280.中年脳の処理能力
「そなたはどこから来た?
何という国の者だ?
そもそもそなたもグレインビル嬢同様魔力がない上に、医療という観点だけでも全く私の知る物とは異なる。
私の感覚でいうならば異質。
まるで住んでいる世界そのものが違う」
結局詮索してるし。
ため息が出る。
まあ頷いたの僕だけど。
「僕がどういう者でどこの国に存在するかは君達にとって大した問題じゃないよ。
それこそ神でも介入しなければ、僕も国も今後一切関わる事はないからね」
何なら世界ごと関わらないよ。
そうでなければ僕がここに転生する事も無かったし。
けど、だとすると腑に落ちない疑問が1つ残る。
僕だけじゃないのはどうして?
ミレーネも、僕の勘が正しいなら····ルナチェリア····君は····。
「だが····」
「問題なのは君達がアリアチェリーナと今後どう関わるかじゃないかな?
僕としてはアリアチェリーナとの約束を君達が守って不干渉でいてくれるのを願うばかりだよ。
そうでなければ今後は更に狙われて危険に晒されるだろうね。
それこそ国単位で」
色々と考え事をしながらでもこうやって余計な事を言いそうな国王の話を遮って畳みかけられる今のこの中年脳は相変わらず優秀だ。
オペをしていた時からあの幼い脳との違いが歴然としていた。
集中力ももちろんだけど、判断能力と頭の中の情報処理スピードが上がっているんだ。
今みたいにいくつもの事を考えながら話しても、全てを整理していける。
脳がパンクしそうになる事もない。
アリアチェリーナの脳がまだ成長途中だからかな?
すぐに熱を出す要因の1つは脳の情報処理が追いつかないから、というのもあるかもしれない。
世にいう知恵熱?
それともこの中年の体があちらの世界の
もうずっと前。
僕が僕であった本当に最後の最期に話したある存在から、バグが自然淘汰されずに生き延びたって言われたんだよね。
「グレインビル嬢はそなたと同様の知識と技術力を持っているのか?」
「どうだろうね。
ねえ、それ、重要?」
ほらね。
考えに耽りながらも普通に答えられる。
義兄様達は黙っている。
レイヤード義兄様はよしよしをずっとしてくれているし、バルトス義兄様は僕にチョコレートを差し出す。
もちろん同時進行でパクパク食べてる。
そろそろ時間がない。
それにしてもアリアチェリーナが国王と初めて会った時のような言い方をしたのは芸がなかったかな?
僕がアリアチェリーナと同一人物だって結びつけられたら、それはそれで面白い事になりそうなんだけど。
国王が軽く目を瞠ったのは、どういう理由からだろう?
ふむ、そうだね。
一時的とはいえ、せっかくこの体に戻ったんだ。
アリアチェリーナの体と頭脳では気づかなかった種に関しては追加で蒔いておこうか。
「ねえ、重要かな?」
改めてもう1度、今度は嘲笑うようにして尋ねる。
僕は後ろ手にレイヤード義兄様を、もう片方の手でバルトス義兄様をそっとひと撫でしておく。
邪魔しないでね?
「もし、重要だと言ったら?」
ほらね。
こうすれば相手は少なからず敵意を灯して、思い通りの言葉を吐いてくれる。
男同士だから、余計やりやすい。
「そう、残念だ」
「どういう意味だ?」
警戒した彼に冷たい微笑みでくすくすと笑う。
「アリアチェリーナはこの瞬間から2度と大公を助けない。
もちろん彼女の家族も。
彼女が大事な者との時間を犠牲にしてでも僕を呼び出した事も、僕が彼を助けた事も無駄になるね」
「脅しか?」
国王からは覇気が漏れる。
さすが元将軍?
「旅人殿····」
王子ってば、心配そうな顔してオロオロしてる。
どうしたのかな。
義兄様達もいるし、まだこの2人は体に力を入れてすらいないよ?
「わかっているよね?
僕は事実しか言っていない。
何の為に術後管理の話をしたと思う?」
既に先手を打たれているのに気づいているよね?
なのに君達のように王族の中でも国を直接的に担う人は結局こういう言い方をしないと止まれないの?
苦々しい顔しても無駄。
昨夜のあの王太子もそうだった。
そろそろ身の程を知って不用意な発言なんかせずに気を引き締めてくれないと、アリアチェリーナが投げておいた餌に食いついた何かに巻きこまれてバクリと食われちゃうよ?
「そもそも君はまだこの国でも国王として足元が固まりきっていないよね?
そんな状態で一足飛びに何かしらを得ようとすると着地した時に足元から崩れるんじゃない?」
まあ何が食いつくかは僕もまだはっきりとはしていない。
でもそろそろアリアチェリーナとして捜しているあの子の片鱗くらいは掴みたいのも本音だから、いくらかのリスクは既に犯してみているんだ。
「僕は嫌でもそろそろお暇する事になる。
元々アリアチェリーナと居場所を交換し続ける時間には制限があるんだ。
状況的に不利なくせに、まだ自分の足元すら固まりきっていないくせに、今の君は足元を固めるのを優先せずして何をそんなに重要だと考えるのかな?」
言いながら、彼の滑稽さについうっかり鼻で笑ってしまったよ。
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