僕の右腕は生まれた時からサイコガンです

あq

僕の右腕は生まれた時からサイコガンです

僕は生まれた時から右腕がサイコガンだった。『コブラ』に詳しい友人にみせたところ、かなり精巧に原作通りに作られているらしくて、なんでここまで再現して左腕じゃないんだよとキレていた。

今でこそ意外と困ることは無いけれど、生まれた時は両親は大変だったらしい。僕は産まれると同時に銃刀法違反の罪を犯したので、生まれてから数時間で書類送検された。赤ん坊だったので別に裁判にかけられて前科持ちになるわけではなかったけれど、色々特殊な手続きをしなければならなかったらしい。詳細は知らないが、僕がきっかけで法改正だってされた。

キリスト教では人間は生まれながらにして罪を背負っていると考える「原罪」という概念があるらしいけど、僕のサイコガンを見てこれを感じた両親は僕をキリスト教系の幼稚園に入れた。

サイコガンは精神力を破壊エネルギーに変換して撃ち出すもので、僕も実際に発射できる。初めて発射したのはその幼稚園にいた頃で、その時はまだ本当にエネルギーが出るとは思っていなかったので銃を構えるごっこ遊びをしていて、暴発して幼稚園に併設されている教会の屋根にある十字架を思いっきり撃ち抜いた。友達に当たらなくて本当に良かったと思うけど、僕は幼稚園を退学になった。


コブラは普段サイコガンをしまって義手で生活しているみたいだけど、僕のは身体に接着しているしその上から装着できる義手なんてないから、僕はずっとサイコガン剥き出しで街を歩かなきゃいけない。嫌な目で見られるだけなら我慢できるけど、中には怖がる人だってたくさんいる。だから小学校も中学校も高校も、直接いじめられはしないけど、あんまり友達は多いほうじゃなかった。僕はそんなに気にしていないけど、父さんはこういう風に僕が他人に怖がられることをとても気にしていて、色々サイコガンについて調べてくれた。そしてこないだ、アメリカに渡ればサイコガンを切除する手術ができることを教えてくれた。サイコガンを切除して、普通の義手に代える手術だ。

この手術の話を聞いたとき、僕はとても嬉しかった。サイコガンは危険なものだから切除できないかとはずっと思っていたし、両腕が使えるようになったらどれほど自由だろうと思う。それに、サイコガンはこれから始まる就活で、あまりよく思われないかもしれない。こないだのインターンの面接だって、質問の9割はサイコガンについてだったし、結局落ちた。

それでも実は、手術は受けずにいようと思ってる。だって、サイコガンは役に立つこともたくさんあった。例えば小学生の頃、友達が車に轢かれそうになった時にタイヤをパンクさせて助けたことだってあった。僕は高校までサッカーのDFをずっとやっていたんだけれど、危ない場面になったらボールを撃ち抜いてチームを何度も勝利に導いた。サイコガンをきっかけにできた友人も山程いる。というか、サイコガンをきっかけにしないような人は僕とは友人にならない。

サイコガンを切除するということは、こういう自分も切り離してしまうことだと思う。サイコガンは確かに生まれ持った罪かもしれないけれど、僕はそれを背負った僕の方が好きだ。


あの日サイコガンで十字架を撃ち抜いたのは、偶然じゃなかったと思う。あの日僕は神を殺したんだ。最初に罪を考え出したつまらん男を。

ちなみに、僕の右腕はサイコガンだけど、『コブラ』を読んだことはない。

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