148.最高か!

「今年は商業祭には来られないんだってねえ」


 秋にさしかかってすぐの頃、いつもの商会長さん達がやって来た。

本日は今年の春に卒業して無事、冒険者デビューした末弟のペルジアさんも来ている。

僕と入れ違いの形でアビニシア領でタコとイカと火蜘蛛を狩ってたみたい。


 何でも義兄様達への信頼から、2人が登録してある冒険者ギルド、ブレイバーに討伐と領民への討伐指南ができるBクラス以上の冒険者を要請したんだって。

タコとイカは下位クラスだけど、火蜘蛛は中位クラスで、それも群れるからね。


 ただ僕の作ってた高濃度アルコールを試作品て事で無料で提供してたんだ。


 元々は病気や食中毒の予防や手術中の手の消毒用に試行錯誤繰り返して作ってたやつね。

僕前の世界でお酒造ってた人とかじゃないからさ。

蒸留ってどうやるんだっけとか色々やりつつ、消毒用としては失敗作も入れるとそれなりの数作っちゃったんだ。


 とはいえ手術なんてそうそうするもんじゃないし、お家で消費しきるには失敗作も含めると在庫がありすぎてどうしようかなって悩んでたの。

あの一件までは体調も良くて体力もあったし暇な時に更に色々試行錯誤してお肌に優しいタイプとか、やたらアルコール度数の高いの作ったりして遊んだりもしちゃってさ。


 作成中にそういえば前の世界であの黒光りする昆虫に消毒用スプレーかけて退治したよね、とか思い出したんだ。

で、それの在庫整理も兼ねて義父様にどれくらい効果あるか試してもらったら、意外と効果があったんだって。

こっちの虫にも効くんだね。


 何か途中で火に耐性ある火蜘蛛すら燃やす勢いで引火したらしいけど、そもそも糸を採取したくてお願いしたのに何で火を使ったんだろ?

まあ多少外側燃えてもお尻の中の糸は無事だったからいいけど。


 ちょっと煤で黒くなったやつはロイヤル用に染めて刺繍に使っちゃった。

ばれなきゃオッケー。


 お肌に優しいタイプは従兄様にいくつか試作品て事で渡したよ。

夏から秋にかけては食中毒の季節だもの。


 話は戻って、その高濃度アルコールのお陰で領民でも頭数に入れた討伐ができそうなんだって。

しばらくは訓練して、来年からは希望者に討伐隊でお小遣い稼ぎをさせるみたい。

危険なのはもちろんだけど、今回みたいな事を考えれば領民含めた戦闘能力の底上げはしといた方がいいからね。


「さすがに今年はお祭りの人混みを歩けるほどの体力が戻りませんでしたね」


 そう、今年は諦めた。

間違いなく家族は反対するし、僕だって春に夏にと心配かけておいて秋まで心配の継続はできないよ。

それにまだ完全に食欲が戻らない。


「熱はもう平気なのかな?」

「ウィンスさんにも心配かけましたね。

熱は出てもいつも通り微熱くらいだと思います。

でも冬までにもう少し体力を戻しておかないと風邪を引きやすくなってしまうので」


 ウィンスさんはあのブラシを毎日使ってくれてるんだって。

耳と尻尾に光沢が出てるのはそのせいかな。


「そうか。

タコとイカ以外で食べたい物があったら言ってくれ。

討伐のついでになるが、魔獣なら狩っておく。

まだこのマジックバックの礼もできていない」


 前に見た時より背が伸びて、筋肉がついて逞しくなったペルジアさんは動きを邪魔しない範囲で少し大きめのポーチを腰から下げている。

アボット兄達の弟への卒業祝いなんだけど、実はこっちで作成したんだ。

内側に魔獣避けの魔法陣もどきを刺繍してある。

魔力を通すと発動する仕組みだけど、オン・オフ機能付き。

魔獣討伐しに行って魔獣が避けたら困るもの。

ちなみに専用ブラシはいつも中に入れて持ち歩いてくれてるんだって。

気に入ってもらえたみたいで何よりだよ。


 あと、あの巨大なタコとイカを入れてもまだ少し容量に余裕があるようレイヤード義兄様にお願いしたんだ。

ぶっちゃけ市場で買うと御殿が建つくらい値がはるから、大物を収納する時は人のいない所でねって注意してる。

一応盗まれても使われないようにアボット兄弟しか開けられない設定と、失くしても位置を特定できるようにはしたよ。


 お礼にアボット商会のお店の飲食はいつでも無料にしてくれる権利を得たんだ。


「それにしてもアリーちゃん、うまくやったねえ」

「何がです?」


 カイヤさんの声に僕はテーブルに並んだ黒い宝石から目を離す。


「そうだよね。

俺達も新たな食材との掛け合わせで自国の食材に幅が出たり、こちらの商品を自国の上流階層に流行らせて一儲けできてるから有り難いけどね」

「そうだね。

うちのベイを粉にしてお菓子の材料にする方法で新たな販路と取引先を得たのも、あのお嬢ちゃんがアリーちゃんの見立て通り物凄い執念で研究してくれて例の豆が改良できつつあるのも有り難いけどね」


 そう、従兄様のケーキに使ってた白いお粉は米粉だよ。

そして僕は従姉様の研究結果とも呼べる、献上された念願の羊羹黒い宝石をぱくりと食べる。


 ふおー!

これ、これだよ!

僕の求める餡!

まだ少し雑味は感じるし育て安さの向上に改良は必要だけど、概ね成功だ!

寒天なるものがカイヤさんの商会で先に存在していて良かった。


「相変わらず良い顔するね、アリー嬢は」

「本当だな、兄貴」

「幸せそうで何よりだよ」


 くすくすと笑う3人へお口の餡が消えてからもう1度尋ねる。


「何か上手くやりました?」

「だってアリーちゃん、本当に動いたのは刺繍して紙に文字書いたくらいじゃないかい?

まあ熱出してふせってたのは別にしてさ」

「ばれてます?」

「「バレバレ」」


 まあ、さすがにそれだけじゃなかったよ?

会長が2人して口を揃えなくても。

ペルジアさんまでふんふんと頷いてる。

ピコピコ揺れるギザギザお耳が魅力的だね。


 でも言ってる事はわかる。


 だって僕の実働は墨に糸浸してちょろっと刺繍して、紹介状やらお手紙書いただけだもの。

その場でできるような鑑定はニーアにしてもらったし、ベッドの上でできるような検証は暇を持て余した僕がやったけど、諸々の準備や面倒な墨の後片づけはニーアがしてくれた。


 具体的な墨の安全性や検証はコード伯爵の方で責任持ってやってくれてて、僕は結果を聞いただけ。

その他交渉事は家族が手分けしてしてくれたよ。


 後は指示だけ出して料理されるの待ったり、辺境のお城にお見舞いに来てくれたカイヤさんとウィンスさんとお話しして試食してと自由を満喫して過ごしてただけ。


 だけど僕は結果を出した!


 氷竜の鱗で作ったレイヤード義兄様お手製のアイスボックスのお陰でお願いすれば新鮮なタコとイカが手に入るようになった!

そして今後は伯母様お手製クッキーと従兄様のケーキはセットで贈られてくる!

豆は美肌にいいですよ、もちもちの美肌になれますよって言葉に闘志を燃やした執着元令嬢の従姉様のお陰で和菓子も今後優先して贈られてくる!


 最高か!


 コード伯爵とレイチェル様からは動きやすくて軽い、肌触りの良い合作ワンピース、それから預けておいた氷熊の毛皮で作ったコートとポンチョが贈られて来た。

毛皮はレイヤード義兄様経由でリューイさんからいつぞやの主のお礼にと贈られてた2頭の氷熊。


 お肉とついでにタコとイカもアリリアのチップで燻製にして、もちろんお返しにリューイさん、そしてその時たまたまうちの領まで様子うかがいで来てくれてたレイチェル様と伯爵にもお土産にした成り行きで毛皮を預けてたんだ。


 どれも贈り物だから全て無料だ!

アリリアのチップは剪定したやつだから無駄にもしてない!

そしてグレインビル領の収益はうなぎ登り!


 何度でも言うぞ、最高か!


 へへへ、皆様毎度あり!

これからもどうぞグレインビル領をご贔屓に。

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