366.今日のお宿は内風呂付き、からの寝落ち
「ではこれで失礼致しますわ」
ひと通り説明を終えたから、部屋から出ようと断りを入れる。
「ああ、待ってちょうだい。
今日はもう遅いから、他の方々と一緒にこちらに泊まるといいわ」
「まあ、こちらに?」
ジェン様からは何も聞いてなかったんだけど、いいのかな?
確かに囲碁を打ってたから、当初の予定よりも大幅に時間はロスしてる。
随分と遅くなってしまったけど、従兄様達の積もるお話もさすがに終わってるよね?
この建物はほぼ完成しているし、従業員的な問題さえ無ければ泊まる事自体は可能だよ。
レイチェル様にお願いしてる従業員教育が終わる頃には、この建物も完全に運営できるようになってるんじゃないかな。
僕には侍従長のセバスチャンとできる専属侍女のニーアがついてるから、そもそも従業員なんていなくてもいいんだ。
従兄様もコード令息も1人で大抵の事はできるし、むしろ今晩は1人で色々振り返りたくなってるかもしれないね。
「ここの主にはあなたとの時間が長くなるようなら泊まるように伝えて欲しいと言われていたの。
あなたに事前に知らせておくのが間に合わなかったのを気にしてらしたわ。
私がいずれここに来る事は先に伝えていても、それが今日だというのは防犯状の理由でぎりぎりまで伝えていなかったから、許してちょうだいね」
「左様でしたのね。
わかりましたわ」
「あなた、そういう事だから先に伝えに言ってちょうだい」
「かしこまりました」
アジアンビューティーな1人が姫様に言われるままに、さっと部屋を出る。
「それから申し訳ないけれど、ブルグル嬢は残っていただけるかしら。
今後の予定を少し話したいの」
「承りましたわ。
アリー、あなたは今日泊まるお部屋に案内していただいて?」
「わかりましたわ」
多分さっきのレイヤード義兄様と誰かがここに来る話があったからかな?
きっといつとは言わないまでも姫様がここに来るって決めた事自体が比較的急だったと思うんだ。
なのに今日ここに来たタイミングで僕が隣国の第3王子とアレに会ったから、多分姫様側も警戒して打ち合わせをし直すんだろうね。
婚約式とお披露目は来月だよ。
多分数日以内に、ギディアス様の婚約者である姫様の情報規制は解かれる。
婚約式の立ち会いは公爵位を賜って10年以上の当主か当主代理のみ。
お披露目を兼ねた夜会は侯爵位以上の、いわゆる高位貴族が招待されるって聞いた。
もちろんジャガンダ国から招かれる来賓はもっと少ないけど、姫様の血縁者として叔母で国主の妹にあたる人が来賓にいるんだって。
実は姫様がこの国に内密に入国してからは数ヶ月経ってるはずだけど、女官の教育は後ろ盾の僕があの2人と直接会って、祝辞を述べた時点で完了したんじゃないかな。
姫様と最側近と呼ぶべき少数の女官さん達がこの数ヶ月どこで過ごしてたのかは僕は知らないよ。
知るつもりもなかったから何もしてないけど、きっと調べようとしても姫様の叔母にあたる人がくせ者過ぎて、足取りは追えなかったと思う。
義兄様達は立場的に把握してたかもしれないけど僕には一々教えないし、言われても困るから聞いてない。
姫様一行が王都のお城に入城する時にはジャガンダ国の来賓の人達に紛れるんだろうけど、それまではしっかりと何回でも気を引き締め直して確認すればいいと思うんだ。
安全第一だよ。
ただ第3王子とアレ自体は姫様が警戒する必要は多分ない。
段々とそんな気がしてきてる。
「お送り致します」
「よろしくお願いしますわ」
行きのアジアンビューティーな女官さんがすっと近づいてくる。
動きも洗練されたスマートさがあって美しいね。
促されるまま、僕は本日宿泊するお部屋へと向かへば、何だか見覚えがあるぞ?
「ここって····」
「ご存知でしたか?」
「ええ。
この建物の中で最初にできた小さな露天風呂付きのお部屋ですわ」
中に入れば自動点灯で明かりがつき、見覚えのあるお風呂が向こうに見える。
「あちらに見えているお風呂に入らせていただきましたのよ」
そう、1番初めにモデル的に作られたお風呂で、僕が正真正銘の1番風呂を堪能した和風な貸し切り風家族風呂のついたお部屋だ。
あの時よりも調度品が増えてて、貴族がお泊りするお部屋に相応しく整えられている。
ふふふ、今日のお宿は内風呂付きだね!
なんて思ってテンションが爆上がりしていれば、お部屋をノックする音がした。
女官さんがドアを開ければ、セバスチャンとニーアが失礼しますと入ってくる。
「それでは私はこれで」
「ええ、ご苦労様でした」
ちゃんと約束を守って僕を無事送り届けた女官さんに、セバスチャンが労いの言葉をかけるとそのまま出て行った。
「お嬢様、露天風呂に入浴してからお休みになられますか?」
「うん。
ニーアは準備してくれる?」
「かしこまりました」
ニーアとセバスチャンが多分備えつけの諸々を確認しに奥に行き、準備を始める。
僕はテーブルに座って髪留めを外す。
疲れたんだろうね。
ちょっと頭が重くなってたんだ。
「どうぞ」
と思ったら、セバスチャンが冷たいお水の入ったコップを差し出してくれた。
侍従長だけあって気が利くよね。
今度はいつの間にか手にしたブラシで僕の髪をとかしてくれるんだもの。
そして従兄様達の様子を聞いてから、僕は露天風呂を堪能しながらそのまま寝落ちしたらしい。
目が覚めたのは朝方だった。
溺死してなくて良かった。
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