132.専属侍女~sideルドルフ
ブルルルッ。
警戒するように鳴いたあれは····竜馬か?
足元に生えた鱗が光に青く反射している。
光は両手程の大きさの魔法灯だった。
「どなたです」
少し近づくとあの気色の悪い蔓科植物にサヤが出来ていて、中の種を取っているのがわかる。
肩までの長さの薄茶色の髪をした女だ。
冒険者のような出で立ちをしている。
魔法灯はこの女が出したのだろう。
竜馬の他に魔馬も2頭いた。
毛並みも艶も良い、締まった健康的な体つきから飼い主に大事にされているのが見てとれる。
魔馬は気性が猛々しく魔力耐性と持久性に優れた馬だ。
竜馬は俊敏性が高く足腰がしっかりしていて足に鱗が生えているのが特徴だ。
どちらも軍馬としてよく見る。
魔馬の方が体躯はデカイから獣人は魔馬を選びやすいが、気性が荒いから騎手が気に入らない時はたまに振り落とそうとする。
どちらの馬も1度主と認めたら絶対服従してくれるから世話のしがいはあると思う。
にしても3頭ともあの蔦食ってないか?!
····え、あれ食って大丈夫なのか?!
けっこうな勢いでムシャムシャしてるぞ?!
····まさか旨いのか?
驚きのあまり黙りこくって呆然とする俺に女は声をかけてきた。
手は全く止まる事なく、サヤをむしり取っては種を腰のポーチに放り込んでいく。
足下にはサヤの残骸が小さな山を作っているが、どれだけ収穫するつもりなんだ。
女は再び声をかけてきた。
「どなたかお返事いただけない場合殺す事もありますが、かまいませんよね」
いや、かまうだろう。
何でかまわない事前提、みたいな口ぶりなんだ。
あれ、このケープの効果が切れたのか?
「お前はベルヌの仲間か?」
「ベルヌとは?」
こちらからも声をかけるがやはり手を止める事はない。
今度は太ももに装着していた短剣で蔓の一部を切り取ってはポーチに入れていく。
もしかしなくてもポーチは見慣れつつある貴重なマジックバックだし、ベルヌが誰か知らない様子だ。
という事は····。
「俺達を拐った首謀者の1人だ。
もしやグレインビルの者か?」
そこで初めて女が、いや女性が振り返った。
訝しげな顔で魔法灯を俺の方に寄こす。
顔を確認するのだろう。
「君は····ニーアか?」
一瞬照らされた顔に見覚えがあった。
妹の専属侍女だ。
「ええ。
ルドルフ王子殿下ですね。
お久しぶりです。
何故お嬢様のケープを羽織っているのです?
お嬢様とはご一緒でしたか?」
魔法灯が再び持ち主の元へ戻り、短剣を仕舞うニーアの薄灰色の目に光を反射させる。
俺達が誘拐された事自体知らなかったのか?
それなら何故ここに?
それにしても随分と冷静だな。
「妹に言われて助けを呼びに私だけ出てきた。
魔力拘束具をつけられてしまって怪我で動けない護衛のルーベンスと体調が悪くなった妹を連れて出て来られなかったのだ。
すまない。
ケープは気配を消す為に使えと言われて妹から借り受けた」
「····妹とは?」
いつもは侍女服に身を包み表情をあまり変えない印象だったニーアが、整った顔立ちをやや不機嫌に歪める。
「君の主のアリアチェリーナ嬢だ」
「····左様ですか。
ですが人前でお嬢様を妹呼びになさるのは今後お止め下さい」
「何故だ?」
「今回の誘拐とやらですが、恐らくお嬢様は巻き込まれたのではございませんか?」
う、痛いところを突いてくる。
ニーアはいつの間にかいつもの顔に戻っていた。
「それは····すまない」
「それが理由でございます。
殿下が特別な扱いをなさればお嬢様は何かしらの危険に晒される可能性は高くなります。
これまでもこれからも、お嬢様はご自身を危険に晒す王家の方々に関わりたいとは思われないでしょう。
旦那様とお兄様方もお嬢様を関わらせるつもりはないはずです」
そう言われると元より知っているだけに反論できない。
「しかし····」
「何より殿下もお付きの護衛も無関係であるお嬢様を守れておりません。
本来お嬢様だけであったなら恐らくご自身で切り抜けられたでしょう。
常に備えるようにされていらっしゃいますし、場数だけは無駄にこなされていますから」
ん?
場数だけは?
確かに思い返せば誘拐されてから別れるまでの妹からは場慣れ感しか感じない。
「ですが殿下方がいらっしゃる事でお嬢様はご自身よりも殿下方を優先されます。
貴族だからではなく、それがお嬢様の性分です。
殿下はご自身を守る事すらおできにならず、現状お嬢様に守られてここにいるのです。
自分すらも守れない権力と力の象徴たる立場の殿下が不用意に特別扱いなどなされば、その者は要らぬ事件や事故に巻き込まれます。
お嬢様はただでさえ魔力0の魔術師家系の養女として狙われやすい。
その上体調を崩せば死にかけるくらいお体は虚弱なのです」
そうだ。
だから俺は今まで自分から積極的に動こうとはしなかったんだ。
それに今回の事で自分がいかに頼りなく、力が伴っていないかを痛感している。
「····そう、だな····アリアチェリーナ嬢には本当に申し訳ない」
「ご理解いただけて何よりです。
ご無礼を働きました事、大変申し訳ございませんでした」
ニーアは深く頭を下げた。
顔は無表情ながらも全く申し訳なく思って無さそうな気がするのは気のせいだろうか。
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