398.女官達の縁故〜ルドルフside

「それよりも、あの魔光苔だが、アリー嬢に教えられた場所にはもうまともに生えていなかった。

どうやらあれから崩落がおきたみたいで、全て枯れてボロボロになっていた。

一応持ち帰ったから、後で確認してくれ」


 兄上がひとしきり笑って落ち着いたところで最後の報告をする。

ある意味視察とは名ばかりで、この苔の確認に行ったようなものだ。


 袋に入れてあるそれを渡せば、中を見て肩をすくめる。


 やはりもう使い物にはならないようだ。


「そう。

それは残念だ」


 しかし兄上は驚く事もなく、もしかしたら最初から答えはわかっていたんじゃないかと思うくらい、あっさり言ってのけた。


 多分大して残念と思っていないんだろうな。


「あの苔の成分はわかったのか?」

「あれは魔素の浄化作用があるのは間違いないんだけど、どうしてあの王女が固執しているのかまではわからない」

「イグドゥラシャ国の第1王女からも書簡が来たと聞いたが、何と?

エリュシウェルは心臓に効く薬になると言っていたらしいが····」

「珍しい苔を入手したのを小耳に挟んだから、是非とも譲って欲しい。

昔から東の諸国にある苔玉が好きで自分でも作っている、だって」

「····無理がないか?」

「元婚約者だったよしみで打ち明けるってあったよ。

手紙のやり取りをしていた時からそんな話は聞いた事がなかったんだけどね」

「兄上は何と?」

「残念ながら枯れちゃったとだけ。

元々手の平サイズも無かったし、既に絶滅したと思われていた魔光苔だからね。

そうなっても不思議じゃないよ」

「なるほど?」


 本当のところは絶対残して増やそうとしていると思うが、俺もその場所までは聞かされていない。

多分兄上の秘密の部屋で栽培しているんじゃないだろうか。


「アリー嬢は何か言ってたかい?」

「いや、何も。

ただ崩落については驚いていなかった」

「彼女もグレインビルだし、一筋縄じゃいかないよね」

「どういう意味だ?」

「恐らくアリー嬢は魔光苔を持ってるんじゃないかな?

あの子変な草集めるの好きなんでしょう?

今回本当に欲しかったのは別の物だったかもしれないけど」


 変な草····せめて食虫植物と言ってあげてくれ。


「それは····まあアリー嬢だからな。

本当に欲しかったのは食虫植物だったらしいが、それこそ藤色狐が俺の目の前でこれ見よがしにプレゼントしていた。

だが最初は首を捻っていたな」

「へえ、どうしてだい?」

「思っていた色ではなかったらしい」

「色?」

「ああ。

詳しくは教えてくれなかったが、なかなかに毒々しさを醸し出す赤黒い色とまでは思っていなかったらしい」

「ふうん、色ねえ」


 何事かを思案するが、何に思い当たったんだろうか?


「兄上?」

「ああ、何でもないよ。

ただアリー嬢の事だから、本人は気づかずにもの凄く価値のある何かを探してたかもしれないって思ってね。

本当は何色を探してたんだろうって気になったんだ。

ルドも臣籍降下していくらか自由の身なんだから、今度あの子に会ったら聞いてみてよ」

「····レイが会わせてくれればな····」

「ああ····ご愁傷様」


 兄上も察してくれたらしい。

まだレイが怒っているという事を。

気の毒そうな表情で俺を見ないでくれ。

悲しくなるじゃないか。


 アリー嬢は確かにまだ背も小さくて痩せている分、成長しているかわかりにくい。


 しかし俺はあの時、あの子なりのペースで女性として成長し、いつか開花するとわかってしまったからな。


 元々俺の恋心についてはレイに話してあるからこそ、ほとぼりが冷めるまでは近寄れないはずだ。

何年かかるんだろうか····。


「それよりもシズカ殿はここでの生活に慣れたのか?」


 気を取り直す為にも話題を近い将来、義理の姉になる女性に変える。


 兄上との関係は政略結婚を約束した仲らしい、落ち着いた、信用し合う関係のように思える。

男女の愛情は今のところ見られないのは残念だが、友愛は芽生えているように感じる。


 先のイグドゥラシャ国の王女との婚約時代よりも落ち着いて見えて、弟としては少しほっとしている。


「うん、既に王太子妃教育を始めるくらいにはね。

それこそアリー嬢のお陰じゃないかな。

思っていたよりものびのび学べているのは。

シズカの女官のうち2人はアリー嬢の計らいで彼女つきになったみたいだし」


 そう聞いて思い出すのは、ディア=タチバナとイリャス=ハヤカワだ。


 兎属のイリャスとは面識はなかったが、あのジャスパーの妹らしい。


 そしてディアは従兄だったレイにしつこくまとわりついた挙げ句に行方不明となっていた、アリー嬢にとっては血の繋がらない従姉。


 そんな2人だが、この国にとってもシズカ殿にとっても、まだ縁の薄い他国から輿入れする次期王太子妃の女官として現在の経歴で彼女達が仕えてくれるのは都合が良かった。


 2人でそれぞれが名だたる者達との縁故を持っているからだ。


 そしてその中に、我が国の防壁の要であるグレインビル侯爵家で溺愛され、本人不在のまま何かしら社交界を騒がすアリアチェリーナ=グレインビルがいるのだから。



※※※※※※※※※

お知らせ

※※※※※※※※※

いつもフォローや評価、応援ありがとうございます。

そろそろこちらの章もあと何話かで終わりとなります。

新作を投稿する予定もあって次章を投稿するのにいつもより少し長めにお休みをいただく事になるかと思いますが、エタらせる予定はないので今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る