない!」

 少しだけ前屈みになって、彼女が僕の顔をのぞき込んだ。

 急に距離が近くなって、つい目を逸らしてしまった。

「あっ……」

 彼女も僕の意図に気が付いたのか、照れたように笑って、少しだけ身を引いた。だけど、彼女が完全に離れる前に、僕はそっと忍ばせた手で、彼女の指先に触れた。

「……」

 言葉がなかったが、彼女は何も言わず指先を絡ませて、手を握ってくれた。

 そして、夕日に照らされる廊下を、僕らは何も言わず歩いた。

 互いに見つめ合って、微笑みあって――。


 ――あー、僕は幸せだ。


 性格は明るくて素直。問題なんてない。

 顔も可愛いし、スタイルもいい。勉強は数学が苦手みたいだけど、別に大した事はない。運動神経抜群で、体育の授業の時はみんなのヒーローだ。

 ただ、一点だけ、欠点? いや、問題点があるとすれば――


 校舎を出た後、彼女の家に近付く度、僕らの足取りは重くなった。

 ここで別れるのが寂しいから――なんて言ったら、のろけに聞こえるだろうか。

「あー、でも、もう今日も終わりか。残念だな……また、一週間後じゃないと、会えないなんて」

「うん、そうだね……」

「あのね、風間君。私は、こんなんだけど、でも、ちゃんと風間君の事が好きだから。風間君の彼女は、月曜日の私なんだから」

「うん。分かっているよ」

 顔を真っ赤にした彼女を前に、僕は立ち止まった。

 そして、彼女の目を見た。

 緊張で少しだけ潤んだ――夕日を宿した瞳。

 ああ、あの時の目だ。僕が、彼女に告白した時の瞳。

 うん、やっぱり、僕の彼女は、『月曜日の彼女』だ。

「だから、他の子達とは、その、キ、キ、キスとか、したらダメだからね?」

「な、何言っているの!? するわけないじゃん。だって、僕が、告白したのは……『月曜日の君』なんだから」


 そう、僕らは付き合っている。

 一週間前の月曜日に、僕が彼女に告白した。そして、『月曜日の彼女』はそれを受け入れてくれた。

 その時から、『月曜日の彼女』は、僕の彼女だ。

 

 ただ一点、問題があるとすれば――


「あー、もう! なんで、私……日替わりなんだろうっ……」


 彼女が、七十人格で、月曜日、火曜日、水曜日……曜日によって、全くの別人格になってしまうだけ。

 

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『月曜日の彼女』は僕の彼女 シモルカー @simotuki30

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