第84話 閑話 蝿の王2
その後、何の手がかりもないまま時が過ぎた。
セブンウェポンの連絡係からは毎日の様に催促がきてウンザリしていた。
そんな中、期待せずに召喚した中級悪魔が慌てて部屋にやってきた。
『レヴィの兄貴ぃぃぃ~。ランクエラーのダンジョンマスターに動きがありやしたッ!…ヘブゥゥゥゥッ!』
喋り方がムカついたから、中級悪魔の顔面を蹴り飛ばした。
「このッ!ゴミッ!その言葉づかいやめろって言ったよなぁッ!まぁ、吉報を持ってきたみたいだから命だけは助けてあげる。ほら、早く報告してよ。」
中級悪魔はヨロヨロ立ち上がり、力無く報告を始めた。
『…はい。配下の眷属と共にランクエラーの見張りをしていたところ、転移反応を感知したので、詳しく確認したところロプト公国のロデウ付近に転移したことがわかりました。』
それを聞いたエンヴィーが、中級悪魔の周囲を飛び回って観察し始める。
『へぇ~、君めちゃくちゃ優秀じゃん。転移反応を正確に感知するだけでも難しいのに、転移先まで分かるなんて、何処かの無能とは大違いじゃん。』
ピキッ!
(糞がぁぁぁぁぁぁぁッ!無能とは俺様のことかぁぁぁぁッ!ふぅ…ふぅ…ふぅ…落ち着け…今はダンジョンマスターの抹殺が最優先だ。)
「…ふん。おいッ!ゴミッ!転移地点の詳しい座標の報告をしたら、すぐに俺様の前から消え失せろッ!」
中級悪魔は、転移座標を書いた報告書を机に置くと、そそくさと出ていった。
『あ~あ、行っちゃった。あんな優秀な人材、誰かに取られちゃったら大損害だよ。沸点が低いのは欠点にしかならないって言ってるじゃん。』
「ふんッ!あんなゴブリンみたいな悪魔の何処がいいんだか理解できないねッ!ただのまぐれ当たりに決まってるッ!」
『…ふ~ん。』
……
エンヴィーを遠くまで見通せる悪魔にメタモルフォーゼさせて、遥か上空からダンジョンマスターを監視していた。
「あれが噂のダンジョンマスターかぁ。完全に見た目は人間の子どもじゃねぇか。あんなのにグラトニーが大人しく付き従っているなんてあり得ねぇな…。なにか裏があるのかぁ…?」
『ま、まさか…あの御方は…。』
……
「シャ、シャドウドラゴンまで従えているのか!?」
『……。』
……
「な、なんだよ。あのオーガッ!聖剣を両手に装備して解放しやがった。2対の聖剣なんて存在しないはず…。ということは2本同時にダブル解放した!?そもそも、なんでオーガが聖剣を装備できるんだよ?」
『………。』
……
「勇者を一撃ぃぃぃぃぃッ!?しかもあんな遠距離から…。」
『…………。』
「………。これは認識を変えないといけないぜ。アイツはセブンウェポンにとって間違いなく最大の脅威だ。全力を出して抹殺すべき対象だ。そして、あの強固なダンジョンがら出てきている今この時が最大のチャンスだッ!転移門を開いて拠点に帰る瞬間、転移魔法連爆式の極大魔法でダンジョンごと葬れれば、恐らくだが殺れる。」
認識を変えて、マジックバックから蓄魔結晶を取り出した。
「チッ!俺様が10年かけて溜めた魔力をここで使うはめになるなんて…。後で、他のセブンウェポンの奴らに何らかの形で埋め合わせしてもらわねぇと…。」
蓄魔結晶を眺めてぼやいていると、背後に気配を感じた。
『ピュイ♪ピュイ♪』
(こいつはダンジョンモンスターのソニックバード!?くっそぉぉぉッ!見つかっちまったのか?どいつもこいつも、俺様を苛つかせるヤツばかり居やがってッ!)
「ははッ♪かくれんぼには自信があったんだけど、見つかっちゃったみたいだね~。こんなに離れてるのに感知できるなんて本当にスゴいよ。…あぁぁ…クソッ!…この鳥は最優先で殺しておくべきだなぁぁぁッッ!!!おいぃぃぃッ!!!」
『ピュイ、ピュイ♪』
(コイツぅぅぅッ!明らかに挑発してやがるぅぅぅッ!)
ピキッ!
「クソがぁぁッ!絶対に許さねぇぇぇッ!」
右手に魔力込めて召喚魔法陣を展開する。
-中級悪魔召喚-
魔法陣から例の中級悪魔を呼び出した。
『お呼びでしょうか?レヴィ様。』
中級悪魔の姿も見ずに上空へ飛行しながら、悪魔に命令する。
「あの鳥ムカつくから殺しておいて。ボクは極大魔法で下の連中を街ごと滅ぼしておくから。」
悪魔は深々とお辞儀をしながら応える。
『了解いたしました。苦痛を与えたうえで殺しておいてご覧にいれま、…グハァ…、あぁぁぁぁぁぁぁ………。』
羽根を切り落とされた中級悪魔が落下していった…。
『ピュイ?』
ピキッ!ピキッ!
(あの役立たずぅぅぅッ!そして、あの鳥の表情ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!バカにしやがってぇぇぇぇぇッ!)
!!!ピキッ!!!
最終形態-蝿の王-
王化すると、俺様の眼が複眼になり、背中に蝿の羽根が生えはじめた。
(くっそぉぉぉぉぉぉぉぉッ!こんなに雑魚に本気をだすなんてぇぇぇッ!)
複眼を使い、灼熱魔法の複雑な魔法陣を高速で展開する。
「クソ鳥がぁぁぁぁぁぁ!!!焼き鳥にしてやるッ!地獄の業火よ、わが敵を焼き尽くせッ!-メキド・フレイム-ッ!」
魔法陣から灼熱の炎の渦が生み出され、クソ鳥が炎の渦に飲み込まれた。
「あ~っはっは~。調子にのるからそうなるんだよ♪焼き鳥ちゃん……ッ!?」
…ポン…
…背中に鳥がとまっていた…
(…あり得ない。俺様の複眼で追えなかった!?それ以上に、高速展開のメキド・フレイムがかわされた!?なんの冗談だ!?)
『ピュイ♪ピュイ♪ピュイ?』
(また、やっすい挑発しやがってぇぇぇぇぇッ!今度こそ、殺すッ!)
左手に持っていた傘形態のエンヴィーを開いて命令する。
「エンヴィーッ!-“起きろ”-ッ!」
『………。』
…エンヴィーからの返答がない…?
「おいッ!スロウスにメタモルフォーゼしてクソ鳥の動きを止めろッ!-“起きろ”-」
『………。』
エンヴィーからの返答がない。
「て、てめえ…まさか…。この土壇場で…?」
『………。』
エンヴィーからの返答がない。
ボシュッ!
ボシュッ!
クソ鳥が挑発するように風魔法“ウインドボール”をぶつけてきた。
『ピュイ♪』
「……いいぜッ!クソ鳥なんて一人で十分だッ!」
……………
「はぁ、はぁ……。」
(なんだ?なんだ?なんだ?このクソ鳥、普通じゃねぇ。クソ速ぇし、攻撃しても風か何かで受け流される…。連携のとれた熟練2人組を相手にしているようだ。)
『ピュイ♪』
クソ鳥が自身を中心に竜巻を巻き起こした。
竜巻がやむとクソ鳥の足に傘が握られていた。
(いつの間にぃぃぃぃッ!)
「返せぇぇぇッ!!!」
一生懸命追いかけるが、いつもあと一歩のところで捕まえられない…。
「はぁ、はぁ…。このやろぉ…。」
疲れて休んでいると、近くによってきて挑発をしてくる…。
『ピュイ♪』
俺様は悟った…。
…これ絶対遊ばれてる…
「ちくしょぉぉぉぉぉッ!雑魚相手に使いたくなかったが仕方ないッ!」
俺様は蓄魔結晶を天にかかげて、極大魔法の呪文を唱…え…る…が…
…蓄魔結晶がない…
辺りを見渡すと、クソ鳥に捕まっている傘の持ち手の部分に蓄魔結晶が嵌め込まれていた。
(みんな寄って集って、俺様をコケにしやがってぇぇぇぇぇッ!)
俺様は帰還石を取り出した。
「覚えていろよッ!必ず復讐してやるッ!ー帰還ー」
『ピュイッ!?』
帰還石を発動させ、登録している拠点に転移した。
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