302.あんな顔はさせたくない〜ルドルフside

「まったく、気を抜くなって言ってあったよね。

あの魔具と僕がいなかったら、今頃本当にバラバラになってたよ!」

「す、すまない····」


 そうだった。


 レイの珍しく声を荒げる様子からも如何に危なかったかを感じ、起こり得た可能性にぞっとする。


 レイはそんな俺に呆れたようにため息をついた。


「それで?

転移直前に僕の可愛いアリーでも思い出してた?

今日は墓参りと花見をするって言ってたからね。

さっきまでそこに僕の可愛いアリーがいたんじゃない?」

「す、鋭い····い、いやそうなんだが、そうじゃないというか····」


 ギロリと睨みつけられる。


 過去最高に怒らせたのは間違いないが、今回は俺が悪すぎる。


 だがこんなに怒るって事は、心配してくれたという事だよな。


 そう思うとちょっと嬉しいのは墓まで持っていく秘密にしよう。

バレたら今すぐ墓に直行させられそうだ。


「その、氷熊の燻製肉をまた食べたいとか思ったらうっかり····」

「え、燻製肉で死にかけたわけ。

まあ僕の可愛いアリーの作る燻製肉は絶品だけど」


 途端に呆れられた。

少しは怒りが治まったようで良かった。


「レイ。

アリー嬢は····」

「ルドルフ」


 遮るように名を呼ばれて思わず口を閉じた。


「何を見たのか、聞いたのかは聞かない。

君は自分がやるべき事をまずやるんじゃないのか?

僕につまらない事で排除されたくはないだろう」


 ビリッとした殺気を感じ、体を竦ませる。

知り合って初めて向けられた····正真正銘の殺意に、レイヤード=グレインビルの本気を知る。


 これが、A級冒険者としてのレイヤード=グレインビルの顔。

俺が手にしなければならない実力。


 そして勘違いに気づく。


 俺はA級冒険者になりたいわけじゃなかった。

目の前のこの男の強さに憧れていたんだ。


 けれど今は、今だけは憧れるこの男には負けられない、気持ちだけは負けてはいけないんだと何故か直感した。


 大きく一呼吸する。


「レイヤード、アリアチェリーナは最後に寂しそうな顔をしたんだ。

幼子おさなごが置いてけぼりにされたような、本当に、寂しそうだった。

俺は····あんな顔はさせたくない。

そう思った」

「そう。

····それは覚悟が決まったって事?」


 ついさっき感じて、刹那的に思った事を逡巡し、今度こそ自覚した事に覚悟する。


「ああ。

レイの言う通り、俺はまだまだ子供だったみたいだ。

やっと自覚した。

だが、まずはやるべき事をやる。

レイヤード=グレインビルに並ぶのはそれからだ。

だがいつかはレイに認められるように越える。

ずっと中途半端な気持ちでレイの妹に関わろうとして悪かった」


 すうっ、と息を吸う。


「俺はアリアチェリーナ=グレインビルを幸せにしたい。

寄り添って、少なくともあんな顔はさない」

「そう。

僕の可愛いアリーには秘密がたくさんあるけど、君では抱えきれない秘密かもしれない。

それでも?」


 レイはずっと俺の目を見ている。

下手な事を言えば、恐らく無事ではすまない。


「ああ。

きっととんでもない秘密なのだけは直感してる。

もちろん俺もあの子に寄り添うのを許されるくらい色々と強くならなければいけないだろう。

だけど、きっと俺1人じゃ無理だ。

それくらい大きな秘密と····孤独を抱えていると感じている」

「最初から諦めてるなら····」

「だが俺も、あの子も1人じゃないだろう?」


 きっとこの自覚した想いごと諦めろと続くだろうレイの言葉を今度は俺が遮った。


「····初めから誰かを頼るって事?」

「ああ、頼る。

ヒュイルグ国であの子を守る者の1人になるつもりだと言ったが、そもそもが1人では無理なんだと思う。

きっと俺だけが頑張っても限界があって、結局あの子を傷つける。

それに俺はレイ達みたいに頭も回らないし、俺1人であの子の寂しさを埋める事はできない気がするんだ。

父や兄であるグレインビルの男達がいてもあんな顔をしてしまうくらい、きっとあの子の中の孤独は深くて、恐らく喪った誰かを深く想い続けている。

その人達の身代わりを望めないくらい不器用に、強く深く」

「····そうかもしれないね」

「そんな不器用な所も含めて、アリアチェリーナという存在が特別で、愛おしいんだ。

それにレイは言っていた。

本当にあの子が愛しているのは母であるミレーネ夫人だけだと。

自分達は母の夫や息子だから愛してくれていると。

でも違うと思うんだ」

「違う?」

「ああ。

最初はそうだったかもしれないが、今は家族としてちゃんとレイ達を愛している。

さっき、ルナチェリアが自分と家族を繋げてくれた、ありがとうと言っていたんだ。

そんなの、レイ達自身に愛情を持ってなければ出てこない言葉だろう」

「····そう。

そんな事を····」


 俺を見定める赤い目に感情の揺れが少し窺えた。



※※※※※※※※※

後書き

※※※※※※※※※

いつもご覧下さりありがとうございます。

応援や評価して下さった方には感謝しています。

お陰様で、やっとルドルフが自覚するに至りました。

※注意※

ルドルフとくっつくかは今のところ作者にもわかりません。

自覚するのまだもう少し先の予定でしたし、アリーを落とすにはルドルフの不憫さを歯牙にもかけない最恐の壁、魔王ヘルトがいます。


明日投稿するお話でこの章も完結します。

話を少しばかり動かそうとしたら、思ってた以上に動きました。

そして思ってた以上の長編····。

他の作品も投稿し始めて正直ちょっと疲れたので、次の章にいくまでに数週間お時間下さい。

でも間で小話は挟むかもしれません。


お暇でしたら同時進行中のこちらもご覧下さい。

【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す〜だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】

https://kakuyomu.jp/works/16816927863356796443

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