84.謝罪
「兄様、ありがとう」
予定より少し早くて夕方より少し前にはゲストハウスに到着したよ。
レイヤード義兄様がすぐに馬車の扉を開けてお出迎え。
うん、数時間ぶりに見る義兄様は相変わらず凛々しくて格好いいね。
馬車の中はお通夜みたいに暗いけど、気にしない。
義兄様も全く気にしてない。
義兄様に手を引かれて馬車から降りてみれば伯父様と従兄様もいた。
「アリー、お疲れ様。
アレは放っておくといい」
にしてもアレって、義父様····。
相変わらず美中年で義兄様と並ぶと眼福この上ないけれども。
色々聞いたのか伯父様はアレ呼びには全然反応しない。
金髪翡翠眼のよく似た2人はすっごい申しわけなさげなお顔だよ。
あれ、2人ともズボンの裾が焦げてる?
狩りの練習でもしたのかな。
「アリー、中に入ろう。
公爵夫人も中で待っている」
「はい、義父様」
おや?
いつもは伯母様を名前で呼ぶのにどうしたのかな?
あ、義父様と伯母様も同じ学園に通ってて、義母様を介して知り合った先輩後輩なんだ。
学生時代から名前で呼び合ってて、今もそうなんだけど····義父様、今回の件は相当怒ってるんだろうなぁ。
チラリと素敵なご尊顔を見ると抱き上げられちゃった。
「長時間馬車で揺られてたんだ、疲れただろう」
「うちの馬車は特別仕様だから平気だよ。
父様こそ、疲れてる?」
「色々と不愉快ではあるけど、疲れてはいないよ」
うん、笑顔が爽やかだ。
抱き上げられたおかげで細身ながら逞しい肩越しに公爵家の2人がビクリと震えたのが見えたけれども、気のせいにしとこう。
従兄様が中に向かって声をかけたみたい。
あれ、使用人ぽい人がどっかに連れてってる?
僕のお願いは却下されちゃったのかな?
「アリー、大丈夫だよ。
でも本気なの?」
義兄様ったら、僕の心を読んだの?
新手の魔法かな?
「心を読む魔法は知らないよ」
あれ、そうなの?
今も読まれた気がするんだけど。
好奇心に駆られて無言で会話しようと試み始めた僕に苦笑する義兄様も素敵ですが、僕の頭をぽんぽんと撫でる義兄様はもっと素敵です。
「アリー、顔に出てるだけだ。
久々に見る私の娘は表情豊かで可愛いね」
「可愛い僕の妹ですから。
お疲れなら僕が喜んでアリーを抱っこしますよ、父上」
「お前も可愛い私の息子だから、一緒に抱っこしてあげようか?
疲れてはいないから遠慮しなくていいんだよ」
「遠慮しますよ、父上」
嘘、遠慮しちゃうの?!
そんなレアな景色、最高じゃないか!!
「アリー、妙な期待はしちゃダメ」
「ふぎゅっ」
くっ、やはり心を読まれている?!
お鼻を軽くつままれて変な声が出てしまってちょっぴり恥ずかしい。
なんてやり取りをしながら中に入って行く。
ログハウスみたいで木の香りに癒される。
「····ガウディ、さっきまでの地獄のような凍てつくブリザードが消えたぞ。
今日は暖かかったのか····。
また冬がぶり返したのかと思っていた」
「父上、何があってもこれからの話し合いにアリーという暖房を手放してはいけません」
「「さすが、グレインビルの悪魔使い」」
····僕の知らないうちに何があったんだろ。
顔を突き合わせてうんうんと頷く金髪2人。
あ、そのほっとしたお顔、義母様に似てる。
2人はすぐ後ろをついてきてるからよく見えて、いい!
「····素敵」
思わずうっとりしちゃった。
思ってた言葉がうっかり口から漏れちゃったよ。
「父上、絞め足りませんね」
「そうだな。
私の可愛い娘にうっとりされるとは、何よりも許しがたい」
義兄様、足りないって····絞めたの?
義父様、姪の時より怒ってない?
「クラウディアの件より怒ってないか?!
よくわからんがヘルト、ごめん、許して?!」
「アリー、後でケーキあげるから!
お願い、うっとりしないで!」
「····嘘、母様がコラボしてる····素敵か」
2人のお願いのそのあざと可愛い感じ、さすが公爵家!
何言ってるのか入ってこないくらい、うっとりが止まらないよ!
「絞めずに殺す」
「アリー、とりあえずそいつら消すから私にもうっとりしていいんだよ?」
「「いや、物騒!!」」
わー、僕の大好きなお顔がコントしてる。
し·あ·わ·せ。
とか思ってたら公爵家当主の専属執事、ワイズさんが控える両開きの扉の前に到着。
ワイズさんはうちのセバスチャンと同い年くらい。
初老の執事さんで、時々伯父様についてうちの屋敷に来てるんだ。
セバスチャンとも仲良く話してるのを見たことあるから、執事友達?
セバスチャンもだけど、ワイズさんも僕の可愛いお馬の兄妹の妹の方に乗れちゃうから、見た目ほど年取ってないのかも。
ワイズさんと目が合うと軽く会釈して扉を開けてくれた。
僕達5人が入った後に続いて、そのまま扉をそっと閉めてくれた。
中は大家族が3組くらい入っても十分なくらいに広いし、食事をする大きなテーブルの他にくつろげるようなソファと暖炉もあって、貴族の別荘とログハウスの間くらいの建物なんだろうね。
今回みたいな狩猟祭に備えていくつか建てたうちの1つじゃないかな。
ちゃんと手入れもされてて、今の時よりもっと昔は時々キャンプしたり友人のログハウスに泊まったりしてたからこういうの好きなんだ。
あの時のログハウスはもっとこじんまりしたやつだったけどね。
「久しぶりですね、アリアチェリーナ。
此度はうちの愚娘が本当に申し訳ない事をしました」
奥から亜麻色の髪に茶色の目をした落ち着いた雰囲気の女性が後ろに侍女を伴って現れた。
彼女からは紅茶と焼きたてクッキーの甘い香りが漂うから、多分用意してくれてたんだろうな。
僕の目の前に来ると静かに頭を下げる。
公爵夫人の彼女がこんな事をするのは異例中の異例だと思うけど、公爵家当主の伯父様はさすがに····。
「本当にクラウディアがすまない!」
わお、素早い。
伯父様ってばタイミング見計らってたのか。
確かに他の貴族の目もあるかもしれないゲストハウスの前では謝罪なんかできないよね。
伯父様は土下座する勢いで僕の前、伯母様の真横でほぼ90度の直角に頭を下げた。
次いで従兄様も伯母様の逆の隣でそれにならう。
「頭を上げて下さい」
義父様に僕を降ろしてもらい、そう声をかけた。
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