第106話 斧が加わった
コウスケがいつものように朝食を作っていると人化したクロンが真剣な表情で近づいてくると、コウスケの右手に握られていた料理包丁(グリード)を眺めた。
『コウスケ。気のせいなら良いのだが。最近、我よりもグリードを重用していないか?』
(いつもは飲んだくれているクロンが珍しく真剣だな。重用といっても料理に便利だから使っているだけなんだけど…。)
コウスケの手に握られていた料理包丁(グリード)が言葉を発した。
“クロン。其には今までの蓄積した調理作業に有用なスキルがある故、普段使いされているだけのこと。不測の事態に陥った際には、一番に重用されるのは間違いなくクロンだ。与王様とクロンの絆には誰も敵うまい。それに、クロンも緑茶氷で学んだであろう?新しいものや新しい組み合わせを試してみてこそ世界が広がるのだ。狭い視野に凝り固まっていては停滞してしまう…それはとても悲しきことではなかろうか…。”
『………………。フハハッ!その通りだッ!グリードッ!』
クロンは上機嫌でリビングの指定席に帰っていく。
「グリード、俺と話すときと全く違うね。」
“よ、与王様と話す時は、き、緊張してしまって…、も、申し訳ありません。ふ、不快でしたでしょうか?”
「いや。それがグリードの個性だから、全く問題ないよ。でも、緊張がとけたら俺と会話するときもあんな喋り方になるのかなと思ってね。」
“与王様の前で、き、緊張しなくなることは、な、ないと思います。”
……
別の日、コウスケがいつものように朝食を作っていると人化したグラトニーが真剣な表情で近づいてくると、コウスケの右手に握られていた料理包丁(グリード)を眺めた。
“食王様。最近、グリードを重用し過ぎではありませんか?僭越ながら、私も手斧サイズにもなれますので、調理の際にはグリードではなく私をお使いいただくのはどうかと愚考します。特に、肉をミンチにする作業の際に、斧はとても有用かと。”
(クロンの次はグラトニーか…。どこの世界に料理するときに斧使うヤツいるんだよ。)
コウスケの手に握られていた料理包丁(グリード)が言葉を発した。
“グラトニー。残念ながら、料理の際に斧を使う者はおらん。料理の際には使い回しのよいナイフを使うものだ。しかし、斧はナイフにできないことがある。それはお前もよくわかっていることだろう?無理をして与王様に重用していただかなくてもよいのだ。お前が輝ける場所で活躍すればよいのだ。大切なのは、与王様がお健やかに生活なさることなのだから…。”
(さすがのグラトニーもこう言われては何も言えないか?)
グラトニーは目を見開き反論する。
“何を言っているのだ?私の輝く場所は食王様のお側なのだッ!つまり、食王様のお側にいればどこにいても、常に輝けるということだッ!調理に斧を使ってはいけないと誰が決めた?使ってみても良いのではないか?新しいものや新しい組み合わせを試してみてこそ世界が広がるのではないのか?狭い視野に凝り固まっていては停滞してしまう、それはとても悲しきことではないのかッ?”
(…ブーメラン。どう返す?グリードッ!)
“あ、あの、そ、そのっ…。お、斧は、りょ、料理には…。”
(…よわッ!)
…こうして、コウスケの調理道具に斧が加わった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。