190.第1目的地到着まで~ルドルフside

「違うって?

内容読めばすぐわかるよね?

誤魔化そうとしたのか自分達の考えた薄っぺらい内容と混ぜたんだから」

「薄っぺらい····」


 問題王子が愕然と呟く。


「でもそれすらわからないと思ってるから誤魔化すんだよね。

それなら真ん中所と最後から1つ手前の考察の内容言ってみる?

自分達が考えて書いたんだから言えるでしょ。

グレインビル家は穏便に文章で手を打とうとしたんだから、もし違う誰かが書いてて、更にこの場でも誤魔化そうとするなら····わかってるよね?」

「····ひ····」

「も、申し訳まりません····」


 小さな悲鳴をあげたのは王子。

今まで不遜な態度だったネルシス令息のように畏まって謝る事はしないだろうが、その前にレイはこの2人に何をした?!

怯え方が鬼気迫っているぞ!

絶対机を大破して床で書かせただけじゃないだろう?!


「何でばれないなんて思った?」


 バルトス殿が1歩踏み出す。

2人は生まれたての4足魔獣のように震えながら2歩下がる。

バルトス殿は祭り以降接触してなかったはずだが、問題児達は身を寄せ合う。


「兄上、そんな事話すだけ無駄ですよ。

それより文章書くのは苦手みたいだから、肉体労働をお願いしたいんだ」

「な、何を····すれば····」


 青くなった王子がごくりと喉を鳴らす。


「一緒にDクラスの魔獣を狩るだけだよ。

まあ魔石を見つけたら採取を手伝わせるし、採取した物はこっちで貰うけど。

僕の可愛い妹が欲しがったのがその程度のどこにでもいそうなか弱い魔獣で良かったね。

君達仮にも王都の冒険者ギルドで登録してる冒険者なんだから、それくらいできるでしょ」

「お前達に経験値を与えたいとどこぞの後見人と責任者にも言われたからな。

不本意だがアボット商会からB級冒険者も派遣される。

今ならアボット商会の温情でお前達の安全対策は強化されてるから経験値も安全に積めて他国の高位貴族への嘘も不問にされる。

一石二鳥な話だろう」


 畳み掛ける兄弟の言葉に兄上と自国の第1王子を交互に縋るように見る。

もちろん2人とも肯定するように頷く。


 バリーフェの強さ自体は確かにDクラスだ。

B級冒険者のアボット会長の末弟であり、学園OBのペルジア先輩が同行する。

決して嘘ではない。


 ただ依頼難易度はBクラスだし、アボット商会の同行は途中まで。

王都のギルドの学生冒険者は俺達の登録する冒険者ギルド“ブレイバー”では登録すらさせて貰えない事が多いが、あの2人は王都のギルドのF級冒険者。

別名学生ギルドと称される所の下から2番目のランクだ。

それにバリーフェは火山地帯限定でなら大抵どこにでもいるっていう特殊な魔獣だけどな。


「それ、なら····」

「ああ、俺も····」


 おお、言いくるめられた。

真実を知ったらどうなるんだろうか····。

どうでもいいが最近問題王子は自分の事を俺様呼びしなくなったんだな。


「なら、これは王家が出す特別の依頼書ね。

皆冒険者登録はしてるから、そのまま依頼の受領部分に署名して」


 兄上は机の引き出しから王家が冒険者ギルドに依頼を出す時に使う特別依頼書を取り出し、さっとバリーフェの捕獲依頼と記載する。

手招きすると2人はそれぞれ署名した。


 それ、意味わかってて署名したんだよな?


「出発は明日だけど、準備はアボット商会でお願いしてるから問題ないよ。

どうしてそこの商会になってるかは2人共わかるよね。

としてそこの異論は認めないよ」


 兄上も畳み掛けにいったな。

心なしか早口だ。

どさくさに紛れて明日の出発にもってったな。

悪魔達もそろって眉をしかめたから気づいたぞ。


 だがそれが脅しになったのか、問題児達は激しく首を縦に振った。


「それじゃあ君達は後で反省文の原文の提出と誰に書かせたのかを教えてから明日の出発に備えて休むように」

「「····はい」」


 兄上抜け目ないな。

さっそく貴重な人材を捕獲しにかかったか。


 しばらくして提出された原文はもっと簡潔にわかりやすい文章でまとめられていた。

書いたのはザルハード国の没落した元子爵家令息だった。

今は王城で下働きをしていて何年か前からの知り合いらしい。


 なんでもたまたま宿題で頭を悩ませていたた時、ムカついて宿題を丸めて投げたら木陰にいたその者にヒットしたのが出会いだとか。

内容を見た彼が暇潰しにと問題を解いたから褒美に手持ちの装飾品を渡した。

それ以来小遣いを渡せば引き受けてくれるようになったらしく、これまではそうしたズルがばれないように秘密裏に接触して体面を保っていたらしい。


 ひとまず反省文の全容もわかったところでその日はお開きとなり、俺は自室で落ち込むだけ落ち込んで翌日を迎えた。


 ほぼ悪魔達の要望通りまだ薄暗い早朝から出発だ。

妹の弁当がないからと朝から床を凍らせてパキパキ、静電気散らせてパチパチして八つ当たりするのはやめて欲しい。


 メンバーは俺、悪魔兄弟、留学生3人とゼストの護衛のリューイ。

もちろんアボット商会からペルジア先輩も同行となった。


 そして予定した火山地帯にある小規模マグマに着いてから、ほぼ悪い意味で予定を逸脱する。

良い意味の逸脱など同情と修行の為にペルジア先輩が最後まで同行してくれた事くらいだ。


 まずあの問題児達が役に立つ事がないのは王都の冒険者ギルドで登録した時点でわかりきっている。

はっきり言ってマグマに着く前から体力も劣り、魔法も劣る彼らはお荷物でしかなかったがそれは予想通りだ。


 だが可愛い妹の為にバリーフェを求めるグレインビルの悪魔達のおかげでむしろそこまでは快適だった。

火山地帯に入ってから襲ってくる魔獣は先を急ぎたい悪魔達が気配を察知した時点で駆除。

商会の用意した魔馬に乗って強行軍で山を駆ける。

それだけだ。

一部観光地となっている山だけに道の険しさも知れている。

途中尻が痛い、手綱を握る手に豆が出来たとへたりこんだお荷物達は俺、ゼスト、ペルジア先輩、リューイが交代で後ろに乗せてやればいい。


 もちろん悪魔達はそんな彼らを思いやる気は全くなく、手綱さばきも軍馬の扱いも一級の彼らを見失わないよう、ついて走るのが精一杯ではあったが。


 そうして安全対策を考慮されて一部観光もできる小規模マグマに5日で到着予定のところをたった3日で到着してしまう。

他国を通過するのはアボット商会のおかげで問題もなかった。

強行軍で睡眠もほとんど取れなかったが、まあそれはいい。


 だがノルマを1人3匹とし、全員が最低でもそれだけを捕るまで帰らないと悪魔達が即決。

兄上が下手に経験を積ませる依頼もしていただけに拒否もできない。


 捕った者から帰って良しと言われたが、あの問題児2人を悪魔達に任せて帰れるはずもない。

怖すぎる。


 だがそれもあの問題児達を悪魔達を除くメンバーでフォローすれば何とかなる。

最初はそう考えていたところでそれがいかに甘い見通しだったのか早々に痛感する羽目になった。

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