127.蹴りの応酬
ゴウッ!!
僕達のいる洞穴の出入口で発生した炎の竜巻は数秒もかからず僕とひょろ長さんの間を隔て、ひょろ長さんの方に襲いかかった。
「ふん、舐められたものですね」
しかし彼の周りを防壁が覆い、炎が霧散する。
そうして炎を纏っていた本体が姿を現した。
「····魔馬が何故····」
突然馬が炎纏って猛スピードで突っ込むなんて予想外だったんだろうね。
炎の勢い強すぎて竜巻にしか見えなかったし。
ひん剥くみたいに目を見開いてとっても驚いてる。
ブヒヒヒヒィーン!!!!
両方の前脚を防壁に掛けた状態だった彼は洞窟中に轟かせる嘶きと共に前脚で反動をつけて反り返って後ろ脚で立った。
バリィィィン!!
と思ったら、両方の前脚を防壁に打ち込んで破壊する。
「なっ?!」
ひょろ長さんは驚きの声を上げて後ろにたたらを踏むけど、水槍を造り出して放つ。
でも華麗な馬ステップでそれを交わして距離を取った。
「ちっ、馬のくせにぃ!!」
なんて言いながら僕と僕の可愛いお馬さんとの距離が離れたのを良い事に僕の方へ走り寄る。
それに反応してこっちにスタートダッシュをかけようとした怒り狂う野生の本能を現在進行形で絶賛炸裂中の彼の瞳を僕はしっかり見つめる。
だからほんの一瞬だけど僕の視線を受けた彼の到着が遅れてひょろ長さんが僕の腕を掴むのが早かった。
「転移を····ぎゃあぁぁぁ!!!!」
バチバチバチィィィィ!!
え、予想外の雷撃ならぬ雷柱になったんだけど?!
そう、僕はポケットから出した《バッチ来い電撃君》を細工してないただのポケット状態の方に入れ直しておいたんだ。
何かしら危害を加えようとしたら触れた瞬間雷撃するレイヤード義兄様お手製の撃退グッズだけど····え、威力凄過ぎじゃない?!
撃退じゃなくて殺るやつだよね?!
これ下手したらあの公爵令嬢に使ってたかもなんだよ?!
ちょっと義兄様?!
ドガッ!!
鈍い音したと思ったら、ビリビリ中のひょろ長さんに助走つけたお馬さんが体当たりしてぶっ飛ばしちゃった。
ワンバウンドして転がるとか、どこの漫画の世界観なんだろうね····死んだ?
「ディープ君!
待ってたよぉ!」
とりあえずあっちは無視して僕の可愛いお馬3兄妹の長男に抱きつく。
ていっても僕の身長だと彼の筋骨隆々の前脚にすがりついてるようにしか見えないだろうけど。
ヒヒィン、クヒィン。
「やぁーん、甘えた声も最高に可愛いんだから!」
さっきまでのバーサーカーモードから180度方向転換した可愛らしいいななきと、僕のお顔にスリスリする君は何て可愛いんだ!
お耳のちょっぴり冷たい感覚が僕の火照ったお顔に心地良いよ!
手をツンツンされるから、手の平を差し出すと、ペッと何か吐き出す。
····目印にするのに外に投げた僕の乳歯、拾ってきちゃったんだ。
ドレスの裾で拭いてそっとポッケにないないしておこう。
次捨てた時にまた拾ってきたらどうしようかな。
魔馬は魔力耐性がある他、多分鼻が利く。
あんまり知られてないのかそういうお話を誰かから聞いた事はないんだけどね。
彼が小さい頃にかくれんぼして遊んでたんだけど簡単に見つけてくれちゃうし、転んで擦り剥いたり切ったりして血が出ると山のどこにいてもすぐに飛んで来るから気づいたんだ。
「お嬢様!」
ザザザザ!
と風を捌くような音をさせて登場したのはできる女で僕の専属侍女のニーアだ。
「ニーア!
ロドロア!」
外見竜馬で中身は魔馬の次女、ロドロアに乗っている。
フヒィーン。
「もう!
君もとっても可愛いんだからぁ!」
甘えた声でこっちの子も僕の体に顔を擦り付ける。
もちろん両手で彼女のお耳の後ろあたりをモミモミしてあげよう!
「お嬢様、そろそろ」
「ふぐっ」
くっ、できる女はどんな時も冷静だ!
ロドロアから降り、僕を肩に担いで僕の憩いを強制終了させたニーアは長男の方に跨がってから僕を広い背中に座らせる。
鞍が付いてないから、慌てて駆けつけたんだろうね。
細身だから仕方ないけど、担がれた時に細い肩が僕のお腹にめり込んで変な声が出てしまった。
もちろんできる女はそんな事には動じないよ。
「あ、ニーア。
あれ、シル様なんだ。
お腹に治癒魔法かけて!」
「········わかりました。
もしかして、連れ帰りますか?」
ちょっと、何でそんなに嫌そうなの?!
沈黙長かったよ?!
もしかしなくても連れ帰るよ?!
でもできる女はちゃんとお腹に治癒魔法をかけてから狼少年を横向きにしてロドロアを呼ぶ。
ベッドと同じ高さに寝そべると····。
ちょっと?!
何で蹴り転がしてあの子の背中に乗せるの?!
びっくりしてたらごそごそと腰に下げたポーチから何か出して俯せのシル様の背中に置く。
種かな?
手をかざしてるのは魔力を注いでる?
あれ、何か発芽····。
待って待って、その蔓何なの?!
ちょこっとついてる黄色のお花に見覚えあるんだけど?!
もしかしてあの蔓自生状態で放置されてたのかな?!
でもってあの蔓から種採って今発芽させたの?!
できる女凄いね!
シル様が蔓でしっかり固定されたのを確認して、ふと気づいたように向こうの台に行く。
手にはあの《絶対ガード君·改》が握られていて、ポーチに収納しながら僕の所に戻ったニーアは何事も無かったかのように僕の後ろに跨がった。
「お嬢様ならあの植物に興味を持つと思って色々と採取しておきました」
色々とって、他に何採ったのかな?!
ニーアは僕の戸惑いを華麗にスルーしてポーチから幅広のベルトを出して僕のお腹と自分の腰を一緒にしめる。
「落ちないようしっかり鬣を握っていて下さい」
自分も鬣を握って軽く腹を蹴ると歩きだす。
あれ、入口はあっち····何でひょろ長さんのとこに····えー?!
ドスッ。
「んぐっ」
ディープ君が片前脚を俯せに転がったその背中に振り下ろして何食わぬ顔で入口に向かう。
鈍い音したけど····ま、まあ魔人属だから死ぬ事は····。
バキッ。
次は何事だと後ろを振り向く。
····ロドロアさんや····片方の後ろ脚が蹴り飛ばした後のように見受けられますが····。
声1つ洩らさず転がる位置が変わっているひょろ長さんは····見なかった事にしよう。
魔馬も竜馬も1度主って認定したら絶対服従するって聞いた事あるけど、もしかして主を傷つける者は馬に蹴られて死ねとか思うのかな····。
ま、うちの子達は可愛いから仕方ないね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます