105.三大筆頭公爵家

「ごきげんよう、レイチェル嬢。

わたくし達もお話しに混ぜて下さらない?」

「お話しするのはお久しぶりね、フォンデアス公爵令嬢」


 僕が全てのケーキを片づけた頃、2人のご令嬢が僕達の卓にやって来た。

もちろん僕は誰か把握してるよ。


 1人は黒髪に金茶の目のスレンダー清楚系美人、もう1人は赤金髪に菫色の目をした童顔ナイスバディ美人。

タイプは違うけど化粧取ってもきっと美人だなって顔の造りしてるよ。


「勿論でございますわ、セディナ様、スリアンナ様」

「ごきげんよう、スルフェルド公爵令嬢、カリェッド公爵令嬢」


 元々いた2人は立ち上がって礼を取る。

あちらの方が家格は遥かに上だ。

でもレイチェル様は名前呼びを許されてる仲だね。


「それから初めまして。

小さなレディ。

お名前をうかがってもよろしくて?」


 清楚美人が微笑む。

もちろんマナー通りにやるよ。


「初めまして。

アリアチェリーナ=グレインビルと申しますわ」


 僕も立ち上がって礼を取る。


わたくしはセディナ=スルフェルド」

「スリアンナ=カリェッドよ。

どうぞ、3人共お顔を上げて」


 清楚美人、童顔美人の順に自己紹介してくれる。

スルフェルド家、カリェッド家、そして令嬢がいないリュドガミド家の3家を総評して3大公爵家というんだけど····。


 え、何で来るの?!


 さすがに3大公爵家の前では手持ちのこの2人も盾にはならないなあ。

なんて思いつつも、僕は微笑みを顔面に貼りつけてるよ。

 

「あらあら、可愛らしい」

「どうぞお掛けになって」


 童顔美人に褒められちゃった。

役得だね、僕のお顔。

令嬢達は空いた席に適当に並んで座った。


「ふふふ、やっと噂のグレインビルの妖精姫にお会いできましたわね、ディナ」

「ええ、リナ」


 なるほど、2人は愛称で呼ぶ仲か。


 かつて王妃や側妃を輩出してきた歴史の古い家々だから、そういうの狙ってバチバチやってるのかと思ってたんだけと本心から仲が良さそう。


 だって美人さん達は時々目を合わせて微笑み合ってるもん。

今の王妃様は確かカリェッド家の分家筋が生家だったかな。

側妃はここ何代かの国王達は選定してないよ。


 それにしても僕のあだ名が悪魔使いだったり妖精姫だったり、よく変わるのかな。


「ねえ、レイチェル嬢。

その扇が気になるのだけれど、見せていただける?」

「もちろんでしてよ、セディナ様」


 扇を1つ椅子を空けて座るスルフェルド公爵令嬢に手渡すと、パラリと開いて軽く扇ぐ。


「小耳に挟んだ通り、優しい花の香り。

ほら」


 隣のカリェッド公爵令嬢をそっと扇ぐ。

仲いいな。


「素敵ね。

香りもそうだけれど、このレースも」


 楽しそうに微笑む清楚美人とうっとりとレースを眺て呟く童顔美人。

絵になるね。


「ねえ、グレインビル侯爵令嬢。

これはあなたが作ったのよね。

レイチェル嬢への贈り物かしら?

このレース、私とっても気に入ったわ」


 にっこりと僕に向かって微笑む童顔美人。

面倒な臭いがしてきたぞ。


「あら、リナ。

とても素敵に思っているのはわたくしも同じよ?」


 にこりと僕に向かって微笑む清楚美人。

何か笑みに圧がこもってない?


「ねえ、私とリナにもそれぞれの瞳の色で作っていただけないかしら?

この扇のように部分的に金糸を使って」

「あら、素敵ね。

是非お願いするわ」


 うん、断る。


 そもそも引き受けるの前提で話してない?

確かに僕の家は彼女達より格下になるけど、お断りだよ。


 それよりも何か寒い?


 向こうにいるバルトス義兄様は特にこっち見てないし、天気でも崩れるのかな?

義父様達が山にいるから心配だな。


 王子はどうしたんだろ。

ん?

義兄様の方チラチラ振り返ってる?

あ、シル様が話しかけた。

軍服ツーショットご馳走様です。


 あっちの王族の卓は三大公爵家のご夫人達が戻って取り巻きやら王子狙いのご令嬢を引き連れた夫人達が列を成してる。

皆金か黒をドレスや装飾品に取り入れてるね。

王子の髪と目の色だよ。

レイチェル様の青の扇にも金の小花糸をあしらったんだけど、行かなくていいのかな?


 それにしても義父様とレイヤード兄様はそろそろ何か狩れたかかな。

もしいたらでいいから火蜘蛛と氷竜の素材が欲しいって言ってあるんだけど、どっちも今の時期は難しいだろうな。

2人共怪我だけはしないでね。


「グレインビル侯爵令嬢?」


 おっと、返事をせずに少し間が空いたから清楚美人に呼びかけられちゃった。


「そう言っていただけて嬉しゅうございますわ。

ですがそれと同じ物を私がお2人にお作りするよりも、レイチェル様にお願いする方がお早いのではございませんか?

ね、レイチェル様」


 僕はこんな時の為にあらかじめ用意してあった台詞を口にした。


「あら、何故だか教えて下さらない」


 断られるって思わなかった?


 童顔美人がほんの少しだけど言葉に圧をこめて僕とレイチェル様を見る。

従姉様は体を強ばらせちゃった。

大丈夫だよ。


「まず1つは私の体調はいつ崩れるかわかりませんわ。

1度崩れればまともに起き上がるだけで一月はかかりますの。

レースを作れるようになるまでにはもっとかかりますから、いつまでにできると確約できませんわ」


 一応困り顔も貼りつけとこうかな。


「まあ。

お体が弱いのは耳にしておりますが、そこまで?」


 なおも何か言おうとした童顔美人を清楚美人がそっと制する。


「左様でございますわ」

「そう。

でもどうしてレイチェル嬢にお願いするの?」


 まだ不服そうだね。


「このレースは私が扇を受け取った時点で私の領で生産販売すると取り決めているからですわ。

既に製法はあらかじめ選定していた者に伝わったはずですの」


 レイチェル様がにこやかに答えてくれる。


「まあ。

それであなたにお願いする方が早いとおっしゃったのね」


 清楚美人が頷くけど、まだ童顔美人は納得してないのか返事がないね。


「はい。

それにこれにはブルグル領の孤児院の救済措置も織り込んだ我が領の事業の1つとなりますわ」

「孤児院の救済?」


 童顔美人の表情が変わったね。

他の卓にいる夫人達の目も集めたみたいだし、後は自分で宣伝してね、レイチェル様。

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