46.豊胸の奇襲

「訳をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 僕の目を真っ直ぐに見つめてきっぱり断ったのは合格だけど、まだどうするか判断できない。


「もし弟が、第二王子が生きていれば、きっと今の私などでは比べられない優れた王太子に、そして将来は歴史に名を残せる賢王になっただろう。

それくらい弟は秀でていたし、誇らしく思っていた。

何より私は臣下として支えたかった」


 僕の目を見つめる王子の顔が曇る。


「しかし弟は亡くなり、その指輪の精霊石と精霊殿を死の間際に託された。

託されたからこそ私はせめて弟の足下に及ぶ程度には劣らぬ王太子を目指そうとした。

精霊殿はそんな私をずっと励まし、共に戦ってくれたかけがえのない友なのだ。

第二王子が亡くなって暫くして、教会から光の精霊王が第三王子を守護しているとの宣言が下った。

その頃から私の中に焦燥感が生まれ、当初の気持ちを忘れて第一王子としての立場に拘ってプライドばかりが高くなり、傲慢になった。

今回の事でそう痛感した」


王子は1度顔を俯けたが、大きく息を吐くと顔を上げた。


「弟が死の間際に精霊を守れと言った本当の意味、そして途切れた“友達にな”の後に続くだろう言葉を今更ながらに思い至った今は、余計に他の精霊など必要ない。

だから私の命をかけても精霊殿を救う道があるのなら、その道にすがりたい。

もし精霊殿を助ける方法を知っているならば教えて欲しい。

この通りだ、アリアチェリーナ嬢」


 王子は再び頭を下げる。

でもまだ駄目だ。


「精霊を守れと言った本当の意味とは、どのようにお考えでしょうか?」


 彼は頭を下げたまま答える。


「ザルハード国にとって精霊は力を貸して当然であり、全ての精霊の中で光の精霊こそが高位の精霊と認識されている。

しかし精霊に優劣をつけるなど傲慢かつ愚かでしかない。

何より精霊を使役するなど考え違いも甚だしい。

精霊に認められ、友となれる事はあっても己が彼らの主であるはずがないのだ。

彼らには彼らの感情と価値観があり、優先すべき彼らの理があると我が国の全ての者は知るべきだ」


 そう言うと顔を上げる。

今度はしっかり覚悟を決めた顔をしているね。


「それに建国についての認識も何故か歪んでいる。

だからこそ、その誤った認識を支持する傲慢たる第三王子、そしてその裏にいる教会には王族として主導権を渡すわけにはいかない。

もちろん我が国に長らく根づいた認識や価値観だ。

変えていくのは難しいのは百も承知している。

当然だが長い戦いになるだろう。

それでも変えなければいつか我が国は精霊達に見放され、衰退していくはずだ。

我が国の国民1人当たりの平均的魔力量が昔と比べて減少しているのもそのせいだと考えている」


 おや、腐っても王族だった。

ふふ、我ながら酷い認識かな。

でもやらかされたことが悪辣だったんだから、考えるくらいいいでしょ?


「頼む、どうか精霊殿を助けて欲しい」


 僕が返事をしなかったからか、再び頭を下げられちゃった。

気がすんだし、もういいか。


僕は息を吸ってゆっくり吐くとどこへともなく声をかけた。


「フェル、いるよね?」

「キャー!

やっと呼んでくれたのね!

嬉しいわ!」


 僕は突如として金髪緑碧眼美女の豊満で柔らかな胸で真正面から顔面に奇襲を受けた。

胸がそれなりに開いたドレスだから何気に素肌への密着性が高い。


 あれ、義父様、結界は?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る