54.1人商業祭デビュー

「ケルトさん、お久しぶりです!

これ10本ちょうだい!」

「お、え、ん、坊っちゃ····何だよ、やっぱ嬢ちゃんじゃねえか!

今年も祭りに来たのかい!

うちの商品気に入ってくれたみたいでカイヤも喜んでたよ!

そういや頼まれてたアレ、用意してるってよ」

「ふふふー、の格好似合ってるでしょ!

今日は僕1人でお使いにきたんです!

本当に美味しくて、新作料理も研究中ですよ!

これからカイヤさんに会いにブースへお邪魔するつもりだから、今日受け取れるんですね!

やったぁ!」


 ひとしきり喜んでから、ふと思い出してマジックバッグをごそごそと漁る。


「はい、ケルトさん、差し入れ!

僕がベイで作ったんで、お腹空いたら食べて下さい」

「へ、いいのかい?!」

「もちろん!

ケルトさんの串焼きのお陰で商会にたどり着いたし、納品でもお世話になってますから」

「へへ、じゃあ昼休憩の時にでもいただくよ。

ほら、におまけだ!」

「うわぁ、ありがとう!

じゃあまたね、ケルトさん!」

「おぅ、気をつけてな」


 ふっふっふ、僕は町の少年の格好をして、毎年恒例のこの商業祭に1人できたのだ!

髪は三つ編みにして帽子の中に隠しているよ。

カイヤさんとは去年初出店だった東の商会のブースで対応してくれたケルトさんの奥さんの名前。

実は商会の会長だったのにはびっくりしちゃった。

商会からの色々と定期購入してるから、納品に時々ケルトさんが領に来てくれてるんだ。

ケルトさんからおまけも入った串焼きの袋をマジックバッグにしまう。


 今年は西の商会に新しい商品が充実してるって聞いたから、まずはそっちのブースに行ってみようっと。


 少し背が伸びた僕は人混みに流される事もなくきょろきょろしながら暫く人混みをかき分けて行くと、なんだか懐かしい匂いがする。

こっちでは嗅いだことない匂いなんだけど、はてさて何処からかな?


「そこの坊っちゃん、うまいよー!」


 あれだ!


「1つちょうだい!

これ初めて見たんだけど、つけて食べるの?」

「今年初出店だからな!

そこに添えてある白い平べったいパンをスープに浸すようにつけながら食べな。

具はパンで挟みながら食べるんだ」


 黄色っぽい茶髪に焦茶つり目で20才前後のヤンキー風な獣人さんだ。

髪と同色の虎柄の焦茶の入った尻尾でお耳は頭に布巻いてしばってるから見えない。


 僕は言われた通りにして食べる。


 やっぱりカレーとナンだ!

あっちの世界の本場の味に近い。

当たりだね!


「ん!美味しい!

このスープってどうやって作るの?

初めて食べる味だけど、調味料って商会のブースに売ってるのかな?」

「へへ、ありがとよ!

西にあるブランドゥール国の主食だ。

西の商会に行きゃ調味料は売ってるが、スープの味は何種類も混ぜて作るから難しいかもしれねぇぞ。

バゴラに紹介されて来たって言やぁ、商会の奴らが教えてくれるはずだから、行くなら気をつけて行けよ!」


 ニカッと笑ったお顔は愛嬌があるね。

ヤンキー風だけど、嫌いじゃないな。


「ありがとう、お兄さん!

美味しかった!」

「あぁ、またな!」


 僕は足取りも軽く真っ直ぐに西の商会のブースに向かって歩きだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る