397.爆笑する兄と役得と地獄〜ルドルフside
「くくく、あはははは!」
「兄上····」
臣籍降下したとはいえ、来年の王太子夫妻、つまりは実の兄夫妻の婚儀が終わるまでは王城で過ごす事になった。
そして俺は今、帰城して早々に兄上の執務室に呼び出されて報告を終え、爆笑されている。
「ごめん、ごめん。
でもルドの想い人の活躍が斜め方向過ぎるのが面白くて」
思わずジトリと睨めば、とても軽く謝罪をされたが、間違いなく悪いとは思っていないだろう。
「否定はしないが、笑いすぎだ」
「否定しないんだ?」
「できるはずがない」
大きくため息を吐く。
「そうだね。
ファムント領の成功の半分はアリアチェリーナ=グレインビルの功績だ。
自領の利益にする所までは予想していたけど、まさかブルグル領とコード領にまであそこまでの利益をもたらす提案をするとは思わなかった」
「本人はムササビと藤色狐のモフリ封じに落ちこんでいたけどな」
「ムササビは残念だったけど、狐はルドもほっとしたんじゃない?
それに役得だったんでしょ?
ふくく····」
「まあ、そうだが、そんなに笑わなくても····」
あそこの次期領主の恋愛対象は同性。
つまり女色家だ。
ちなみに我が国はこれといった国教はないから、隣国のような同性恋愛を罰する法律はない。
ただ貴族籍に身を置く者の婚姻は認めていない。
これは人の離別は死別だけではなく、後々後継問題が激化する危険性からだ。
「アリーにモフられて嬉しかったんでしょう?」
「モフられてはないぞ。
レイとどこぞの専属侍女に殺されそうな視線を向けられながら、少しだけ子供抱っこしただけだ」
アリーがシュレジェンナ嬢の正体に気づいた日、俺はちょうど兄上に頼まれて視察がてら第2の施設と呼ばれるリゾートホテルのレイ達が宿泊している部屋を訪れた。
『兄様の意地悪!
ちょっとくらいジェン様のブラッシングさせてくれてもいいでしょう!
ずっと黙ってたのは酷いと思うの!』
部屋に入ると珍しく兄妹喧嘩の最中だった。
『ごめんね、アリー。
ほら、僕が狐の耳と尻尾を生やしたよ?
触ってくれないの?』
『くっ····この上目遣い····』
····いや、やっぱり喧嘩じゃない。
いつも通りじゃれ合っていただけだ。
アリー嬢の可愛らしい両手がわきわきして、優しげな目元はいくらか潤んでいた。
耳と尻尾の誘惑に、既に負けているやつだ。
そう思って見ていれば、ふと可愛らしくも将来は間違いなく清楚で優しげな美女へと変身するだろう少女の紫暗とぶつかった。
『ま、負けないんだから!』
すると突然の負けん気を発揮し、兄に突進して抱きついたと思ったら今度は俺に走って····へっ?!
抱きつかれた?!
『ルドル····』
『ル····』
『ルド様!
抱っこ!』
お互い言葉の被せ合いの末、当然だが俺が負ける。
だって想い人だぞ?
自主的に抱きついてくれた事なんか過去に1度もなかった。
もちろん反射的に抱き上げるよな?!
前回のイタチ姿の時には服ごしに骨に触れて心配だったが、やっぱりかなり細い。
15才の少女がそもそも抱っこを強請るのもどうかと思うものの、10才過ぎくらいの子供と同じくらいには軽い。
が、背の低さを考えればギリギリ病的な細さではなかった事にまずは内心ほっとした。
共に誘拐された狩猟祭の時に致し方ない理由で抱きしめた事があったが、あの時より成長はしているようだ。
高く抱え過ぎたのか、頬に胸が当たって女性としても少しばかりの成長を感じ····。
『ルドルフ殿下ぁ?』
『?!』
殺気だ。
ドスを利かせてわざとらしく殿下呼びするレイの殺気が、過去最高値に達する非常事態だ。
そして同じく殺気がもう1つ部屋の隅から····アリー嬢の専属侍女にして、A級冒険者のニーアだ。
もう殿下ではないんだが、などと突っ込む気力は正直霧散した。
まずい、夢見心地のまま殺される。
『アリー?
降りなさい』
『嫌!
あ····重いですか?』
兄は機嫌を損ねたらしくその要望を素気なく却下しながらも、俺への気遣いをするとか、何だよこの可愛いの権化は。
『全く』
うっかりキリッとした顔で返答してしまった。
レイの殺気は····駄目だ。
気づかなかった事にできないくらい、それはもう殺気立っている。
そして気づけば俺には髪と同じく黒い耳と尻尾が生やされていた。
いつの間に?!
しかも俺の頭と尻にこれまで見せた事のない熱い視線が?!
『黒いお狐様····素敵』
何だ、その愛の告白?!
『ルド、違うから』
何故わかった?!
レイは心が読めたのか?!
しかも心臓が凍りつくかと思うくらいに声、冷た!!
アリー嬢の体がむしろ熱く感じ····いや、熱い?!
『アリー嬢?』
『んふふー。
はぁ、お耳····』
顔が幾らか赤く、目が潤んでいる?!
めちゃくちゃ色っぽいが、これ、異常だ····。
『んふふー····はぁ····はぁ、ん、尻尾』
どことなく体を揺らして少しずつ俺の肩にしなだれかかり、くてりと力が抜けた。
そしてはた、と気づく。
俺は今、最恐への最強にして唯一の盾を失ったのだと。
その後、想い人は即返還させられ、俺は訓練という名の地獄のしごきを受ける事となった。
そこにどこぞの専属侍女と、どこぞの馬3頭。
更には途中から薄紫の狐が加わったのは解せない。
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