45.代わりの精霊

「随分と王族らしからぬことをされたのですね。

指輪を見せて下さいますか」


 話を聞いて、あまりの失態の数々に他人事ながら愕然としてしまった。

しかも僕のいない所で義兄様にもいっぱい迷惑かけてるし!


 この王子、というかザルハード国の王族ヤバイよ。

唯一の救いが護衛のリューイさんだけとか、引くわぁ。


「返す言葉もない。

アリアチェリーナ嬢にも、本当に申し訳ない。

必要であれば、いつでも守護用の魔石や護衛を用意する」

「信用できない護衛は必要ないよ。

魔石はレイヤードに聞いてみよう」


 義父様、辛辣。

王子は1度結界から出て良いか確認してからソファの端へ行く。

上着から小箱を取り出し、中の指輪を取り出す。

戻ると僕にそっと渡した。


 確かに黒曜石には光がなく、くすんでいる。

僕は義父様の方を向き、王子には見えないように眼を両方開眼する。


「父様、魔力注いで?」


 義父様が人差し指を石に当てる。

くすみが一瞬ましになるけど、すぐに戻る。


(うーん····何やらかしてくれてるのかなぁ)


 庭に出た時から薄々気づいてたけど、やっぱり横やり入ってるよ、これ。

石に見知った魔力の痕跡を見つけてしまった。

まったく、ややこしくしてくれちゃうんだから。


 僕は1度眼を閉じて閉眼してから王子の方を見る。

僕はそっと石を撫でて、心の中でこれから話すことについて謝罪する。

傷つくような話をしちゃうけど、ごめんね。

殿下はすぐに詰め寄るかと思ったけど、僕の発言を待っている。

ちゃんと“待て”はできないとね。


「王子は何故精霊さんが必要なのですか?」

「王位継承権を持つ者が複数いる場合、王太子として立太子されるには誰も見えない場合を除き、精霊が見える事が条件だ。

私と第三王子はどちらも見える。

しかし第三王子には建国の精霊とされる光の精霊王がついていると祖国の教会が公言した。

私についていてくれるその指輪の精霊は闇の精霊だから、それだけでは第三王子よりも弱い。

しかし私は亡くなった第二王子から、かつて闇の精霊王こそが聖女と共に魔物から民を守り、そして彼らの心を癒して建国に尽力したという話を聞いた。

私は父上に王しか入れぬ禁書庫からそれを記述した文献を探し出してもらい、しかるべき時に開示するよう手配した。

私の母は元筆頭公爵令嬢の正妃、第三王子の母は嫁ぐ際に侯爵家の養子となったが元は子爵令嬢の側妃である事も含めて政治勢力としても今は私が立太子される可能性が高くなっているのだ」

「つまり王位継承の為の精霊さんが欲しいのですか?

でしたらその精霊さんを助けられるにしても王子の命が危なくなりませんか。

そのお話が本当なら、教会がこれまで流布した建国の精霊が変わってしまいますもの。

殿下の立場を考えれば、私が持つ力の強い光の精霊さんが宿った精霊石とそちらの指輪を交換した方が良いかと思うのですが、いかがでしょうか?

そもそもそちらの精霊さんは禁忌を犯すような方です。

力も光の精霊王より劣るのに今回の事でより一層力が削がれてしまうかもしれません。

手元に置いても将来的に役立たずどころか害になるかもしれない、世間一般的にも危険視される闇の精霊さんよりも、精霊王よりは劣るかもしれませんが高位の光の精霊さんの方が殿下の立場的にも教会や国民的に広く好意的に認知される光属性の精霊さんの方が価値がありませんか?」


 今度は僕が彼の言葉を待つ。


「断る。

自分がはるかに未熟である事は身に染みて分かった。

しかし私はこの精霊殿だからこそ立太子を目指し、立太子された後も尽力できると思えるんだ」


 すぐに、迷いなく真っ直ぐな目をして答えた。

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