371.禁書
「どっちにしようかな」
なんて言いつつ首にかけた巾着から3種の神器、タマシロ君を首に引っかけて、誰もいないのをいいことにサッと服を脱いだらパパッと畳んで服を収納する。
もちろんポケットの中の絶対ガード君(改)は巾着につけておく。
ムササビ姿で怪我した時のような事は2度とごめんだもの。
ちなみにカボチャパンツは成人したから卒業したよ。
今は普通の三角パンツと毛糸のパンツで防御力を保ってるんだ。
ムササビになる時はトントントンとペンダントトップ3回タップだけど····よし、今回はトン、トトトンとタップ。
少し迷ったけど、白いイタチに変身だ。
白い獣になってしまえば、夜じゃないけど夜目が利くようになるから、この暗がりでもある程度見えてきた。
そういえば獣姿の時は声帯もそれのはずなのに人語を話せるって毎回不思議になるんだけど、まあここは魔法の世界だものね。
いつもの着ぐるみは····着てる暇は無さそうだ。
もうすぐそこまで来ているもの。
最後に巾着をリュックにしたら、壁に体を寄せる。
こうしておけば、巾着リュックの認識阻害機能で気づかれないはず。
でもふと顔を上げると、ちょうど岩の出っ張りが見えた。
2つの道が交差してる真上くらいだ。
その周辺を観察すれば····登れそう?
若い男女の声が近づいてくるけど、チャレンジする時間くらいはあるよね。
「やってみよう」
そう言って気合いを入れる。
少し助走をつけて岩の窪みや小さな出っ張りを掴んだり、足場にしたりして····よしよし、登れたぞ。
イタチ姿の時は身が軽いし柔軟性が高いからか、ジャンプしたり跳び移ったりするのには適してるんだ。
見ると僕が踏んづけた苔だけじゃなくて、他の苔も連鎖したようになって淡い光が四方に散る。
········わわ、消えてくれないと僕がいるってバレて····ほっ、消えてくれた。
何だろう?
空気の振動とかでも光るのかな?
なんて考えてたら眼下に魔法で作った明かりの玉が2つに、山吹色と橙色の頭が現れた。
ぎりぎり消えるの間に合って良かった。
けど、あの2人って····。
少し身を乗り出した途端、数歩遅れて明かりと見覚えのある····
ソレは腰までの長さの····珊瑚色の髪····。
僕のいる場所からだと頭しか見えないけど····。
「コッへ、本当にここにあったの?」
涼やかな、鈴のような、耳ざわりだけは優しげな声音に、また心臓が昨日と同じように、ドクリと不穏な音を立てる。
また····全身が粟立つ。
けれど一瞬ふわりと僕のイタチなお髭が風に揺れたのを感じて、我に返る。
そうだ、今の僕は····1人じゃなかった。
静かに大きく深呼吸して、心を落ち着けたら耳をすます。
「はい、確かに苔が光っていたんですが····」
「明るいからわからないのかしら?」
そう言うとアレは明かりの玉を消して、ちょうど僕が光らせたあたりの苔をツンツンする。
すると他の2人も明かりを消して真っ暗になったけど、やっぱり苔は光らない。
僕が先にこの辺りの苔を光らせてしまってたんだから、当然だ。
「光らないぞ、コッへ」
「おかしいですね。
確かに明かりを消すと薄い緑色に光ったように見えたんですが····」
「お前の見間違いだろう。
そもそも光る苔などシェリに聞かされるまで耳にした事もなかったんだからな。
この国の王城の書庫の中でも禁書庫にあった図鑑くらいにしか載ってないのだろう?
既に絶えてるんじゃないのか」
あれ、待って、何だか気になるワードが飛び出したぞ?
禁書庫?
まさかとは思うけど、義父様や義兄様が映像で見せてくれてたのって禁書指定されてたやつなんじゃ?!
そういえば他にも【丸秘毒殺用猛毒キノコ図鑑】とか、【投げつければ対象を暗殺できる魔魚大全集】とか、内容もネーミングセンスもやばい類のもあったような?
え、うちの家族何してんの?!
僕、内容全部覚えてるんだけど?!
「それよりもシェリ、本当に光る苔は心臓の気つけ薬になるのか?」
「ええ、そのはずよ、エリュウ。
かなり昔だけど、光る苔を乾燥させて煎じたら発作が治まるって聞いたの」
心臓の薬?
あの苔が?
あの図鑑にはそんなの載って無かったけど、他のに載ってたのかな?
それとも····アレが知ったのは、もっと
それよりもどうして禁書庫にあるって知ってるんだろ?
口調からして、あの王子は内容を知らない。
僕の見た図鑑にも心臓の薬なんてフレーズは少しも書かれてないし、義母様が心臓病で倒れた時に王宮の医師を寄越したくらいだ。
恐らく禁書庫のどこにもそんな事を書いた書物はないはずだ。
だってもしこの国の王妃や王太子が知ってたら、生きていれば義母様本人に、亡くなっていても義父様、義兄様達に知らせないとは思えない。
とすれば他国の王女であるアレが禁書庫に立ち入ったか、僕のように映像を見せてくれたか。
問題は誰がそれを手引きしたかだ····。
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