282.旅人への感情と模造品?〜エヴィンside
「あの魔力の圧はやはり····」
グレインビル兄弟に言われた通り寝室の中には入っていない。
だがどうにも落ち着かなくなって為にドアの前で突っ立って腕組みをしちまってる。
そんな俺の隣に立ってんのは、同じく落ち着かないらしいアドライド国の第2王子だ。
そいつがぽつりと洩らす。
やっぱり突然乱入してきたのは外まで例の魔力が漏れたせいか。
あの旅人と交代して愛しの化け物が再び帰って来たんだろう。
その証拠に行きと同様、帰りもズン、と重くのしかかるような濃縮され圧倒的に存在感のある魔力が、今度は寝室を中心に狭い範囲で圧となって体を襲ったからな。
もちろんソファで特に何を話すわけでもなく並んでだらる兄弟は何の反応も示さねえ。
義理とはいえ、確かにあの愛しの化け物の兄に違いねえな。
どっちも俺より年下だってのに、肝が据わり過ぎだろう。
愛しの化け物は無事なのかはもちろん心配だ。
それにあの旅人と呼ばれた男があまりにも愛しの化け物に似ているのも気になっている。
もちろん外見は似ても似つかねえけどな。
優しげで儚げで、しかもどこか艶のある雰囲気は共通している。
旅人はあの外見だ。
年相応にそういう類いの経験はありそうだし、愛しの化け物は成長と共に出てきた
しかし血の繋がりが無いのは一目瞭然だ。
そういうのではなく、ふとした表情や物の考え方が、まるで本人じゃないのかと錯覚する程に似てやがる。
終いにゃ俺に明確な苦言と嫌味を言う旅人があいつに見えて、俺に全く興味がない発言をされた時には胸を抉られたように感じた。
それはそれでショックだ。
俺は男にはその手の興味はなかったはずだ。
それに俺が心底惚れてんのはあの化け物だ。
なのに不愉快発言された直後に別れの宣言をされて何も言えなくなるとか、何事だよ?!
俺だって若い頃にはそれなりに出会いも別れも経験してんのに、腑に落ちねえ!
「終わったよー」
しばらくしてから再びガチャリとドアが開いて、ハッと現実に戻る。
赤髪の男が爽やかに丸めたブランケットを片手に抱えて出てきて、そのまま俺達の間を素通りする。
一応国王と王子だが、こいつは歯牙にもかけない。
まあ予想通りだが、旅人とは違って何の感情も起こらない。
愛しの化け物の様子を聞こうとしたが、すれ違うときにブランケットで包んだ白い塊が見えて黙って後に続いた。
王子も気づいたようだ。
男は塊を一撫でしてからソファに座る義兄達に差し出してソファの背に回って後ろからのぞいている。
随分と優しげな眼差しだが、それが愛しの化け物に注がれているのは些か面白くはない。
俺達は二手に兄弟を挟む形で見下ろしている。
意識は無さそうだし、呼吸が早いのか?
ブランケットが微かにだが速く上下しているな。
長兄はブランケットごと腕に抱き、ブランケットがのぞかせたイタチの顔を確かめてから得意の氷の魔法で体を冷やし始めた。
次兄はいつものような喧嘩をふっかける事もなく、兄の隣からそっと体を撫でてる。
愛しの化け物は今は白いイタチになったらしい。
毛には艶がなく、ここ最近では1番パサついているように見えた。
熱を逃す為か?
長兄が体全体を包むブランケットは手足や下半身あたりだけを覆うように包み直す。
その時首に引っ掛けた変身用のペンダントの他に、胸に何かを抱えていたのが見えた。
割れた石と····懐中時計?
イタチ姿のこいつはその2つを守るようにして細長い胴を丸めて眠っていた。
緑色の石はかなりくすんでいて、大きく縦に割れているが、小さな欠片も落とすまいとしているようにも見える。
「これは····あの時の懐中時計とその石ではないのか?」
王子が眉を潜め、イタチを起こさないように小さな声で問う。
「模造品だよ。
とりあえず座ったら?」
「あの時とは?」
次兄に質問しながら俺と王子はそれぞれ1人掛けのソファに揃って腰を下ろす。
赤髪の男はそのまま動く気配はない。
俺と王子は白いイタチを窺うように前のめりだ。
「俺達が拐われた時にシル、護衛していた者を若返らせた魔具だ。
レイ、何故それをアリー嬢が?」
「だから模造品だって。
僕の可愛いアリーに頼まれて作ったんだ」
王子は予想外の状況だったのか頭痛を覚えたかのようにこめかみを押さえているぞ。
絶対嘘だな。
若返らせる魔具って何だよ。
と心でつっこんでいたが、ふと手術について初めて聞いた時の言葉を思い出した。
『言い忘れていたけれど、何もしなくてもあの子は遠からず消える事が避けられない。
それからあの子は人ではないから死の概念からは厳密に言えば外れている。
ずっと人殺しの道具として使われてきた子だ。
最後に誰かを救う為に力を使えるのなら、あの子としては本望らしいよ』
割れた石と懐中時計を守るように抱える姿に、あの魔具の事だったのかと思い当たる。
まさか魔具に意思が宿るとか、あるのか?
「今回旅人さんを呼び出すのに使ったんだけど、やっぱり石は割れたみたいだね」
「いや、重要な証拠品····」
「ルド、しつこい。
模造品だよ」
「····そ、そう、か?」
「そう」
「····そうか」
俺の心中の戸惑いは気づかれる事なく会話は続くが····。
おい、結局押し切られんのかよ、王子。
いいのか?!
まあ俺はいい。
元々拐われたのは俺じゃねえし。
お陰で旅人が召喚できてラスティンに生きる希望ができた。
よし、聞かなかった事にしよう。
「グレインビル嬢は大丈夫なのか?」
「兄上」
気を取り直して愛しのイタチの様子を尋ねれば、次兄も様子は気になっていたようだ。
この兄弟がいつものような妹の取り合いをせずに長兄が当然のように面倒を見るのなら、熱が相当高いという事だろう。
王子もかなり心配そうな様子で、何なら腰もいくらか浮かして覗きこんでいる。
どうでもいいが、いや、良くはないが、まさかこいつも愛しの化け物に惚れてる口か?
殺すぞ。
「熱が高いが咳も出ていない。
疲れたんだろう。
ニーア」
「こちらに」
いつの間に?!
俺の後から回って来たけど気配は無かったぞ?!
王子もビクッとしたからな?!
愛しの化け物の言うところのできる専属侍女は硝子製のあいつがストローと呼んでいる細長い管と氷水の入ったコップを盆に乗せて背もたれ側から長兄に差し出す。
旅人がいなくなってからすぐに侍女用の控室に引っこんだと思ったら、それを用意していたらしい。
長兄はストローを握ると上の部分を親指で押さえてイタチの小さな口に先を持って行く。
ほぼ無意識だろうが、ストローの中に留まっていた水が僅かに嚥下された。
それをイタチの顔がもういらないとばかりに背けられるまで何度か繰り返してから最後に口元をできる専属侍女が差し出したハンカチでちょんちょんと拭ってやる。
「補水液は飲めたし、数日は寝込むだろうが心配はいらん」
どうやら水は普通の水ではなかったらしい。
「そうか。
ラスティンが心配なんだが部屋をのぞいてもいいか?」
「こちらへ。
洗浄魔法と浄化魔法をご自分にかけてからお入り下さい。
お嬢様より自発的に目覚めるまではそっとしておくよう言伝てがございます」
その言葉に少しほっとする。
やはり顔を見られなかったのは落ち着かなかったんだ。
「そうか」
そう言ってできる専属侍女の後について部屋に入った。
もちろん洗浄魔法も浄化魔法も全身にかけた。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
やらかした(>0<;)
先ほど少し大きく加筆修正しましたが、ていうのを2度やらかしましたが、全体的な話は変わっていません。
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