Successor Of Star -蒼星の継承者-

天乃川 昴

第1章 星は巡る

始まりの夜、運命の星が輝き出す

第1話 運命の始まり (1)

 あたかも狩人に追われる動物のように、銀色の髪とすみれ色の瞳をした少女――エメルは星守の館をひたすら走っていた。背後から断続的に聞こえてくるのは、人間が断末魔に上げる悲鳴に、物が破壊される高い音と鈍い音、そして人ではないモノが上げる恐ろしい叫び声だ。


 すぐ後ろで破壊と殺戮の嵐が吹き荒れている、人々の命が無慈悲に食い荒らされている――。エメルはそれがとても恐ろしかった。いつもと同じ穏やかな夜が訪れるはずだったのに、一瞬にして戦慄の夜に変わってしまったのだ。


 辺りを見回せば、そこはまさに地獄絵図だった。館のあちこちには、苦悶の形相で息絶えた人たちが、血の海に沈むように倒れており、そのほとんどがエメルの知っている人たちである。


 中庭で一緒に花の冠を作った侍女。こっそりと料理を味見させてくれた料理人。そしてエメルが誰よりも愛する両親と兄は――ほんの少しまえに彼女の目の前で、闇の中に引きずりこまれてしまったのだった。


 ひたすら走り続けているエメルの前に大きな扉が現れた。星の女神の似姿が彫られたこれは、エメルたち一族の者だけが入ることを許されているけれど、普段から立ち入ることを固く禁じられている扉なのだ。


 「決して中には入ってはいけない」と、エメルは常日頃から父親に厳しく言われていたけれど、逃げ道はもうここしか残されていなかった。後ろから迫り来る死の恐怖に怯えながら、父親の言いつけを破ったエメルは扉を押し開けた。


 扉を押し開けると冷たく清らかな空気がエメルを包んだ。太い柱に支えられた、円形の広間のような場所は、見上げた天井の位置がとても高く、奥へと続く道の両側には、澄んだ湧き水が静かに流れている。


 繊細な紋様で彩られた広間の中央には、天秤をかたどった台座があり、そこにはひと振りの銀色の剣が置かれていた。台座の上で静かに佇む剣は、高い天井から降り注ぐ月の光を浴びて幻想的に輝いていた。


 星形のダイヤモンドが嵌め込まれた、柄の装飾は繊細で美しく、淡い青色を帯びた銀色の刀身は、まるで星の輝きをそのまま宿したかのようだ。いま現実に起きていることも忘れて、白銀の剣の美しさに心を惹かれたエメルが、そっと手を伸ばしたときだった。

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