4.お茶会~ルドルフside2
予想通り、茶会ではアリアチェリーナ嬢は捕まらなかった。
両親は最初の開催の言葉をのべたらさっさといなくなった為俺が招待客の相手で手一杯になったのもあるが、彼女も俺に寄りつこうともしない。
遠巻きに見ていれば、例の兄が彼女に近づこうと何度も画策している。
しかし給仕の侍女や侍従に話しかけたり、お菓子や軽食をサーブしながらかわしている。
9才の世間知らずな少女とは思えない、自然なかわし方だ。
あの兄だけではない。
彼女の外見に惹かれただろう令息、マウントを取りたがる例の妹も含めた気の強そうな令嬢達からもさらっと逃げている。
というか、そんなに菓子や軽食が気に入ったのか?
けっこうな量をたいらげていると思うんだが。
あ、年相応の少女の顔でニコニコしながら会場を去って行ってしまった。
そうか、お腹は満足したようで何よりだ。
しかし彼女はわかっているのだろうか。
ネックレスが魔具だと。
彼女の2番目の義兄に頼まれて魔石の採取を手伝ったのは俺だ。
年はあちらが2才上だが同じ学園、生徒会役員同士とあって実は仲が良い。
魔力だけでなく顔面偏差値も高く、頭脳明晰だが、義妹が好きすぎる上に彼女がからむと変態思考にチェンジする残念な男だ。
茶会が終わり、俺は国立魔法技術学園の生徒会室に足を運んだ。
短縮して魔術学園と呼んでいる学園にこの春入学し、何事もなければ17才で卒業するまで生徒会役員を勤める事になる。
予想通り生徒会役員補佐のレイヤードことレイはいた。
余談だが入学当初彼は生徒会に入るのを全力拒否し、逃げ回っていたらしい。
生徒会役員の人材不足があまりに深刻で、当時はまだ王子だった兄上、レイと同級生の宰相と騎士団長の息子達が拝み倒して補佐という形で同意を得て入ったと聞いている。
兄上と同級生だった彼の兄は逃げ切って卒業した猛者として、いまだに生徒会内で語り継がれている。
「あれ、ルド。
お茶会で今日はお休みじゃなかったのかい?」
「面白そうな子がすぐに帰ったから、早めに切り上げたんだ」
「面白そうな子、ねぇ」
お、気づいたようだな。
気心知れた者だけの時は敬語はなしにしてルド、レイと呼びあっている。
「レイ、どんな子か気になるか?」
「顔がいたずらする前の悪ガキみたいだよ。
アリーだね」
「くくっ、当たり」
「何かあった?
確かアリーに害が及ぶ事があれば助けてとはお願いしたけど」
「とっくにアレが転移してるだろ?
まだ確認してないのか?」
「ついさっき来たばかりでね。
渡した時にお兄様達の色で嬉しいってはしゃいでくれてたから、なかなか外さなかったみたいだ。
盗撮用の魔具だって言えなかったから、知ったらヘソを曲げられちゃうね」
一部の令嬢達から氷の貴公子と崇められるこの男は、今は眉を八の字にして困り顔だ。
よほど義妹に嫌われたくないのだろう。
学園では見た事がないほどの盛大なため息をついて、左胸のポケットから3連石のネックレスを取り出す。
右の手の平に乗せて口元に近づけると息を吹きかける。
対面していた部屋の白い壁に残像が写し出された。
無詠唱でさらっとやってのけるが、普通は石に魔力込めるのも補助の魔具も使わず魔石から直接映像取り出して見るのも至難の技だぞ。
「うん、バカブル兄妹殺そう」
「止めはしないが、表立ってはやめとけよ。
お前の妹も望んでないようだったしな」
「僕のアリーは天使のように優しいからね」
「いや、アレは本気で面倒がって····いや、何でも、おい、睨むな、部屋の温度を下げる笑顔向けるな!」
「やだなぁ、君がアリーに治療とはいえ触れたり、笑ってみたり、気に入ったりしてる事も含めて微笑ましいよ?」
「治療は仕方ないだろう!
そこはありがとうだろう!」
「治療くらい触れずにやれよ」
先週は魔石の採取に崖よじ登らされたり、魔獣の囮に使われたりと災難だったが、今は絶対零度の殺意を向けられている。
何か最後の言葉はドスが効いてないか?
おかしいなぁ····俺、この国の王子だったよなぁ····。
「と、とにかくだ!
侯爵にソレ見せてまずは正式に抗議しろ。
必要なら俺が怪我の状況を証言はするから!」
「チッ、アリーに不必要にからんだら消すからね」
「舌打ち···いや、何でもない!
俺は帰る!
じゃあな!」
そのまま小走りで生徒会室を脱出する。
おかしいなぁ、王子だよな、俺。
帰りの馬車の中でアリアチェリーナ嬢を思い出す。
幼すぎて妃候補とは考えられないが、是非とも手に入れたい。
まだレイほどではないが、俺だって魔術もそこそこつかえるし、剣も使えるのだ。
レイは怖いが、せっかく見つけた玩具を手放す気もない。
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