生と死

遠藤良二

生と死

 俺は人を殺した。生まれてくる子を身ごもった女を。

なぜ殺したかというと強い殺意があったからだ。俺はその女と付き合っていた。どうして殺意が芽生えたかと言うと、女に男の影があったからだ。

 俺はよく思い込みが激しいと言われる。それが高じて、女は浮気をしているのだろうと思ったわけだ。だが、証拠はない。最近、女の携帯に男の名前で電話がかかってくる。それも、女が風呂に入ってる間に。女は俺にバレてないとでも思っていたのか。

 女の名前は佳織かおり、ニ十五歳。俺はファルコンという偽名でニ十七歳。ずっとこの名前で佳織に接してきた。彼女とのセックスは最高に気持ち良かった。佳織もきっと同じ思いだったろう。付き合って一ヶ月。今思えば本当に浮気をしていたのだろうか?もし、違うとすればとんでもないことを俺はしてしまった。目の前に佳織の死体がある。どうしようか。感情に任せてナイフで刺した。死体を遺棄するか、それとも正直に警察に出頭するべきか。俺は迷った挙げ句、とりあえず車のトランクに積んで置くことにした。でも、いつまでも置いておけない。佳織はいずれ腐ってしまうから。そうしたら、近所からも臭いという話が出てくるだろう。その前に実家の庭に埋めよう。実家にはもう誰も住んでいない。好都合だ。今は夜。夜中になったらトランクに積もう。


 俺は先のことを考えると笑えてきた。嘲笑だ。俺に明るい未来はない。いずれ、捕まるだろう。れまでは心のないただの肉塊になった佳織を死姦して楽しもう。頭がイカれているのは承知の上だ。


 突き刺さったナイフを抜いて患部を雑巾で拭いて、ガムテープで貼ってふさいだ。そして、俺は素っ裸になり、佳織の服も下着も脱がせ全裸にし、死姦し始めた。こんなに興奮するものなのか。生きている彼女ではここまで興奮したことはなかった。もちろん、気持ち悪いなどとは思いもしない。俺はどうかしてる。 終わったあと俺は佳織の横に寝た。ぐっすりと眠ることができた。


そうして朝を迎えた。


 夜中になり、俺は佳織を車のトランクに積んだ。ぐったりとした佳織は重かった。


 部屋のフローリングにべったりと付着した佳織の血を雑巾で拭いた。生まれてくる赤ん坊には悪いが、母になるはずだった佳織と共にあの世に行った。別に子どもなんかいらない。ギャーギャー騒いでうるさいだけだ。


 そういえば、知り合いの女に子どもができたらしい。出産祝いなんかやるものか。何が祝いだ、何もめでたくない。ひねくれていると知人は俺に言う。確かにそうかもしれない。でも、人の幸せを本気で喜ぶ奴なんかこの世にいるのか?俺はいないと思う。この、金が全ての世界に。金があれば、女だって買える。金が全ての世界だから俺は生きていける。金の為に働く。金さえあれば、他に何も要らない。愛だの恋だのそんなの馬鹿馬鹿しい。家族? 恋人? くだらねえ!そんなの偽善者の集まりだ。女なんか、ヤれればいいんだ。性欲のはけ口にしか過ぎない。


 二十七になる俺はいつからこういう人間になったのだろう。

 両親の喧嘩、あげくの果てに母が自殺。父はチンピラに因縁を付けられ殺された。俺には妹がいた。妹は知らない男に目を付けられていたようで、ある時レイプされた。あの時、俺は妹だけはかわいいと思っていた。だが、そんな妹もレイプのショックで自殺した。その辺から、俺の人柄は変わってきた気がする。暗い方の人間に。でも、別に暗くたっていいじゃないか。生きてさえいれば。何が楽しくて生きているのか分からないが。


 翌日、俺は出社した。土木作業員をしている俺は気に食わない奴が何人かいる。そいつらとは以前、喧嘩をしたことがある。今でも俺は執念深くそのことを覚えている。いつか、あいつらも抹殺してやる! ボコボコにして、謝っても許さないで殴り続けてやる!そんなことを俺は考えながら仕事をしていた。


 俺は会社で気に食わない奴を仕事が終わったあと重機などが置いてある人気のない場所に電話で呼び出した。


「お前ムカつくんだよ! いつも班長に媚び打って! 何が目的だ!」

 俺はそいつに怒鳴りつけた。すると、

「何だよ急に。お前みたいに自分の言いたいことばかり言ってる奴はわがままとしか思われないんだよ」

「なんだと? お前、やっぱり生意気な奴だったな!」

 そう言いながら俺は相手を思いっきり殴った。口から血を流しながら歯が折れたのか口から二本吐き出した。

「貴様……!」

 そう言いながら飛びかかってきた。だが、俺は高く足を上げて蹴りを入れ返り討ちにしてやった。

「アハハッ」

 と、俺はあざ笑ってやった。

「畜生! ただで済むと思うなよ!」

 男は走ってどこかへ行ってしまった。けっ! 所詮は雑魚だな。俺は、気に食わない奴をやっつけてやった気分になり、いい気持ちだ。 翌日になり俺は班長に呼び出された。

「なんすか?」

 俺は面倒くさい気分になり、ふて腐れていた。

「お前、昨日、山崎に何したか分かってるんだろうな」

「分かってますよ! ムカつくんです」

「だからといってあんなことしていいと思ってるのか! 山崎に謝れ! あいつはお前に何も危害を加えてないだろ」

 俺は苛々してきて、

「謝ればいいんでしょ! 謝らないけど! アハハッ!」

 班長は、

「お前というやつは……舐めてるな」

「俺は、こんな会社で終わる人間じゃない! 絶対、成功してみせる!」「お前……。言ったな? じゃあ、とっととこの会社辞めて好きなようにしろ!」

「今は辞めませんよ。資金を貯めるまで」

「勝手なやつめ!」

 そう言われ、俺はニヤリとした。

 俺は、

「もういいっスか?」

「好きにしろ!」

 ふふん、と鼻を鳴らした。

「班長。今日もよろしくね」

ちっ、と班長は口を鳴らした。悔しいのか。

 班長とはいえ、ただのおっさんだ。横っ腹で笑っちまう。



 佳織の死体は見つかってないだろうな。


 新しい女が欲しくなってきた。 セックスが好きな女がいいな。ナンパでもするか。そこら辺にいる女はすぐにヤらせてくれるだろう。長い付き合いなど求めていない。その日さえ良ければいい。とりあえず、仕事を終わらしてしまおう。面倒くさいが、金の為だ。


 仕事が終わった俺は、自宅に戻り埃まみれになった体をシャワーで流した。それから財布は手に持ち、スマホと煙草はジーパンのポケットにねじ込んだ。上半身は、真っ赤なTシャツを着た。俺は自分の赤い車に乗り、発車した。俺は赤が好きだ。情熱の赤。


 ナンパに繰り出して、人気の多い繁華街に来た。三人目のナンパで女が乗ってきた。化粧が濃く、まだ若い女だ。唇は真っ赤な口紅を塗り、胸が大きくウエストが引き締まっており、尻は小さめ。思わずそそられる。ヤりたい。そう思った。


 まずは夕飯を食おう。そう思い、

「バイキングに行かないか?」

 と、誘うと、

「行きたい! 奢り?」

「ああ、食わしてやる」

「やったー!」

 と、言い車に乗り込んだ。

 夕飯のあとはラブホテルに誘おうと考えている。本当は、飯など食わなくていいからさっさとヤりたい。俺の中心部分は固くなっていた。


 十五分くらい車を走らせて、有料駐車場に停めた。一時間二百円。それくらいいたら腹も膨れるだろう。その後が楽しみだ。


 思いっきりこいつの体を堪能してやる。もういい、というくらいまで攻めてやる。絶頂を何度でもさせてやる。体験したことないくらいに。


 俺はそこまで徹底的になる人間だ。何にしてもそう、徹底的。俺達は四十五分くらい食べ続けて店をあとにした。腹は満たされたので俺は女に話し掛けた。

「どこか行きたいところあるか?」

 女は言いづらそうに、

「気持ちいいこと、しよ?」

 その言葉に俺は興奮した。

「いいのか? 悶絶するぞ?」

 女は照れくさそうに、

「悶絶させて」

 そう言われて、

「よし、ラブホでめちゃくちゃにしてやる! 行くぞ!」

 女は赤面している。かわいいじゃないか!俺の女にしてやる!

「お前、かわいいから俺の女になれ!」

 と、言った。すると、

「からだの相性がよかったらなる!」

 エロい女だ。でも、こういう女は好きだ。ラブホテルに到着した。


 休憩で入り、すぐにお互い抱き合った。こんなに女を欲したのはつい最近にもあるが、今回はそれを上回る。二時間、求め合い、時間なので帰ることにした。女は、

「えー、帰るの?」

 と、残念そうにしていた。実は俺もまだ一緒にいたかった。

「泊まるか」

「えっ! いいの?」

「ああ」

 と言い、フロントに電話をして、泊まることにした。

 俺はもう一度女を抱いた。

「どうだ? 俺の女になるか?」

「……ん……なる……」

「よし! それでいい!」

 俺はその女を手に入れた。




 俺の名はファルコン。もちろん偽名だ。女にもそう言ってあるが本名を教えて欲しいとしつこく訊かれる。だが、まだ出逢ったばかりなので教える気にはならない。女の名は、律儀にも本名を教えてくれた。本沢ユリもとざわゆり。年齢まで教えてくれた。二十歳だという。多分、本当だろう。


 そろそろ車のトランクに積んである佳織の死体を実家の庭に埋めなければ。こういう場合、何時頃穴を掘ればいいのだろう。やはり、近所が寝静まった深夜か? 今日は土曜日で仕事は休み。深夜一時頃、実家に行って埋めよう。いずれは逮捕されると思われる俺は少しでも長くシャバの空気を吸いたくて悪あがきをしている。俺は自分でそう思う。


 ユリには人を殺した、ということは言っていない。それも、自分の彼女を。もし、言ったとして誰かにチクられたらすぐにムショに入る羽目になると思う。


 俺は今になって後悔している。佳織が本当に浮気しているかどうかを訊けばよかったと。後の祭りだ。


 また、ユリを抱きたくなったので俺は電話をした。

「もしもし、ユリか。今すぐ来いよ」

 少しの沈黙が訪れた。

「何だ、都合悪いのか」

「……」

「何か言えよ! 口ついてるんだからよ!」

 俺は苛々してきた。

「アタシ、ファルコンと別れる……」

 俺はユリの言っている意味が分からなかった。そして、

「何でだよ!」

「好きな人ができたの」

「ハァ? 何言ってるんだお前! 俺からそう簡単に逃げられると思うなよ!」

「……」

「ごめんなさい。アタシのことは諦めて」

 俺は彼女の言っていることが楽しくなってきた。

「諦める? 俺がいつお前に惚れてるって言った? ただの性欲のはけ口なんだよ!」

 俺は声を出して笑った。

「ひどい……」

「なんだよ、お前だって俺に抱かれたくてついてきたんだろ!? 自分だけ善人面するな!!」

 俺は怒鳴りつけた。すると、電話が切れた。すぐに掛け直した。しつこく十回くらい呼び出した。だが、ユリは出ない。自動的に留守番電話サービスに接続された。

「チッ!」

 俺は舌打ちをした。苛々が止まらないので近くにあったビールの空き瓶を適当に叩きつけた。すると、部屋の窓に当たってしまい窓ガラスが「ガシャン」という音と共に割れた。

「あちゃっ! ったく! 知らんわ!」

 そう言って俺は割れたガラスはそのままにし、ふて寝した。

 そのあとすぐにチャイムが鳴った。

「誰だよ! うぜえな!」

 と、怒鳴ると大家の声が聞こえた。

「柿下さん! いるんでしょ? ガラス割れた音が聞こえたけどどうしたの?」

 俺は仕方なく身体を起こし、玄関に出た。鍵を開けるとドアが開いた。

「はい!?」

 と、返事をした。

「柿下さん、どうしたの? 大丈夫?」

 大家はおばさんだ。

「ガラス割れちゃったじゃない」

 俺は目の前にいるおばさんを睨め付けながら、

「直しますよ、直せばいいんでしょ!」

 大家は目をくりくりさせながら俺を見て、

「業者の電話番号知ってる?」

 と、言われたので、

「知らないっすよ!」

 俺は怒鳴った。すると、大家は、

「今、連絡先教えてあげるから紙とペン貸して」

 と、俺の目をまっすぐ見詰めながら言った。

「いいですよ! 自分で調べますから!」

「ああ、そうかい! ちゃんと直してもらってよ」

 大家もついにはキレた様子で去って行った。


 どいつもこいつも苛々させやがる。


 ユリの野郎……。絶対、俺の女のままにしてやる! 逃がさない、絶対!

執念深い俺は、一度抱いた女のことは忘れたりしない。いつまでもしつこく付きまとう。蛇のような人間だと自分で思っている。


 俺をふったユリはきっと俺のもとにもどってくるだろう。そんな気がする。電話で別れ話をするのだからよほど顔を会わせたくなかったのかもしれない。要するに気まずいのだと思う。


 さっき、俺が住んでる部屋に不気味な女がやって来た。黒いぐちゃぐちゃな長髪の女。まるで生気が感じられなかった。その女が言うには、「あなたが付き合ってた若い女死ぬよ」と。俺は、は? と思わず口に出ていた。しかも、チャイムを鳴らさず、ノックだった。まるで幽霊と会話しているような気分。その場にいるけれどいないような雰囲気。「あんた誰?」と訊いたら、「あたしは名もなき女だよ」と答え、目線を下を向けて合わせようとしない。気持ちが悪いので、「帰ってくれ!」と怒鳴った。すると、俺は一瞬意識がなくなった。意識が戻った時にはその女は消えていた。一体何だったのだ、と思い身震いした。玄関には水がびっしり浸っていた。あの女、本当に幽霊なのか? 果たしてそんなものがこの世にいるのか、にわかに信じがたかった。


 俺は新しい女を探そうと思い、シャワーを浴びた後、赤いTシャツを着てジーンズを履いた。赤い愛車に乗り、いつものように繁華街に向かった。その時、俺のスマホが鳴った。相手はユリだった。やっぱり来たか、と思い電話に出た。

「もしもし、ユリか。どうしたんだ?」

『アタシの話しを聞いてくれない?』

 彼女は何だか元気がない、どうしたんだ。

「何だ、今、運転中だからあとにしてくれ」

 そう言うと、『車どっかに停めて聞いて欲しい』と泣きじゃくっているようだ。もしかして、好きな男に振られたか? 仕方ないなぁ、と思いながら繁華街の空いている駐車場に車を停めた。

「停めたぞ! どうしたんだ?」

『フラれた……』

 やっぱりか。想像通りだ。

「そんなことかと思ったよ。で、俺に何で電話してきた? 俺のこと振ったくせに」

 そう言うと、沈黙が訪れた。

『ごめんなさい……。アタシにはファルコンしかいないみたい……』

「何だよ、今更。遅いんだよ」

『……』

 ユリは黙っている。そして、

『アタシ達、やり直せない?』

 俺は、きた! と思った。

「好きにしてくれ。俺は恋愛は面倒な人間だ。ヤれればいい」

 大真面目に俺は言った。すると、

『今すぐアタシを抱いて!』

「抱くのはいいが、避妊はしないからな」

『う、うん』

「なんだよ、そう言われて怖気づいたか?」

 再び黙った。そして、

『もし、赤ちゃんできたらどうしよう……』

 ハハハッ! と俺は笑った。

「そんなこと知るかよ。おろせばいいだろ」

『何それ! 無責任!』

「そう思うなら、ヤらなきゃいいだろ。俺はそういう男だ」

『ちょっと考えさせて』

「ああ、だから好きにしろって。ただ、思うのはお前とはセックスの相性

はいい」

 そう言うと電話は切れた。俺は、ケッ! と言った。


 セックスが好きなユリは俺のアパートにやはりやって来た。来ると思ったんだ。俺は笑ってしまった。


 ユリが帰ったら佳織を埋めに行こう。あまり、うかうかもしていられない。腐ってしまう。そうなったら最悪だ。


 この前俺の家に来た幽霊みたいな女は、ユリが死ぬ、と言っていた。でも、なぜ? 本当だろうか。


 

 ユリを抱き終えた俺は彼女に、

「この前、薄気味悪い女が来てよ、お前が死ぬって言った後、姿を消したんだ」

 驚いた様子のユリは、

「えっ! 怖い。何それ」

 彼女は怯えている。

「なぁ、怖いだろ? 俺も気持ち悪いから帰れ! と言ってやったんだ。気付いたらもうそいつはいなかった。その女がいた場所が水浸しになってた」

「水? 体液ってこと?」

「分からない、雑巾で拭いたらドロドロしてた。だからバケツに水入れて外に流したんだ」

「不思議ね」

「だろ? ホラー映画みたいだ」

 ユリの表情は青ざめていた。

「これからもここに住むの?」

「住むよ。これくらいで引っ越さないよ」

「あなたって強いのね」

 オレはフンッと鼻を鳴らした。


 佳織を実家の庭に埋めなきゃ、でも、今はユリが来てるし。そこで俺は、

「なあ、ユリ。俺、ちょっと用事があるから悪いけどまた今度来てくれないか?」

 え? という表情で俺を見た。驚いたのかな。

「う、うん……。いいけど、用事が終わったらまた来ていい?」

 暇な女だな、俺以外の男はいないのか、そう思ったがさすがにそれを言う訳にはいかず、

「いいぞ」

 そう言っておいた。


 ユリが帰って俺は煙草と財布とスマホを上着とズボンのポケットに入れて家を出た。一応トランクを開けて確認した。刺殺したのは昨日。今の季節は春。北海道はまだまだ暖かいとは言えない。だから、腐ってはいない。


 実家は車で四十分くらい走ったところにある。意外と冷静な自分に驚いている。とりあえず穴だけ掘っておこう。埋めるのは予定通り夜中にする。


 トランクを閉めて、俺は車に乗り発車した。何だか雲行きが怪しい。雨でも降るのか。とりあえず、天気が夜中までもってくれると有難い。雨の中で死体を埋めるなんて嫌だ。まあ、作業する音が雨音で紛れるかもしれないが。


 国道は雪が解けて走りやすくなったお陰か交通量が多い。平均したら六十キロくらいしかスピードが出せない。それだけ混雑しているということだろう。


 実家は誰も住んでいなく、両親は俺が二十歳の頃、交通事故で即死した。その頃、俺は両親と織が悪く、行き来していなかった。そんな中の突然の死。俺はなるべく平常心を保つように我慢した。だが、通夜の晩、目からは溢れる涙が止まらなかった。周りにいた身内は俺との仲が悪いのは知っていた。それ故、涙を流している俺をみて驚いていた。


そのようなことを思い出しながら運転していた。


二階建てのそれは、いずれ解体しないといけない。その費用は一体誰が払うんだ。まさか俺か? 


既に悲しみは癒えているものの、実家に着くと否が応でも両親のことを思い出す。


 実家に到着した俺は、早速庭を掘る為に物置きに行きスコップを持って来て作業を始めた。俺が掘っている所は、ブロック塀に囲まれた箇所で結構地盤が固い。


 仕事上、スコップは使い慣れているがそれにしても固い。この辺りを水浸しにしたらどうだろう、と思いまた物置きに行ってバケツを一つ持って来て家の中に入り蛇口をひねった。だが、水が出ない。それもそうだ。この家には誰も住んでいないから役場に行って水道を止めてもらったのだ。すっかり忘れていた。


 そうだ、畳をはいでその下を掘ろう。佳織は身体が小さいので掘る面積が少なくて済むからその分楽だ。それに見つかりにくいと思うし。空き家だから尚更。


 俺は早速、部屋の一部分の畳を剥ぎその下のコンパネという板も剥がした。途端にむわっとした温かく湿った空気が上がってきた。湿気っぽい臭いもする。それを我慢しながら穴を掘り始めた。


 五十センチくらいの深さを掘った。奥行は約百六十センチくらい。幅は約五十センチ。汗だくになった。車に行き、ティッシュで汗を拭いた。


 車のトランクを開けて再度、佳織を見ながら身体を押してみた。硬い。俺は詳しいわけではないが、「死後硬直」というやつだろうか。何だか気味が悪くなってきた。ただの物体と化した佳織を早く埋めてしまいたい。家の裏口から入れれば見られる心配はないかもしれない。よし、そうしよう。


 俺は再び車の所に行き、トランクを開けた。ブルーシートに包まれた佳織を持ち上げた。ずっしりしていて重い。でも、持てない程ではない。ゆっくりと裏口から運んだ。落とさないように、ぶつけないように気を付けてはこんだ。と、その時ーーーー。

佳織の腕がぶらんと垂れ下がった。やばいと思いすぐに下した。腕が万が一ちぎれて落ちたら厄介だから。


 ブルーシートで佳織を包みなおし、俺は例の部屋まで何とか運んだ。


 そして、そろりそろりと佳織をブルーシートごと穴に入れ、完全に入ってからゆっくりとブルーシートを抜いた。それから、スコップで佳織に土をかけて、完全に埋めた。いわゆる土葬という奴。


 もし、見つかるとしてもこの家を解体する時かもしれない。いつのことやら。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生と死 遠藤良二 @endoryoji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ