第60話 ボッチには辛い現実だぜ・・・
驚くノエルさんを尻目に牙猪の買い取りを進める。
『おー、立派な牙猪だな!最近は丸ごと持ってくる奴も減ってきてたから、久しぶりに腕が鳴るぜ!』
そうノリノリで、ノエルさんの代わりに受け付けてくれたのは作業着姿の初老の男性だった。
『坊主が獲ってきたのか?中々やるじゃねーか。背中の汚れは・・・ああ、引き摺った跡か。他に傷は・・・頭だけか!?弓だけで仕留めたってのか?こりゃたまげたぜ。
まあこれなら擦れた部分だけ取れば皮もそれなりに取れるだろーな。』
俺が持って来て早々、そのまま検分が始まってしまった。
『あ、あの、初めまして、俺はマサルと言います。』
『ああ、知ってるよ。っちゅうかオメーさんの事を知らん職員は居りゃせんぞ。
俺はジャルタ、こうやってギルドに持ち込まれた動物を解体して査定するのが俺の仕事だ。
オメーさんみたいにやりがいのある解体仕事を持って来てくれるヤツは大歓迎だよ!』
豪快に笑いながら背中をバシバシ叩かれる。少し痛いがそれより気になる事が、
『ギルドで知らない人がいないってどういう事ですか?』
『ん?ああ、ドールとの訓練だよ。新人訓練でアイツとあんなにやり合える奴はそうは居ないからな。まあギルド期待の新人ってヤツさ、今はその話題でもちきりだよ。』
(がっつり目立っちゃってんじゃん・・・。)
『優秀な冒険者の出現は周りに刺激を与えるし、それで冒険者の質が上がれば新たな素材の出会いに繋がるからな。』
この人、ジャルタさんは本当にこの仕事と素材が好きなのだろう。嬉しそうに目を細めそんな風に言っていた。すると、
『マサルさん!これはどういう事ですか!?』
我に返ったノエルさんが急に叫び出した。
『えっ?どういうとは・・・先程説明した通りなんですが・・・。』
訳が分からないが、ただ怒っている事は伝わるのでなるべく刺激しない様にアンサー。
『い、いえ、確かにお聞きしましたが、成体だとは聞いていませんよ!弓で倒したとおっしゃっていたので、てっきり幼体だと思っていたんですが・・・。
通常、牙猪は盾役が引きつけて側面や裏から削って倒すのが一般的な方法で、基本はパーティーでの討伐を推奨している魔物なんです。』
(確かにあの突進を何とかしない事には、こちらの攻撃どころでは無かったが、やはりパーティー推奨とかあるのか・・・ボッチには辛い現実だぜ・・・。)
『・・・なので運が良かったと・・・。』
『確かに運の要素は否めませんね・・・。
しかし冒険者としてこれからも活動して行く以上、運で仕事を進めていくのは感心しません。
入念な準備と迅速で正確な判断力が無ければ、万が一の場合もありえるんですから・・・。』
ノエルさんには大分心配を掛けてしまった様だ。
だからだろう、怒られているのに気分は悪く無くむしろ心地良い。
『ご心配をお掛けしてすみませんでした。判断が甘かったと反省しています。』
会ったばかりの俺の事を、こんなにも心配してくれる存在に心からの言葉が出る。
『・・・分かって頂けたのなら、これ以上はもう言いません。でも、困った事があれば相談して下さいね、その為に私達ギルドがあるんですから。』
『はい、ありがとうございます。』
『話は済んだか?じゃあ買い取りの続きだが、全部で良いのか?』
ジャルタさんが待ち切れないとばかりにカットイン。
『あ、はい。そうですね・・・武器と防具が無いので揃えていきたいんですけど、使えそうな部分はあったりしますかね?』
ただいまの服装は、村から出て来たままの村人ファッション。弓やナイフを持ってはいるが、とても魔物と戦う様な格好ではない。いよいよ舐めた装備で魔物の討伐を行ったものだと心底思う・・・そりゃノエルさんもカチキレるわ・・・。
『武器は訓練で使ってた剣とかか?それだと牙がそうだが、加工費と性能を考えると普通の鉄の剣の方が良いだろうな。手入れも楽だし。
防具なら皮を使えば良いだろう。何も無いよりはマシだ。』
(無いよりはマシ・・・魔物とは言ってもやはりF級か・・・。)
『では、防具で使う分の皮以外は全て買い取りでお願いします。』
『おう、分かった。じゃあ必要分だけ取ってから査定を出し直すから少し時間をくれ。後で受付に来てくれれば伝えられる様にしておく。』
『分かりました。よろしくおねがいします。』
少し時間が出来たので早速行ってみようと思う。
『ノエルさん、武器を扱っているお店を教えて欲しいんですけど・・・。』
男の夢、剣を手に入れるために・・・。
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