104.狩猟の開始~レイヤードside

「皆の者、本日の狩猟祭によくぞ集まってくれた。

大義である····」


 鳥の囀ずりをバックに国王の挨拶がやっと始まった。

早朝とは言えないけど、まだ朝のうちだから山頂は快晴だけど空気はかなり冷たい。


 早朝、僕達は断腸の思いでアリーを残して辺境城に登城して広いホールへと案内された。

ホールの奥には城と山頂を繋ぐ転移用の大きな姿見のような魔具が設置されていて、下位の家格の順に魔具の横に立つ国王陛下夫妻と王太子、第2王子のルド達王族と短い挨拶を交わしてから魔具を通り、各家ごとに転移していった。


 王族のすぐ後ろでは警護に当たる近衛騎士団と王宮魔術師団の団長、副団長達がそれぞれ控えている。

もちろん全員顔見知りだけど、今はお互い反応しない。


 昨夜遅くに突如ゲストハウスに来たと思ったら従妹との騒動を聞いて、リビングなんかを凍り漬けにした兄上は軍服だ。


 ····アリーが喜びそうで面白くない。


 今のうちに雷撃して軍服を丸焦げにしてしまいたい気持ちをぐっと堪えて挨拶をした。


 けれどその時、後ろに控える仕事モードの顔が一瞬得意気になったのを見逃してないからね、兄上。

狩りが終わった後のアリーの反応次第では覚えてなよ。


 山頂に着くとまずアビニシア侯爵と兄上と同い年といくつか年上の2人の令息が出迎えて挨拶を済ませる。

その後決められた場所に案内されて参加する家が全て揃うまで待機した。


 僕達はアリー達と同じくフォンデアス公爵家と行動を共にする事になったので、一緒に転移してここまで来たけど、正直不服でしかない。


 下位の家格から転移していったから待機時間はあまりなかったけど、今目の前にいる王族は国王陛下と王太子、それからザルハードから留学中のあの問題王子が加わっている。

その後ろに控えるのは近衛騎士団副団長と王宮魔術師団団長だ。

王妃はともかく、ルドがいない。

何だか嫌な予感がするな。


 国王陛下の有難いとも言い難い挨拶を聞きながら、目当ての魔物を狩ったらさっさと終わらせようと心に誓う。


 そろそろ挨拶も終わりそうなところで父上が小声で話しかけてくる。


「レイヤード、予定通り私は火蜘蛛を掘りにいく」

「わかってます。

僕は氷竜ですね」

「そうだ。

どちらかが先に片づけたらもう片方に合流してなるべく早く終わらせて戻るぞ」


 父上もルド、この国の第2王子がいないのが引っ掛かっているんだろうな。

お互い頷き合う。


「いやいや、待って、ヘルト。

火蜘蛛って今冬眠から目覚めるか目覚めないかの触発したら1番危険なやつね。

1匹とかじゃないんだよ?

下手したら冬眠中に産卵してるし、群れるんだよ?」


 相変わらず騒がしい伯父上が父上に詰め寄る。


「ちょうどいい。

卵もいくつか採取できるし、アリーに言われた実験もしやすいな」

「え~?!

母蜘蛛本気で殺りに来ちゃうよ?!

実験て何?!」


 まあ父上が相手にするからいいか。

て思ってたら、こっちは従兄の相手が待っていた。


「氷竜って正気?!

古代龍じゃないから楽とか思ってない?!

竜だからね?!

しかも山はまだ雪あるから向こうが有利なんだよ?!

ちょうど春眠前だから気がたってるし餌もムシャムシャしてて危険なやつだよ?!」


 父子でうるさいなぁ。


 父上は伯父上と、僕は妹もまともにしつけられなかった従兄と組む事になってるから仕方ないけど。


「「それで?」」

「「え~?!」」


 僕達と伯父上達でそれぞれハモるけど、父上と僕は朝から不機嫌だ。


「まだ怒ってる?」

「怒らないとでも?」

「でもでも、アリーも納得してくれたし、アリーの提案も受け入れたし、機嫌治してよ~」

「レイヤード、ちゃんとは母上にも秘密にしていたんだし、そろそろ機嫌治して欲しいな。

ほら、従兄のお願い」


 この2人、どういう角度が母上に似るか研究してきてないかな。

でも本当にまともに効果を発揮するのはアリーに対してだけだってわかってないの。


「そのせいでアリーがお茶会で目立つ事になるんだけどね」

「「はぅ!」」


 父子揃って同じように頭抱えるって、仲良いね。 


「それでは、狩猟祭を開始する」


 アビニシア侯爵が国王陛下の隣に並び、右手を頭上に掲げる。


 手の平に小さな水球が集まり、すぐに両手を広げた位の大きさの球になった。

それを風魔法で一気に空へと飛ばし、そこに国王陛下が火力を圧縮させた火球をぶつけて破裂させた。


 ドーン!!

 ドーン!!


 それを2度繰り返し、開始の合図となった。


 そして本来なら水滴が雨のように降り注ぐけど、火力を圧縮させていた為に水球は滴より蒸気に近いのと、山頂と上空の冷えた空気で凍ってキラキラとしたダイヤモンドダストとなって光の粒子のカーテンが上空をはためかせて消えた。


「「幸運を!!」」


 国王陛下と侯爵が一緒に叫ぶ。


「行くぞ」

「行くよ」


 父上と僕は顔を見合わせてからそれぞれの騒がしい半泣きの相方を連れてその場を後にした。

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