52.とんでも爆弾発言~sideギディアス

「天使に嫌われたのか、俺は?!」

「何この世の終わりみたいな顔してるんだい。

邪魔しなかったんだから嫌われるわけないよ。

それにアリーは君達家族だけは絶対嫌わないでしょう」

「そうか···そうだな。

明日から暫く天使週間にするから、仕事は休む!」


 あ、これ認めたら絶対休むね。


「何言ってるの。

そんな理由では認めないよ」

「お前は悪魔か!」

「王太子で、君の上司。

どのみち明後日は休みだったんだから諦めてよ。

てことで、私の側近になりなよ」


 どさくさに紛れて勧誘するも、いつも通りすげなく断られる。


「断る。

仕事に戻る。

父上はどうされるのですか?」


 よしよし、いつものバルトスに戻ったね。


「····私は後でアリーの所に行くよ。

体も気になるし、離宮とはいえ城に1人で泊められないだろう。

嫌われたくないから、もう少し寝入った頃にね」


 侯爵は彼の隣に座ってお茶を片手に優雅に寛いでいると思ってたけど、反応が鈍いところを見るともしかして人知れず打撃受けてた? 


 バルトスは結界をそのままにして部屋を歩いて出て行った。

魔具もなしにかけた本人がいなくなっても継続させる力量は相変わらずだな。

多分小一時間はもつだろう。


 さっきは侯爵の張った結界をものともせずに転移するし、本当に側近としていてくれれば心強いのに。

状況からして光の精霊王が無理に乱入して結界を歪めた所からバルトスがこじ開けたんだろうけど、それで反発も起こさせずに綺麗に解除させた侯爵だってとんでもない実力者だ。

普通は反動で僕もバルトスも無事ではいられない。

転移魔法が高位の魔法とされる由縁だ。

扱い1つで術者の命を簡単に奪いかねない。


 人払いしたこの部屋には私、王子、侯爵、精霊王の4人だけになった。


 アリーが闇の精霊に連れられて退出してからお茶と軽食だけは用意させていたけど、光の精霊王が侯爵と間をあけた隣で呑気にお茶をすすりながらサンドイッチを食べている。

靄以外の精霊なんて初めてだけど、存在感ありすぎじゃない?

というか、もう普通の人にしか見えない。

王子の護衛は相変わらず後ろに控えているけど、こっちはこっちで竜人だったとは驚きだ。


「精霊殿、先程の話ですが····」

「い·や·よ!

そもそもザルハード国の連中なんていけすかなすぎて関わりたくもないんだから!」


 意を決して話しかけたゼストゥウェル王子、玉砕だ。

彼女は輝くような金髪揺らしてふん、とそっぽを向いてしまった。


 あ、王子は泣きそうなのを必死で堪えてる。


 世間知らずではあるけど、まだ13才の子供だしね。

ここ最近のグレインビル一家や僕達兄弟に王子としてのプライド折られまくった挙げ句、祖国の神格化されてる光の精霊王にとどめ刺されたらそうなるよね。

援護射撃だけはしといてあげよう。


「しかしあなたはザルハード国第三王子を守護されているのでしょう?」

「ふざけないで!

あんな中身がない大人の言いなりのカスッカスの不遜なだけの子供なんか何で守るのよ!

特にあの子供の周りの大人なんて不遜に加えて薬漬けも多いし、気持ち悪すぎよ!

そもそもあの子供も教会の奴らも精霊の靄すら見えてないし、魔属に取り憑かれてるじゃない!

あんな国の王族なんて1人でも守護したら光の精霊王である私の沽券に関わるわ!

私が見限ってクソ闇と入れ違いで出てった時から、精霊なんかほとんどいないわよ!」

「「····」」


 打ち返されるどころか、とんでもない爆弾発言の投下に王子も私も絶句だ。

これ、聞かなきゃ良かったやつだ。

侯爵のポーカーフェイスが憎らしい。


 アリーは知っててあえて言わなかったね。

完全に隣国の腐敗話だ。


 というか、魔属って何の事?!

そりゃ投げやりに丸投げしようとするよ。

10才の侯爵令嬢が関わって良い問題じゃないよ。


「アリー、泣かせちゃって悪い事しちゃったなぁ」


 あ、思わず口に出してしまった。


「確かにあの時のあれはアンタが1番悪いわよ。

良い大人が10才の子供に詰めすぎだわ。

でも感情が不安定になって泣いたのは光と闇の加護を一気に受けたからよ。

魔力があれば加護をいくつ貰っても、属性が相剋同士でも問題はないけど、魔力がないと加護が上手く吸収できなくて精霊の属性の影響が悪く作用する事があるの。

今回は闇の精神性への影響で不安定にさせてしまったのね。

だからクソ闇が側についてサポートして正解なんだから、ヘルトも睨みきかせちゃ駄目よ。

私の加護で体は大丈夫だし、1日寝れば闇の加護も落ち着くわ」


 言うだけ言って気が済んだのか、じゃあね、と消えてしまった。

精霊とは何とも気まぐれなものみたいだ。


「とりあえず時間も遅くなったし各自撤収しよう。

食事はそれぞれの部屋に運ばせるよ」


 そろそろこの場もお開きにしようか。

でも彼に釘は刺しておかないとね。


「ゼストゥウェル王子。

先程の精霊王の発言は他国の問題となる以上、アドライド国として関わる事はできない。

それに魔属については恐らく君も私も知識不足な為に個人的にも不用意には関われない。

ただ留学中の君の後見人として、これだけは言わせて欲しい。

これからの問題をどうしていくのか、その時期については行動するよりもまずはよく考えるんだ。

君自身の自国での味方の把握、力関係、関係性、民達の意思、そして魔属について。

その全てを掌握してから行動しなければ間違いなく君は失脚する。

何よりも今は君自身の王子として、王族としての在り方を相応しい物にする事の方が先決だと思う」


 アドバイスは終わりだ。

私は1度話を区切って雰囲気を真剣なものに変える。


「そしてアリー嬢を巻き込むのは許さない。

彼女はもう十分に君に尽力してくれたんだ。

油断すれば命を落としかねない程体の弱いまだ10才の令嬢だという事を忘れないで欲しい」


 王子もそれに応えるように背筋を伸ばす。


「わかっています。

侯爵、明日改めてアリアチェリーナ嬢に礼を伝える事だけは許して欲しい。

その後は関わらないと誓う。

ギディアス殿、まずは私が留学中に己の在り方を学び直す事を優先させます。

後見の範囲内で、至らぬ所をご指導下さい」


 侯爵と私のそれぞれに頭を下げた。

すでに王子としての覚悟は決めたみたいで何よりだ。

私達は頷いて、それぞれの部屋に戻った。

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