79.美味しいケーキと真のお願い
「「「「····」」」」
え、いつまでこの沈黙が続くんだろ。
僕とは机を挟んで対面のソファに座る視線を下に向けて表情が抜け落ちた
僕の左真横に相変わらず両腕両足を組んで責めるような視線を従兄に向ける
僕の右側の1人掛けの肘付きソファで悠然と足を組み、視線を僕とは反対方向に向けてる
うん、埒があかないね。
ほっとこうっと。
僕はとりあえず残りのケーキを食べ始める。
まずはチーズケーキ。
ふむふむ。
ふわりとアリリアの独特の香りが口から鼻に抜ける。
あ、元の世界でいうなら桜餅の香りに近くてもう少し蜜の風味が強いかな。
そのままだとめちゃくちゃ酸っぱいんだけど、火を通したのとチーズケーキの酸味と甘味にマッチしててほどよく落ち着く酸味に変わってる。
普通に作るよりもっちりした食感は例のお粉ですな。
緑のお粉が微かな苦味をアクセントにしてて甘すぎない。
次はチョコレートケーキ。
最初見つけた時はただ苦いだけの茶色の物体だったのが懐かしい。
そうそう、これの元はカカオ豆じゃないからね。
カバオ瓜っていう瓜科植物の受粉しなかった雌花なんだよ。
厳密には雌花の花弁の下の実になる予定の子房。
僕の元の世界でいえばカボチャが近いかな。
受粉しなかった時って子房が最後は茶色く変色するでしょ?
ここの世界のカバオ瓜ってなかなか受粉が成功しなくて茶色の子房がゴロゴロ転がってたんだよ。
主に従兄様の領で。
ちなみに無事に受粉すると柄のない外側緑の黄色スイカになるよ。
発見した時はものすっごくテンション上がった。
もらった苗を育ててたから無駄になるのが可哀想で茶色の子房を食べられないかなってかじってよかったよ。
庭師のお爺ちゃんはドン引きしてたけど。
話は戻って例の白いお粉でこちらも、重くしっとり重厚なショコラの風味だね。
緑のお粉の配合を真ん中と上下で変えた事で味のグラデーションが出てる。
グラッサージュショコラでコーティングしてるから乾燥からも生地を守ってくれるし風味をちゃんと閉じ込めてるから口に入れてから鼻に抜けるまでのショコラのほろ苦い風味が新鮮だ。
「えっと、アリー?」
ついつい場の空気を読まずにニコニコしながら食べてたら、従兄様が遠慮がちに話かけてきた。
僕はお口の中を飲み込んで紅茶を一口すする。
「どうかしたの、従兄様?」
え、気にしないの?みたいな驚き方されてもなぁ。
そのお顔は伯父様と伯母様足して割った感じかな。
そそられない、残念。
「いや、この沈黙を物ともせずにケーキ食べ始めたから」
「だってケーキに罪はないもの。
それに何でこうなったか誰からも聞かされてないから口の挟みようもないでしょ?
でも話してた事は
ねぇ、今回の件て私への中傷が行き過ぎてこうなったの?
でもって学園あたりで彼女は間違ったアピールをレイヤード義兄様にしたのかな?」
僕は気まずそうなお顔の従兄様から義父様に視線を移す。
「今日の昼間に伯父様からホントは何かしらお願いされてたんじゃないのかな?
さっきの勝負、僕が勝ったの忘れてないんだからね。
笑顔の僕に対して義父様は少し不服そう。
「え、でも断ったって····」
従兄様ってば、まだまだ自分の父親の事がわかってないなぁ。
「伯父様ってそういうところ抜け目ないもの。
断ってたのを最後まで聞かずにお願いするだけして向こうが勝手に通信を切ったんじゃない?
これで公爵家としてはうちにお願いした事になるもの」
義父様は片手を伸ばして僕の頭を優しく撫でて微笑んだ。
うん、素敵な微笑み。
僕もつられて微笑む。
「私の可愛い娘は本当に頭と察しが良いね」
「んふふ、褒められると嬉しいな。
でも、流されないからね」
義父様の笑顔がフリーズする。
「明日合流するまではまだ伯父様も伯母様も何がどうなったのか知らないんだよね。
だからフォンデアス公爵令嬢に対する次期フォンデアス公爵閣下の最終決定は現フォンデアス公爵閣下の正式な決定にはなってないんだよ」
義父様の困り顔も珍しくて好きだな。
僕の真横にいる義兄様は多分従兄に殺気を向けてるね。
従兄様はハッとした顔をしたけど殺気に一瞬ビクッと震えて固まっちゃった。
次は殺気を従兄に惜しみなく放つ義兄様の説得かなぁ。
仮にもA級冒険者の義兄様に殺気を向けられてそのくらいで終わってるんなら従兄様もそこそこ肝が据わってる。
それに実際どこまで怯えてるんだろうね。
でもその前に僕の大事な義兄様に彼女が何をやらかしてくれたのか聞いてからだよ。
「ねぇ、従兄様。
全てを包み隠さずに
伯父様が本当に娘を任せたいのは娘が忌み嫌う僕なんだと思う。
息子の行動なんかとっくに読んでるし、直情暴走型の娘に本当の意味で痛い目見せて矯正できるのは彼女が敵意を向ける僕だけだろうね。
でもいくら義母様と血の繋がりのある兄や姪だったとしても、事と次第によっては見捨てるよ。
伯父様一家は僕の家族ではないし、僕の家族を娘の為に使おうとしてるのはとっても不愉快でしかないんだからね。
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