田舎町のカルスト
翔鵜
第1話 石灰岩の公園
十歳のころ僕らの遊び場は、校門を出て二キロ先にある標高二一七メートルの山の上にある公園だった。傾斜面に石灰岩が突き出ているだけの所謂カルスト地であったが、狭い岩洞は僕らの隠れ家で、とりどりの奇岩怪石をよじ登るのは遊具の百倍面白かった。
僕とシュンとハルの三人はいつも一緒だった。ひときわ尖った岩に早く辿りついた奴が勝ちというだけのシンプルな遊びに夢中になって、学校が終わると郵便局の脇を駆け抜け、化石館のある坂道を登った。
シュンは流行に敏感で、新しい風を吹かせるのはいつも彼だった。ドイツ人の父親譲りの栗毛を刈り上げていて、女子の取り巻きが絶えなかった。
「俺はこの街で一番の有名人になるぜ!」
巨大な岩(僕らは大岩と呼んでいた)から濃尾平野を見下ろして彼は叫んだ。
「ハルはこの街を出るよ、陸上選手になる!」
岩に跨がるハルは運動神経抜群で、落葉で滑る回数も岩による擦り傷も、三人の中で一番少なかった。彫刻岩の虎像に手を合わせては、足が長くなりますようにと願掛けしていた。
「りくは?」
「僕には大そうな夢なんかないよ、自分の部屋は欲しいけれど」
僕はランドセルから天体の本を取り出しながら続けた。
「死活問題なんだ。我が家に『ながら読書禁止令』が発布された」
息子の贅肉を気に病んだ母は、本の虫から愛読書を奪うという暴挙に出た。
「ぷぷ。りく、ごろ寝でポテチ食いながら読むからな」
「そうだよ、隠れ家にお尻が挟まったらどうするの!」
「は、挟まんないよっ」
シュンとハルは大口を開けて笑った。
僕は集合写真では端っこにいるようなしごく控えめな少年だったから、気のおけない二人を大切に思っていた。
ハルがテスト中にカンニングペーパーを落とした時は上履きで踏んで隠し続けたし、バレンタインデーにはシュンのファンの遣いで廊下を七往復もしたけれど、文句一つ言わなかった。
ところが、ちょっとした事件が起きた。
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