140.舌鼓と戻ってから1
「アリー、できたてだよ」
キラキラ笑顔のレイヤード義兄様····尊い。
差し出されたイカの足の串焼きに瞬時に目移りしたけど、イカの足は美味しいから仕方ないよね。
醤油ベースとスパイスベースの2種の味の違い。
けれど交互に頬張っても互いの味を殺さず、むしろ共存する後味が奏でる味の深みとハーモニー····ブラボー!
これはワインもビールも日本酒もブランデーもその他諸々に合う!
義父様絶対喜ぶやつだ!
くっ····子供の体が憎い!
早く成人しないかなあ。
いや、これは成人しなくても一口くらいなら試しても····。
「アリー、何か良からぬ企み事かな?」
あれ、キラキラ笑顔はそのままだけど、何だか迫力が増してる?
レイヤード義兄様は凛々しいお顔だから、そんな笑顔も様になっててかっこいいよ。
「····ヨイタクラミシカ、コホン、しておりませんわ、兄様」
思わずカタコトになりそうだったのは何でかな?
「そう?
ならそうかもね。
ごめんね、勘違いしてたみたい」
「ふふふ、兄様ってば····」
「それにしてもこのイカ、父上が喜んで酒のつまみにしそうなくらい美味しいよね」
ギクッ。
え、レイヤード義兄様ってば、エスパーかな?!
あのゲストハウスでもこんなやり取りしなかったっけ?!
とりあえずはやっぱりお顔をじーっと眺めて頭の中で語りかけるよね!
「うん、そんな能力無いから」
嘘だよね?!
「嘘じゃないからね、アリー」
いやいや、会話続いてるよ?!
「アリー····」
おっと、困り顔になっちゃった。
「ごめんなさい、兄様。
お外に出たのも久々ですし、海なんて間近では滅多に見られないものですからはしゃいでしまったの。
お世話になった皆さんとこうやってお食事できるのもあと少しですし」
「そうだね。
やっとアリーを連れて帰れると思うと僕はほっとするけどね。
だからあんまりはしゃいでまた熱を出さないように気をつけて欲しいんだ。
グレインビル領でアリーの帰りを待つ人はたくさんいるし、今回の事でアリー自身も注目を集めちゃったし、こうやって長時間外にいると変な虫が寄って来てもいけないでしょ?」
パシン。
あれ、何か静電気がはぜたみたいな音があっちの方から····。
「「うぐっ」」
ん?
何か向こうで王子2人の頭が逆立ってる?
「ちっ、あいつら懲りないなあ」
義兄様、何かやったね。
王子様捕まえて舌打ちにあいつら呼びって、不敬罪で捕まらないかな?!
それにどこぞの世界で見たような、丸い玉触る静電気実験中のヤバい髪に····あ、アン様、好奇心抑えきれずにルド様の肩なんて触ったら····。
パチン!!
「「「うぎゃ!」」」
あーあ、弾みでルド様がぶつかってってゼスト様が巻き込み事故に遭った。
「ふふふ、俺の可愛い天使と接触を試みるからだ」
あ、転移でバルトス義兄様が来た。
めちゃくちゃ短距離移動なんだけど····。
まあお外だから人が多いし、家族も混ざってオッケーにしたから小さい子供なんかもいて背の高い義兄様が踏み潰したら可哀想だものね。
僕だけパラソルエリアを確保されてて何だかごめんね。
まあ言い出しっぺの権限だよ。
悪目立ちしないよう僕の周りは幻覚魔法で囲まれてるけどね。
「ほら、出来立て一口焼きだ。
タコ焼きは火傷しないようにな」
「ありがとうございます、バルトス兄様!」
まずは一口焼き····甘さ控え目の餡が懐かしい!
緑茶風味もほどよい苦味が絶妙!
「相変わらず良い顔するよね」
おや、とうとう転移魔法を習得したんだね、ギディアス王太子殿下。
「王族はアリーにむこう5年は接近禁止だと決定した。
寄るな」
そう、彼等は今回の悪ふざけによっていたいけな深窓の令嬢である僕が巻き込まれた事を重く受け止めた。
非公式ながら今後5年は僕に近づかないと約束させたのだった。
なのに何故か彼等は変装までして紛れ込んだ。
本当に何やってんだろ、この人達。
「えー、俺は今ただのギディだよ?」
「何の屁理屈だ」
「そうですよ。
おかげであそこの2人もそれに倣おうとして雷にやられてますよ」
「あはは。
何あの髪?!
うけるんだけど?!」
いやいやギディ様、あれ地味に痛いよ?
ずっとパチパチしてるんだけど。
「いた、いたたたた!」
「レ、レイ、そろそろやめ····いたー!」
「わわわわ、これ地味に痛いよー!」
うわ、アン様の毛繕いブラシ持って来れば良かった。
逆立って膨らむ尻尾も····いい!
触ったら巻き添え食いそうだけど。
「大丈夫だよ、アリー。
あれでもここにいる間はしっかり鍛えてあげたからちょっと怪我するかな、くらいだよ」
「そうだぞ、アリー。
あそこの連中もしっかり辺境領地に相応しい体つきになっただろう。
今朝も鍛えてやったからな。
天使のお馬さん3兄妹もしっかり発散してたぞ」
今回の一件ではグレインビル家の機転によって王子と息女が事なきを得た事、甚大になったであろう魔獣の被害が防がれた事は広く周知された。
それと同時に山中では王族や高位貴族を危険に晒されていた可能性が高く、辺境領主と王家に仕える騎士や兵士の実力不足が問題視されたんだ。
そこでグレインビル式兵力増強訓練をこの領地で指導するよう命じられたのが僕の麗しの義兄達。
バルトス義兄様は業務命令、レイヤード義兄様はAクラス冒険者として依頼された。
お陰で僕が滞在中は義兄様達が交代でずっと一緒にいてくれたんだ。
まあ表向きはそうなだけで、今回の王妃様や筆頭公爵家達のせいで誘拐に巻き込まれた僕への、家族が要求した賠償の1つ。
僕は戻ってから数週間辺境城で高熱に魘される事になったからそれを知ったのは約1ヵ月後だったけど、目を覚ます度にかならず義兄様達のどちらかがいるからおかしいと思ってたんだよね。
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