第240話:世界デビュー
ジョアンの言っていたことが本当かどうかを調べたり、地球では年明けを迎えたりとあれこれあって、なんだかんだであれから1ヶ月半ほどが経過していた。
大所帯になっただけあって、クリスマスと正月は凄かったな……色んな意味で。
ちなみにこの1ヶ月半で女神とやらが俺に接触してくることもなかった。
その間も<龍の巣>の攻略をちまちま進めていたのだが、現在かのダンジョンは15層に差し掛かっていて、未だにボス部屋のボの字も見えていない。
シトリーやシエルいわく、深くても20層くらいなはずだとのことだが……
攻略ペースに不自然さが出ない程度に抑えめでやっていくことを考えると、もう半月くらいは見た方が良さそうだ。
「さあお兄さま、お体を拭くのはフレアにお任せください! その代わり、フレアの体は……」
「はい」
「ああっ、お兄さまったら……」
指をパチンと鳴らして温風を吹かせ、俺とフレアの体両方を乾かす。
最近はこれくらいの簡単な魔法なら楽に行使できるようになったな。
レイさんとの稽古で泥まみれ汗まみれになったので、シャワーを浴びていたら何故かフレアが乱入してきたのだ。
タオルで拭いて拭かれてを期待していたようだが、俺が炎系統の魔法を使うだけでもそこそこ嬉しいらしいフレアの機嫌はなんとか保たれた。
朝からハッスルするのも悪くはないのだが、今日はちょっとした用事……というかイベントがある。
着替えてからリビングへ向かうと、そこにはノートパソコンを広げた知佳と綾乃が待っていた。
「準備は……できてるみたいだな」
「後はエンターキーを一度押すだけ」
知佳が人差し指を立てる。
何が、と言えば動画のアップロードだ。
今も継続的に行われているスノウたちの動画……ではなく。
ちなみに余談だが、未菜さんの順位がこの間2位へ上がっているのと、タイミング的に知佳だと思われる名前不明のアジア人が新しく98位以内にランクインしている。
知佳……はまあ時間の問題だと思っていたが、未菜さんに関してはクリスマスプレゼント……よりは少し遅れたが、プレゼントとしてガルゴさんに打ってもらったダンジョン産の素材を用いた刀をプレゼントしたので、戦力としてこれから益々期待できるだろう。
それはともかく。
「じ、自分が動画デビューすると思うと緊張するな……」
「大丈夫ですお兄さま、お兄さまのかっこよさが全世界へ周知されるのは少し不安ですが、もし万が一誹謗中傷を行うような者がいれば親族まで含めで灰にしますので!」
「……それは絶対やるなよ?」
誹謗中傷とかは特に気にしない……つもりではいるが、知佳もいる以上、そういうことをした人をマジで特定してフレアがその辺りを焼き尽くす……なんてことが絶対起きないとは言えない。
知佳とフレアがその手のことで共謀するとか考えたくないが。
下手すりゃ証拠すら残らないぞ。
「だ、大丈夫です悠真くん! そのうち慣れますから!」
「……綾乃はもう慣れたのか?」
「まあ、だいぶ……」
半ば諦めたような笑みを浮かべつつ頬をかく綾乃は、何度目かの動画の時点でゲストキャラとして動画に出演している。
それからもちらほら出ているのだが、四姉妹の中の誰とも違う属性……守ってあげたくなるような小動物感が一部の層に爆受けしているのを俺は知っている。
というか、綾乃に限らず――知佳を含め――うちに住んでいる女性陣はほぼ全員一度以上は動画に出演していたりする。
あと出ていないのはライラくらいじゃないか?
案外ルルが一度しか出演していないのに再登場を望む声が多かったり、シエルが一部界隈でカルト的な人気を得ていたりするのだが……まあそれは別の機会に話すとしよう。
「お前らは美少女だからいいかもしれないけど、俺は平凡な男だからなあ……世間様への受けが違うんだよ、受けが」
「お兄さまはイケメンです!」
「お、おう」
フレアにはフレア独自のフィルターがかかっているのだと思う。
俺の知るイケメンってのはアスカロンみたいな奴だ。
知佳が確認してくる。
「準備はできた?」
「……ああ」
「ネットの晒し者にされる覚悟は?」
「あ、ああ……?」
直前になって怖いこと言わないでほしい。
怖気づく俺に綾乃が吹き出す。
「心配しなくても大丈夫ですよ。この公開に向けて、最近はネット関連の締め上げを強くしてましたから、実のところ誹謗中傷なんかはほとんどないと思います」
「な、なるほど」
締め上げってなんのことだろう。
そういえば最近、裁判がどうとか起訴がどうとか言ってたけどその辺りの絡みだろうか。
「それじゃ投稿」
ぽちっ、と知佳がエンターキーを押すと、画面のステータスが非公開から公開に切り替わった。
「そういえば、この動画って専門のチャンネルを作ったんだよな? 最初はあまり伸びないんじゃないか?」
土曜日の朝だし。
「外国人が好きそうな編集をしたから大丈夫。あっちはちょうどそういうのが好きな人たちにとってのゴールデンタイムだし、あっちでの宣伝はもう済んでるから」
「……どいうことだ?」
「まあもう少し待てばわかる」
5分ほど待って、知佳が
先程までゼロだったものが、1、10、100……
「10万再生!?」
「……これは多いのですか?」
俺の驚きにフレアが反応する。
「お、お前らの動画の初動に比べたらしょぼいもんだけど、常識的に考えればとんでもない数字だぞ……」
「やはりお兄さまのかっこよさが……」
「……じゃなくて、知佳と綾乃の戦略の結果だよな?」
「そういうこと。動画内容も、最初の1分でドラゴンとの戦闘だから。その初動内容をあっちの最大手の掲示板にもステマしてる」
「なるほど?」
要は受けそうな内容の動画を受けそうな層に見せているということか。
しかしSNSなんかを確認してもまだ大々的に拡散されている様子はない。
それでこの伸びなのは異常だ。
「ふふ、前々から布石は打ってましたからね」
綾乃がちょっと悪そうな笑みを浮かべる。
何をどう布石していたのかは聞かないでおこう。
「ちらほら掲示板の方には感想が出てる」
そう言って知佳が別タブでその掲示板の様子を見せてくれたが……
「……スラング混じりの英語って難しいんだな」
「CGを疑ってる人が半分、本物だと受け入れてる人がもう半分。この謎の
「……早すぎないか?」
「どこの国にも行動力のあるオタクはいるから」
「……大学がバレたところで何も問題はないよな?」
「フレアたちのいる会社の社長だってことは既に動画で公開してるから、それに嫉妬した行動力のあるヤバイオタクが何かしない限りは。事前にこのことは警察に相談してあるから問題はない。他にも手は打ってある」
どうやら俺が思いつく程度の想定される被害に関しては対策しているようだ。
俺たち――妖精迷宮事務所に嫌がらせしてくる分にはなにも困らないしな。
「だいぶ盛り上がってきましたね……あ、やっぱり悠真くんがハーレムしてるんじゃないかってコメントもちらほら」
「……動画では触れてないんだよな?」
「触れるわけない」
だよね。
まあ今の所は彼らの憶測なわけだが、もしこれが事実だとバレたら色々ややこしいことになるだろうな。
「あ……」
掲示板を眺めていたフレアが何かに気付いた。
「『お前ら落ち着け、こんな冴えない小僧があんな美女たちを好きにできているわけないだろう? なにせ股間の方は世界一じゃないんだからな!』……ですって? 知佳さん、この方の特定を。住んでいる地域だけでもわかれば、そこごと炎で……」
「待て待て待て! その勘違いをしてくれてた方が俺には都合がいいんだからね!?」
ていうかフレアはこのスラングまみれの英語普通に読めるんだな。
俺もちゃんと勉強しよう。
そしてその半日後には、未菜さんや柳枝さん、ローラ……そしてフランスの<
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