184.捕まえて欲しい魔獣
「ニーア、私のお部屋の机の一番上の引き出しにあれが入っているの。
取ってきて」
「アリー?」
扉近くのニーアが出て行くのを横目に訝しげなレイヤード義兄様のお顔が僕をのぞき込む。
大丈夫。
僕はまだ決めていないから。
バルトス義兄様は僕をしばらく見つめてからゼスト様に尋ねる。
「ウィンスには将来的にお前が西諸国との新たな取り引きの権限を一任される可能性の話はしたのか?」
「話はしたというか、読まれて先に話をされたというか。
その、私は口頭で告げられたがそれ以外の書簡等での確約は受けていないのだ」
「要求したのか?」
「····いや」
やっぱり。
ウィンスさんは敢えて言及したんだろうね。
「ウィンスは何と言った?」
「自分をサポートできる
祭りの一件については慰謝料と補償金で矛を収めるが、慰謝料については相手が未成年である以上両親である国王、王妃、側妃の名義で支払えと。
それがブランドゥール国とアドライド国にも正式通達しない、非公式にする条件だと」
ウィンスさんやるね。
慰謝料に王妃も加える所が大事なんだよ。
それに今のゼスト様の立場では仮に将来的な約束を書面なんかでしてたって商会としては大して意味がないんだ。
商人は先見の明と実利を追求してナンボだよね。
それにしてもザルハード国王妃の生家の現状が気になる。
ウィンスさんは何か気づいてるのかな?
「慰謝料については後日となったが、両陛下が真っ先に了承した事により側妃も首を縦に振った」
なるほど。
これでアボット商会は労せずしてその名を国の2トップに宣伝できたわけか。
将来的なザルハード国への進出の足がかりにはなったんじゃないかな。
「それで、最後と指定されていた師匠とその家族への名誉棄損に対してなのだが····」
ゼスト様は僕の方をチラッと見る。
七光り王子の暴挙はもちろん伝えてない。
少し前のルド様の不用意な爆弾発言に対しての僕の態度で何かを察してくれたみたいだね。
その行動で何かしら気づかれた気がしないでもないけどね!
義兄様達2人して無言で僕のお顔をのぞくの止めてくれない?!
「····照れちゃう」
美形2人に至近距離でお顔見られると恥ずかしいんだからね!
カッコいいの暴力だよ!
思わずお顔を両手で覆っちゃう!
「僕のアリーは可愛いね」
「俺の天使は可愛いな」
息ぴったりに言葉をシンクロさせる義兄様達は素敵に無敵だ!
「アリーは照れ屋さんだね。
それで、肝心の師匠達と責任者として話さなくていいの?」
ギディ様ってば時々絶妙なアシストするよね。
もしかして七光り王子と僕のカツアゲ騒動を知ってるのかな?
例の3人に監視を付けてなかったなんてあり得なさそうだし。
「いや、話さなくてはならない。
だが正直バルトス師匠が何を望むのか予想ができなかったのだ。
レイヤード師匠からは言われた通り第2王子とネルシス侯爵令息の反省文は徹夜で何度もやり直しとなったようだが受け取って貰えたと聞いている」
「そうだね。
王族だ、高位貴族だと言うくせにあまりにも酷すぎたから思わず机大破して床で書かせちゃったよ」
義兄様、器物破損はダメだけど、確かに中身の薄い部分があったからイライラしちゃったのかな?
仕方ないよね。
ていうかゼスト様はいつの間にか師匠呼びになってない。
「レイ····」
ルド様ってば、僕の素敵なレイヤード義兄様にそんな呆れた声出さないでよね。
もちろん僕の方をチラッと見てもプイッてそっぽ向いちゃうよ。
まだ怒ってるんだから。
「アリー嬢····」
う····そんな哀れそうな声出したって知らないもん!
「その、それでバルトス師匠は何か望む物はあるだろうか?」
「そうだな····俺の天使は何か捕まえて欲しい魔獣はいるか?」
「魔獣?」
「ああ。
何でもいい」
「うーん····バリーフェ?」
「「「何故?!」」」
ロイヤル達も仲いいね。
息ぴったり。
わあ。
護衛2人のお耳様がピンてしてる!
うっとりしちゃう!
リューイさんは無表情だけど、ちょっとだけ目がおっきくなった?
「よし、俺の天使が望むならそれにしよう」
あれ、いいの?
バリーフェって確か····。
「ま、待って、バルトス。
もしかしてバリーフェをくれって言うつもり?」
「別名マグマを泳ぐ魚だぞ?!」
「アリー嬢····」
ギディ様、多分流れ的にそうじゃない?
本当に捕獲できるかはわからないけど。
ルド様の言う通り、バリーフェはマグマに住んでてその姿は魚っぽい。
でも僕的には魚というより、あっちの世界の鯨なんだよ。
ただし全長は3メートルくらいでそんなに大きくはないんだ。
数体から10体くらいでマグマの中で群れを作ってる。
各国の火山地帯に生息する魔獣で、基本的にマグマを潜って移動するからなかなか捕まえられないんだ。
攻撃自体は頭らへんからマグマを吹き上げてぶつける単調なものだけど群れで行動するし、場所的に有毒ガスだって発生する事もあるんだ。
それに素材的には代用が利く物や、むしろ全く使えない代物ばかりで危険を犯してまで捕るメリットはないとされてる。
冒険者ギルドに頼んでも嫌がられる依頼じゃないかな。
下手したら受け付けすらお断りされちゃうはず。
だからまあ、ゼスト様が顔を引くつかせて僕のお名前を呆然と呟く気持ちもわからなくはない。
ゼスト様からすれば、ほぼ嫌がらせだよね。
「俺やグレインビル家への慰謝料はバリーフェでいいぞ」
「いや、下手をすればギルドも依頼を断るんだが····」
「何を言ってる?
あの2人とお前で捕るに決まっているだろう。
心配しなくとも他国の留学生だからな。
俺も行く。
そのついでにお前達の甘えた根性を鍛えてやる」
うん、そんな気がしてた。
何だかんだで師匠って呼ばれて嬉しいのかな?
最後にニヤッと笑う義兄様も可愛いね。
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