372.魅了魔法と魅縛魔法
(ま、そんなのもう僕の中で答えは出てるけど)
今は声を出せないから、胸の内に言葉を留める。
『君はある程度には
僕の言葉で愚かな同胞
君が気づいた事に彼等も気づいたら、果たしてあの卑怯な同胞は放置するのかな?
選ぶのはどちらだろう。
ねえ?
愚かな坊や?』
あの時はいい加減手術に乱入しそうだったし、僕を僕の優しい家族と同列に扱ってまで挑発してくるのが鬱陶しかったからそんな風に言ったけど、あの王太子は気づいたかな?
これは家族にすら教えてないし、相手の度が過ぎなければ誰かに言うつもりはない。
そもそも僕が
この両眼って便利なんだけど時々勝手に発動しちゃうのがたまに傷だよね。
そもそも僕はとっくに御役御免したんだもの。
表立って関わりたくなんてない。
僕の望みは、大事なあの子を見つけて、家族と一緒にただのんびりスローライフを送る事だもの。
できれば今度はまともに寿命分くらいは生きたいし、誰かを遺して突然逝ったりは2度としたくない。
それよりも····。
そっと右目の魔眼を発動させる。
予想通り第3王子の胸元には赤い魔法陣が浮かんでいた。
アレから発せられる黒い魔力が少しずつ注がれている。
魔法陣からは棘の付いた蔦が出ていて、彼の全身に絡みつこうとしていた。
子分の方も同じだ。
だけど子分の方がいくらか蛍光ピンクが混ざっている。
僕の魔眼が特別製だから僕にはそれが視覚化して見えてるけど、あれはかなり高ランクの精度を維持した鑑定魔法でも発見するのは難しい。
悪魔が使う原初に近いとされる魅了魔法だからね。
でも
だからかな?
昨日あの王子が無駄に感情的にチンピラ化してたり、子分も····うーん、子分は普段がわからないけど、多分2人共性格に関して評判悪くてはっちゃけてるらしいのって、無意識に魅了魔法に逆らおうとしてる副作用もあると思うんだ。
子分の方の進行が明らかに遅そうなのは、あの王子のヤキモチが酷いって艶女のレイチェル様が言ってたから、そういう体で自分以外をアレになるべく近づけないせい?
だとすると、そこは腐っても巨乳美女の
実際いくらかは体内で彼の魔力が魔法陣を打ち消そうともしてるし。
あの微々たる····うーん····微妙に?光って魔法陣や棘の進行を妨げようと頑張ってるのが多分そう····うん、多分?
もし浮かんでるあの魔法陣と蔦が全て赤黒く変色して体の深部まで食い込んで蔦が全身に絡まりきれば、魅了魔法が魅縛魔法に移行されてしまうんだ。
もしそうなれば、死ぬまで魔法は解けない。
ふぅ、とため息が出る。
····ああ········嫌だな····点と点が繋がっていく。
結局僕にとって全ての元凶はアレなのか。
僕が何百年か苦しんだのも、あの子を奪われたのも、ここ数年で時々顔を合わす事になった誘拐犯達の目的が僕になったのも、そこの2人の面倒そうな状況も····。
恐らくあの王子はアレの正体が決して良くはない事も、興味が僕に、というかアリアチェリーナ=グレインビルに向いている事も本能的に理解している。
魅了されていてもどこかで抵抗はしてて、そのせいで元々あった性格の歪みが更に酷くなってるのかもしれない。
まあ何年か前に初めて商業祭で彼に会った時もカツアゲされそうになったんだから、元々がそこそこ歪んでたのは否定しないけど。
そうだね。
だからあの時僕が誰だか気づいてより一層攻撃的になったかと思ったら、アレが登場した途端に平民だと言って僕を隠した。
だって魅了してるはずのアレの目的の1つが僕だとしたら、彼の行動は矛盾してる。
普通なら喜んで僕を差し出したはずだ。
ごめんね、君のちっちゃいプライドだけではなかったんだね····多分だけど。
何故かこの領で無駄に悪目立ちしているのも、ある意味アレへの無意識の抵抗なのかな?
『····ああ····いや、そうか、シェリの言う通りだ。
シェリ····可愛く賢い····俺の姫』
『ああ····シェリは····優しいですね』
あの時の熱に浮かされたような、ぼうっとした声から察するに、時々2人が言う事を聞かない時、アレは魔法陣に送ってる魔力を一時的に増やして魅了の力を強くしてる。
とはいえ常にそうしないのは、むしろそうできないだけ。
原初の魅了魔法を魅縛魔法へと移行させるには、ゆっくりと時間をかけて棘を深く打ちこみながら縛っていかなくちゃいけないんだ。
他人の精神を完全に支配するからね。
それだけ時間と手間がかかるものなんだよ。
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