365.貴族って立場は本当に面倒

「それでは魔具の説明を致しますね」


 姫様の言葉に従兄様達の存在を思い出し、すぐに説明を始める。


「それは内からも外からも攻撃をガードしてくれますの。

なので目に見えるありきたりな物理的攻撃はもちろん、例えば魅了系なんかの精神に作用する魔法も防ぎましてよ。

それ自体に目隠し効果があるので、魔具の使用設定をした人以外にはつけていても基本的には見えませんわ」

「1つの魔具に、そんなに効果を付与できるなんて。

あなたのお兄様は確かに魔具作りのセンスがある天才なのね」


 むふふ、そうでしょう、そうでしょうとも!

僕の義兄様は素晴らしいからね!


 思わず鼻高々にふんふんと頷いちゃうよ。


「このレベルの魔具は国宝級よ?

値段なんかつけられない代物でしょうね。

きっと国家予算数年分を出しても買う人は買うわ。

本当にいただいても良いのかしら?」


 何だかとっても困惑されてしまってる?

国宝級なんて言われるとちょっぴり驚いちゃうけど、うちのレイヤード義兄様が作る物ならあり得るよね。


「もちろん。

お祝いですもの。

王太子妃となられる方への自衛の手段はどれだけお持ちになっても持ちすぎなどということはございませんわ」

「それなら有り難く受け取るわ。

あなたのお兄様にもお礼を伝えておいていただける?

といっても急きょ妹に会いにこちらに来ると聞いたのだけれど」

「予定ではもう少しかかると聞いてましたのに、早まりましたのね?」


 最近レイヤード義兄様はルドルフ王子と行動を一緒にしてるからかな?

この2人がそう言うのは。


 姫様はもちろんだけど、レイチェル様は今、ジャガンダ国側の女官達にこの国の作法を教える役を担っていて、この国の王族との予定もいくらか把握してるんだ。


 姫様自身は正式に婚約式を済ませれば、半年くらいかけて王太子妃教育で基本的な事はみっちり学ぶんだけど、お付きの女官達は違う。

彼女達は誰も手を貸さないと、ほぼ独学で学ぶはめになる。


 アドライド国側も王太子妃付きの女官は用意するから、ある意味学ばなくても問題はない。


 でもこの婚約からの婚姻は、互いにとっての遠国にあたる両国の結びつきを強くする為のものなんだ。

さっき姫様も言ってたよね?


 ジャガンダ国からも女官を連れて来る事は、その為の必然でもある。


 だからこそ、多分兎属のあの子と従姉様も女官に選ばれた。

偶然だけどこの国の辺境侯爵家の娘である僕の隠れた後ろ盾を持つし、どちらの国の人間にもなり得るから。


 まあ兎属の子は隣国出身だけど、お兄さんはその隣国の第1王子の側近がほぼ確定してる候補者だからね。

隣国の王太子には、このままなら第1王子が選ばれるとの見解が濃厚だ。


 まあだからカイヤさんからジャガンダ国の女官の教育について相談を受けた僕は、レイチェル様に話を通した。

彼女をファムント領民の学園云々でここに呼んだ隠れた狙いの1つだね。


 公表間近な今だからこそ関係各所への他言は黙認してもらえるけど、少なくともジェン様達との女子会の時点では、正式に承諾してもらえてなかったからレイチェル様にすら他言は許されなかったんだ。

ジェン様絡みで呼び出せたのは渡りに船だったよ。


 ジャガンダ国のカイヤさんとアドライド国のレイチェル様にそこまで深い商売としての交流はなかったから、貴族である僕の中継ぎは必要だったんだ。

主にお互いの国への信用度的な意味でね。


 何せ他国の王族の輿入れについてくる女官の教育だもの。


 国が直接的に絡むせいで商人の個人的なお付き合いなんかでは、例え女官の教育係であっても推挙できない。


 それに女官の彼女達は、ジャガンダ国の高位貴族でしょう?

こちらもそれなりに格式がある高位貴族の家柄で、かつ社交界でのマナーにも精通してないと務められない。


 こういう時の貴族って立場は本当に面倒だよね。


 余談だけど、だから非公式でもさっき僕が臣下の礼をもって姫様に祝辞を述べるのには少なからずの意味があるんだ。


 もちろん義父様には先にそうなる可能性は話してたし、許可も取ってるよ。

でなければ辺境侯爵家の家名の入ったフルネームで他国の王族に臣下の礼を取ったりはしない。


 少なくともこれでグレインビル侯爵家と敵対したくない多くの派閥は姫様を表立っては王太子妃として受け入れる。


 そして他ならぬ僕がそうしたからこそ、女官も含めた姫様側もこの国で立場に相応しい言動を心がけなければならなくなった。


 ジャガンダ国の東の商会のカイヤ会長は本来それだけのを持った人で、その人にお願いされるくらい親交を持つのが僕だからね。


「ふふふ、今日何かあったのでしょう?

それをたまたま聞いて色々と心配した方がすぐにでもこちらに来ようとしたから、その方に付き合って来るそうよ」

「左様ですの?」


 従兄様が僕の家族にあの一件を通信用魔具で伝えたのは予想済みだ。

自分でも様子がおかしかったと思うもの。


 でも誰の事だろ?

レイヤード義兄様と一緒ならルドルフ王子?

でもあの第3王子が絡んでるから、ゼストゥウェル王子かな?


 うーん····ま、どっちでもいっか。


 大好きなレイヤード義兄様が来る。

これが僕には1番大事だもの。

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