376.空中からのお湯
カカカッ。
「ア〜ホ〜!」
カカカッ。
「ア〜ホ〜!」
カカカッ。
ピシッ····。
「ア〜ホ〜!」
····さっきからエンドレスだ。
ちなみに間にはバサッ、バサッという羽の音も入っている。
眼下に広がる猛スピードで移ろいまくってる景色はなかなかに圧巻だ。
どうでもいいけど、進行方向に対して僕の体は横に向いててちょっと酔いそう。
後もう少しこの方向に飛んで行くなら、あの大衆浴場すらも通り越してしまうんじゃなたいだろうか。
ムササビ滑空では体験できない体感速度だ。
それはそうだろう。
僕はカラスに鷲掴みにされて絶賛空のお散歩中。
しかもこの世界のカラスはあちらの世界のカラスの2倍。
飛ぶ速度もあちらよりずっと早いんじゃないかな?
少なくとも日本の高速道路で窓を全開にして走った時くらいの体感速度があるよ。
空中散歩というよりは、むしろスカイダイビングに近い。
そんなカラスはバサバサ飛びながらカカカッ、と大きな
何回か頭をパクッと咥えようとしようとしたけど、その度に絶対ガード君(改)から障壁みたいなのが出て防いでくれてからは、つつくのみになった。
で、つついて食べられないと、ア〜ホ〜と鳴いて文句を言う。
コイツ、絶対解ってて言ってるな。
失礼な奴だ。
さすがに何回も言われたら、動物全般が大好きな僕でも、ちょっと怒っちゃうぞ。
しかもまたムササビ飛行中のアクシデントときた。
ニーアとさっさと合流してこの件を闇に葬らないと、また義父様に滑空デビューを延ばされてしまうじゃないか。
ニーアはお馬の末っ子と追いかけて来てくれてるはずだけど、障害物のない空を飛ぶカラスに追いつくのは無理だろう。
それにしてもこの魔具、鷲掴みにされた時にどうして作動しなかったのかな?
まああの時、鋭い爪が体に食いこむのは防いでくれてるんだけどね····。
何なら今も防いでくれてて、地味に魔石に込めてる魔力を消耗していってるんだけどね····。
お陰で何回かに1回、ピシッという魔具のヒビ割れの音がしてて、ちょっとずつ大きくなってるんだけどね····。
「····普通にヤバいよね?!」
これはどうにかして僕を鷲掴みにしてるこの足を外さないと、そのうち魔具が割れて爪が刺さる。
ついでにダイレクトにつつかれる。
リュックの中からバッチ来い電撃君(改)を取り出したいけど····でもそうするとこのカラスが怪我しちゃうからなるべくは····。
カカカッ。
ピシッ····。
「ア〜ホ〜!」
ムカムカッ!
ふふふ、うっかりムカムカしちゃったよ。
よし、バッチ来い電撃君(改)に頑張ってもらおうじゃないか!
幸い僕の体とカラスの手の平····足の平とでも言うのかな?
その間には巾着リュックが挟まってて、僕自身も体毛がある。
魔具も作動中だから多少のたわみみたいなもので、掴まれた足から逃げられる程じゃなくても、身をよじって巾着袋に手を突っこむくらいはできそうなんだ。
それに今まで僕は比較的大人しく鷲掴みされてるからね。
今なら、このアホを連呼しまくるムカつくカラスは油断しているに違いない!
フン、と鼻息も荒く覚悟を決めた僕はタイミングを計る····。
カカカッ。
「ア〜ホ〜!」
今だ!!
体を勢い良く捻り、巾着を抱えるような格好でその口にスボッと手を突っこんだ!
「これだぁ〜!!」
硬い感触を確かめながら引き抜けば····。
パチィン。
「カァッ」
ちょっとだけ、今度こそカラスっぽく鳴いて電撃がカラスに伝わり足の力が緩んだ!
パキン····。
ついでに僕を守ってくれてた絶対ガード君(改)の魔石も割れた。
もう1度口に手を突っこんで魔具を手放してから、すぐに巾着をしっかり抱え直す。
落下していくカラスの足の平を蹴りつつ、身をよじって脱出!
空中で体をくねらせながらリュックの紐を肩に装着し直すという神技を人知れず披露したところで、バッと飛膜を広げた。
予想通り空気抵抗を感じる。
改めて地上を確認したところで····。
「へ?」
一瞬では理解できない状況に間抜けな声が口から漏れ····。
バチャーン!!
どこかの川の水面に、飛びこみに失敗する最たるフォームで、盛大に顔面と腹から突っこんだ。
全く意図してなくて、それも数秒は飛膜でスピードを落とせたにしても、派手に体のあらゆる急所を打ちつける。
色々な意味で衝撃の展開に、息を止めることすら忘れて吸いこんでしまった。
当然、口からも鼻からも水が入り、気管に直行。
しかも水じゃない····お湯?!
思わずもがけば、リュックの肩紐が変に絡まってどんどん水底ならぬ、お湯底に沈んでいく。
何なの?!
どこなの?!
どんな状況?!
息を止めなきゃいけないのに、気管に入ったお湯に咳きこんで更にお湯を飲みこむ。
そのせいで意識が一気にかすんでいく。
嘘でしょう····こんな死に方····あんまりだ····。
········こんな時に何で俳句調····日本人か····。
と、誰にともなくノリツッコミしたところで、何かが不自然に迫ってきたのをお湯の流れで感じた。
目を開ければ、ぼやけた視界に2本の····木?
木が縦に2つ迫ってきたのを認識した瞬間、これが最期のチャンスとばかりにしがみつき、爪を立てて水面に向かって全力でよじ登った。
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