武器探しも楽じゃない

 鍛錬を続け、クロエやカムイと手合わせする日々を送り、大会まであと三日。


 俺は久しぶりに父上と共に外出していた。行先は商業区、俺の武器を購入するのが目的だ。


「こうして二人で歩くのは久しぶりだな、ドラン」

「……はい。父上と並んで、何気ない会話をするのはとても楽しいです」

「なら、その鉄仮面を外してくれてもいいんじゃないか?教えたのは私だが、今ぐらいいいじゃないか」

「……いえ、これが私の顔です。周囲に圧もかけられますし、慣れていたとはいえまた街中で攻撃は受けたくないですから。もし外すとしたら、どうにもならない時ぐらいですかね」

「そうか……」


 父上が路地裏へと入っていく。俺が使う大剣などはとても珍しく、人々からは疎まれる。人気のない所にあるのは当然か。


 しばらく進むと、小さな店がポツンと立っていた。父上が扉を開けると、入らずに扉の横に立つ。何をしているのかと問おうとした俺の耳に、風を斬る音が聞こえた。


「…………」


 店の中からナイフが数本飛んできた。俺の胸、腹、そして太ももに当たるも【スーパーアーマー】によって弾かれる。背後に気配を感じ振り返ると、俺の首に剣が当てられた。


「よう、どうやってこの店を知った?限られた奴しかこの店を知らねぇはずだが」

「………………」


 そこにいたのは男だった。身軽そうな服装に、適度に鍛えられた身体。なるほど、武器を専門に売るならある程度の自衛ができて当然、しかも大剣などを売るともなれば目の敵にされるだろう。


 だが、急に攻撃するとは酷いな。【スーパーアーマー】が無かったら痛い思いをしていた。


「おい、聞いてんのか?」

「……ああ、聞いているとも」


 首に当てられた剣を掴む。男は躊躇なく剣を掴まれたことに驚き硬直した。その隙を見逃さず空いている左手で男の首を掴み上げた。


「ぐっ!?……か……」

「……攻撃するならば相手を選べ。力量も計らず、出方も見ずに攻撃を仕掛けるなど愚策中の愚策だ。俺だったからよかったものを……父上が傷付きでもしたら躊躇せず首をへし折っているところだ」


 自重と俺の握力によって首が絞まっている男は、酸素を補給できず脱力し剣から手を離した。それを見て首を絞めている手を離すと、男は転がることで俺から距離を置き呼吸を整えた。


「ゲホッゲホッ!…ハァ…ハァ……」

「今回は私の勝ちだなゲント」

「ゲホッ!馬鹿言え、反則だろうがこんなの……」


 ……勝ち?父上は今、『私の勝ち』と言ったのか?そういえば、扉の横に立ったということはこのゲントとやらの攻撃を知っていたのか。


「……父上」

「あ〜すまんな。いつもは背後を取られて剣当てられるだけなんだが、初めて訪れるお前に警戒心を剥き出しにしたようだ」

「………………」

「え〜と……毎度そうやってからかわれるから仕返しのつもりだったんだが……すまなかった」


 その謝罪は巻き込んだ俺に対してなのかやりすぎてしまった男に向けられたものなのかはともかく、これは看過できない。


「……母上に報告」

「うっ!?」

「……ついでに値段に関わらず俺の欲しいと思った武器を買うこと」

「え、ちょっと待て!ゲントの売る武器はどれもかなりの値段が…」

「………………」

「はい、なんでもないですハイ」


 俺は父上の返答に頷いたあと、やっと起き上がった男へと声をかけた。


「……迷惑をかけた」

「いや、こっちも悪かった。しっかし、ロブの負けず嫌いは知ってたがこんな隠し球を持っていたとはな」

「フフフ…私の自慢の息子だよ」

「……その息子を危ない目に遭わせたド畜生ということでよろしいな」

「フフフ…我が息子ながら痛すぎるところを突いてくる」

「結局自分にもダメージ来てんじゃねぇか」


 笑い合う父上と男。友人のような間柄なのか……。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名はゲント、ここで武器屋をしてる。ロブ……お前さんの親父とは腐れ縁だ」

「素直に幼なじみと言えばよかろうに」

「うるせえよ」


 仲はいいらしい。幼なじみか……父上の子供の頃など聞いたこともなかったな。まあ今はどうでもいい事だ。


「あ?どうしたよロブ」

「いや、なぜか無性に悲しくなっただけだ」


 何やら沈んだ顔をしている父上を無視し、男……ゲントへと自己紹介をするべく口を開いた。


「……ドラングル・エンドリー。そこのバカの息子です」

「息子よ、珍しく悪口が顔を出しているぞ」

「……間違えました。そこの男とは血縁関係です」

「もはや私のことを親戚としか思ってないな!?父だ、私はお前の父だ!」

「……?はあ」

「『え、そうなの?』みたいな声色をするんじゃない!?」

「そこまで。もういい、家族漫才なんざしてないで店に入れ」

「……はい。父上、入りましょう」

「ああ。さあゲント、武器を見せてくれ」

「切り替えが早いな」


 ゲントさんの店に入ると、まず目に飛び込んできたのはカウンター裏の壁に掛けられた巨大な斧。まず人が持てる大きさではなく、なぜ作られたのかわからない物だ。


「……なんですかアレ」

「ん?ああアレは、どっかのバカがデカさの限界に挑戦してな。あの大きさ以上は打てなかったらしい。見たとおり使われることなく流れ流れてここに辿り着いた感じだ」

「……でしょうね」


 あの大きさと重量だと逆に壊れやすそうだ。せめて使える武器を作ってくれ。


「たしか依頼は、頑丈なデカめの武器だったな……コイツなんかどうだ?」


 ゲントが壁から外し、見せてきたのは刃の幅が広い槍のような武器。突くのも斬るのにも使えそうだ。


「コイツは『剣槍』ってやつでよ、なかなか使えるぜ?デカくて長い分、かなりの筋力が必要だがな」

「……いや、槍よりも普通の剣が欲しい。ソレは持ち手部分がまだ細い」

「そうか……」


 ゲントは剣槍を戻すと、今度は俺の身の丈程の大きさを持つ剣を壁から外した。


「コイツは大剣よりもデカい『特大剣』だ。幅も広いし、薙ぎ払ったり叩き潰すように使うのがいいだろうな」

「……いいかもしれん」

「お、なら他のも数本持ってくる。ちょっと待ってろよ」


 ゲントは店の奥に引っ込むと、一本ずつ特大剣を取り出してきた。全部で三本、それぞれ幅や太さ、色合いも違う。


「コイツらが今ある特大剣だ。どれが欲しい?」

「……試し斬りは?」

「あ〜……試し斬りに使えるもんはねぇな。ここは狭いし……よし、全部持ってけ!そんで返しに来た時に気に入った奴を買え」

「……いいのか?」

「ロブの息子のくせにしっかりしてるしよ。大丈夫だろ」

「さらっと私をバカにするのやめてくれないか?」

「え、やだね」

「こんのゲントめ!」

「おい、俺の名前は悪口の常套句じゃねえんだぞ!」


 騒ぐ二人を無視し、特大剣三本を持ち上げた。ずっしりとした重量が腕に負荷をかける……これならば折れることはそうそう無いだろう。


 試し斬りに胸を高鳴らせながら帰路に着く。特大剣三本という状態に少しばかり視線を感じながらも、俺はワクワクしながら屋敷へと帰っていった。








「お前、置いてかれてんな」

「父を忘れるな息子よ……」

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