139.バーベキュー?

「タ~コ焼き、イ~カ焼き、ヤッホー、ヤッホー」


 僕は現在とっても上機嫌だ。

何なら鼻歌を歌うくらいに上機嫌だ。


 季節は夏。

そう、夏が来た!


 しかしここはあの日あの時の海岸だ。

滞在期間、ざっと数ヶ月。

初春に来てから初夏を少し過ぎたあたりの今までずっとこの領に滞在してた事になるね。


 この国は前の世界的には北に位置する国だから基本的に夏でも涼しい方なんだけど、ここはそんな国の一応南だから真夏になればそれなりに暑くなるみたい。

だからやるなら今!

そう、浜辺で屋台バーベキューだ!


 何故屋台バーベキューかというと、僕一応お嬢様でしょ?

それに病み上がりだし、ぶっちゃけ春までは良い感じに増えてた体重はマイナスに転じてしまった。

自分で料理する程に回復してないんだ。

やりたいって言ったら家族全員から真剣に止められちゃった。


 それだけじゃなくて気がつけばカイヤさん、ウィンスさんという東西では今や名の知れた商会長が呼び出されててね。

そこに王宮とこの領お抱えの料理人が一同に会して気がつけば手分けして屋台の段取りが出来上がっててびっくりした。


 間違いなくアビニシア領主だけじゃなく国王陛下にも手伝わせたよね。

義父様、娘の食欲に国家権力使わせてない?!


 でもって屋台風立食パーティーみたいになってる。

でも悔しいから屋台風バーベキューって言い張るよ。

僕が座って食べられるよう、こじんまりしたパラソルと簡易のテーブルと椅子が用意されてるし、僕の思うバーベキューからは逸脱してるけどね。

ニーアが後ろで紅茶入れてるし、何か思ってたのとは違う。


 ゲストは僕とニーア以外見渡す限りほぼ男性。

僕1人の為に呼び出された商会の人達にも申し訳ないし、どうせならお世話になった人達にもタコとイカの素晴らしさを知って貰おうっていう主旨でお声かけしたんだ。

辺境城でって言われたけど、元はバーベキュー希望だったから浜辺だけは譲れなかった。

それにお城だと気軽に参加できないし、気を使わせるでしょ?

カイヤさんとウィンスさんもこの国の端まで宣伝できるって喜んでくれて良かったよ。

氷漬けの食材見た時は戦々恐々してたけど。


 ほぼ男性なのは騎士や兵士っていう職業柄どうしても男性が多いから。


理由はどうあれこの領で長期間お世話になったし、一応王族を狙った犯行に巻き込まれたからか僕が寝込んでる間もずっと護衛を付けてくれてたんだ。


 それに何だかんだで領の異常に気づけなかった事や犯行を防げなかったばかりかルド様王族貴族が実際に拐われて怪我をしてしまった事で鍛え直したんだって。

一部の人は僕の家族が直接しごいたって聞いたから、間違いなくきつかったと思うんだ。

義兄様達とすれ違い様にビクッてしてる人を時々見るし。

あ、義父様はさすがに自領に帰ったよ。

だから食材も巨体なだけにたくさんあるし、どうせならお礼も兼ねてね。


 お城の警備で見た人もちらほらいて、皆あの時より逞しくなってるのはわかるけど、何でかな?

真新しい擦り傷、切り傷、裂傷、火傷、凍傷の痕がちらほらあるんだよね。


 また隣国と小競り合いでもしたのかな?

辺境地は大変だ。

お疲れ様です。


 そうそう、僕の思う浜辺で食べたいタコとイカ料理を伝える為だけにグレインビル領の料理人も何人か来てくれたのは本当に申し訳無かった。

しかも僕の痩せちゃった体つきにショックを受けて厳つい顔の男達が咽び泣くという、ある意味サイコな場面に出くわした闇の精霊さんはずっと指輪に隠れて出てこなかった。


 彼らも本当は屋台そのものをやりたかったんだろうけど、まあ、うちの料理人達は自分の認めない料理人には厳しいからそこは適材適所ってことで。

でも腕っぷしは良いから冒険者でもあるお馬の師匠、ガンさん監修の元、巨大タコと巨大イカの解体作業は楽しくやってくれたみたいで良かったよ。

あのタコとイカ、墨袋に毒があったらしくてそれを破ると食べられなくなっちゃうんだって。

イカ墨パスタは泣く泣く断念したよ。

ガンさんは昔墨ごと食べてお腹壊して死にかけたって豪快に笑ってた。

ガンさんいてくれて良かったよね。

もちろんタコとイカはおすそわけしたよ。


「本当にアレを食べるのか?」

「美味しそうですよ、ルド」


 魔法で髪と目の色を平民にはありふれた焦げ茶色にしてるのはルド様。

後ろには好奇心で目を輝かせるアン様がいる。


「ゼスト、良い匂いがする」

「あ、ああ、確かに匂いは····まあ····しかし····」

「嫌なら食べなきゃ良いでしょ。

ケルト、バゴラ、3本ずつちょうだい」

「はいよ!

そっちの兄ちゃん、もうじき焼き上がるからまずは食ってみてくれや!

うちの商会特製のタレに浸けて炭火で焼いたクラスク焼きだ!

うまいぜ!」

「こっちのはリーにも使う香辛料ってのを付けて焼いてんだ!

うまいぜ!」


 あっちに並ぶ屋台で競うそうに腕を奮う頭にタオル巻いてるおじさんとお兄さんはケルトさんとバゴラさん。

イカの足に醤油ベースのタレを浸けたのと、カレー風味の香辛料をまぶしたのをそれぞれ炭火で焼いてるよ。

クラスクはイカの魔獣の事なんだけど、皆はイカって言ってくれない。

本当はイカの姿焼きを頭からかぶりつきたかったんだけど、大きすぎて手軽に焼けないからぶつ切りにした足を焼いてもらってる。


 闇の精霊さんは殆どの人が見えてないからゼスト様とレイヤード義兄様が話してるみたいに見えてると思う。

後ろには護衛のリューイさんが立っている。


 義兄様は僕の分を貰いに行ってくれてるんだ。


「うぐっ、あつ!」

「あはは、一口で食べるからだよ、ガウディ」

「お前は小間切れにしすぎだ、ギディ」


 さらにその向こうでは丸いタコ焼きを一口で頬張って悶える従兄様とギディ様、そしてラフな平民服を素敵に着こなすバルトス義兄様がいる。


 あのタコ焼きの調理器具は今回特別に作ってもらったよ。


 あ、ギディ様も魔法で茶髪、焦げ茶色の目をしてるし、今ここにいる人達は皆平民服を着てるからね。

王族で顔が知れてるロイヤル兄弟は髪と目の色を変えてるけど、他は特に変えてないよ。

隣国の王子のゼスト様はあんまり顔も知られていないしそのまま。


 ロイヤルが混ざってるのは内緒だよ。

気づいてても口には出さないのが暗黙のルールになってるみたい。


 屋台ではタコ焼き、イカ焼きの他に海鮮カレーライスとカレーパン、カレー風味のピラフとタコの炊き込みご飯を握ったおにぎり、イカのスティックフライ、海鮮焼きそば、タコ煎餅の他にタコ焼き器で作る餡の入った甘い生地の一口焼きもデザートで焼いてるよ。


 餡が手に入ったのは、ニーアが採取したあの怪しい植物のおかげ。

あれ、小豆だった。


 以前カイヤさんに小豆がないか聞いた時、あるにはあるけどなかなか育たなくて困ってるって言ってたんだ。

鑑定しても豆に問題はなかったから、交配させて魔力がなくても普通に強い種子が発芽するように研究中。

ちょうどうってつけの人材を見つけたばかりだったから、早速品種改良に取りかかってもらってる。


 今回の小豆はあの怪しい植物を育てて採ったやつだよ。

だから広めるのはしないけど、僕は和菓子も大好きだから誘惑には勝てなかった。

餡は緑茶風味と2種類。


 そういえば何でタコだけでなくイカもあるかというと····うーん、僕が倒れてからの経緯にも繋がっちゃう。

寝込んでる間に僕の素敵で無敵なできる家族達のおかげで僕には面倒な事が無くて本当に助かっちゃった。


 ふふふ、僕の1番嫌だった事も片付いたんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る