一撃必殺~転移したらスライム以下のステータスだったが、寿命を減らして一撃必殺~

穴ポコ

第1話

 ふんふふーん。



 ウチは鼻歌を歌いながら第三世界に帰るために、第七世界の空を飛んでいた。


 転移すれば一瞬で帰れるんだけど、遠回りしたい気分なのよねっ!


 だってだって!

 ウチが作った神具の性能に、クールぶってる第七世界の神が顔を歪ませたんだからっ!!

 愉快愉快! 超楽しいーっ!!


 ウチは喜びの感情を体いっぱい表現したの。

 そしたら手に持っていた、作ったばかりの神具がぶっ飛んでいっちゃった。

 たははーっ!


 急いで地上まで落ちてった神具を拾いに行ったんだけど、人相が悪い人間が拾ってる!

 何か周りに他の人間がいっぱい倒れてるし、あいつ悪人!?

 困った困った!


 神は別世界の人間に見られたら困るし、でもでもっ、神具を別世界の人間に渡せないし……。

 

 あー、もうっ!

 面倒臭いから、神具もこいつも一緒に転移させちゃえっ!!



 第七世界、ばいばーいっ!!



*****



 俺の名前は、破顔一笑はがんいっしょう



 今まで散々人を泣かしてきた。

 人を笑顔にさせたことは一度もない。



 それは、俺の体がでかくて、強面なこともあるんだろうが、何より性格のせいだろう。

 まったくもって皮肉な名前だ。


 今まで気に入らない事がありゃ、全部暴力で解決してきた。

 ぶん殴って、泣かして、泣いたやつをまたぶん殴る。


 俺よりでかい、二メートルを越えるプロレスラーを一発で殴り倒して、いつのまにか勝手に【一撃必殺】なんて大層なあだ名がついていた。



 俺は無敵。

 ずっとそうだったし、これからもそうだ。






 そのはずだった――。






 俺は気付けば、雲の上にいた。


 ふわふわとしてるが、しっかり地に足はつく。

 雲の地平線? 雲平線でいいのか?

 とりあえず地面の代わりの雲以外は青空しかない。


 どこだ、ここは?

 確か俺は柄の悪い集団に絡まれて、鬱陶しいから全員殴り倒したんだ。

 その後に、何かが空から降ってきた。

 

 それを拾ったら、急に拾った物が光だして……。


 俺は起きた出来事を一つずつ思い出しながら、天の上にいるはずなのに天を見上げる。


「よっ!」


「…………あん?」


 俺が見上げた上空には、幼女が背中に生えた小さい羽を動かし飛んでいた。

 金髪ショートカットの頭の上には輪っかが浮いている。

 気安く挨拶してくるが、何だこいつ。


「ウチは第三世界の神っ! アカリちゃんなのだっ!! 崇めよ、人間!!」


 アカリと名乗った幼女は、戦隊ヒーロー顔負けにポーズを決める。


 白いワンピースを着て空中を飛んでいるため、白いパンツが丸見えだ。

 別に見たくもないが。


「神……? お前がか?」


「うん、そうそう! ウチはすっげー偉いんだぞっ!! たははーっ」


 まったく偉くは見えん。

 偉そうには見えるがな。


「いやぁ、あんがとねっ! ウチの【スキルカウンター】拾ってくれてっ!!」


「……あん? 【スキルカウンター】?」


 俺が喧嘩の後に拾った何か。


 それは交通整理のおっさんが持っている数取器と呼ばれる物に近く、【スキルカウンター】と呼ぶらしい。

 交通整理に使われる連結している物ではなく、単体の物ではあるが。


「それウチが作った神具なんだよねーっ! 第七世界の神の所に自慢しに行った帰りに落っことしちゃってさっ!!」


 神具? 第七世界の神?

 自分のことも第三世界の神だと言っていたが……。

 何なんだ、このクソガキは。


 俺は変な夢だと思い、自分の顔面をぶん殴る。


 バカ痛ぇ。顔が取れるかと思った。

 今後確認する時は他人を殴ろう。


「じゃ、神具返してっ! 返してくれたら第三世界に住ませてあげるからさっ!!」


「第三世界? よくわからんが、いらん。この数取器は返してやるから、俺を元の場所に戻せ」


 住まわせてあげるからとは言っているが、いい迷惑だ。

 これが夢じゃないなら、俺は家にとっとと帰って寝たい。

 明日も仕事なんだよ。


「……でもでもっ! 第三世界は超楽しいよーっ!! 魔法とかもあるしっ!!」


「いらん」


「ド、ドラゴンとかもいるよーっ!! 可愛い女の子も第七世界よりいっぱいなんだからっ!!」


「いらん」


 こいつしつこいな。

 魔法? ドラゴン?

 そんなファンタジーなモノに興味はない。


「ここがどこかも知らんし、お前が何なのかもどうでもいい。とっとと帰らせろ。いい加減ぶん殴るぞ」


「……いやー、実はねっ! 天界にも色々ルールがあってさーっ! もうあんたを第七世界にゃ戻せないのっ!! 盗人がわざわざ持ち主に盗んだ物返さないのに近いかなーっ!! たははーっ」


「……あん?」


 幼女相手に思わず眉間にシワを作ってしまった。

 帰れない? 今のは聞き捨てならんぞ。

 こちとら来たくてこんな雲の上に来た訳じゃないんだ。


「ウチと神具と一緒に第三世界に転移したから、あんたを第七世界に帰すわけにはいかないのっ!! だからあんたはこれから第三世界で生きてくのっ!! そんで、あんたはカウンターを私に返す! ウチもあんたもハッピー!! わかる!?」


 何でこのガキはキレてんだ。

 キレたいのは俺だ。


「これを拾ったせいで、俺はここに来た訳だ」


「そうっ!」


「お前がこれを落とさなきゃ、俺はこんな目に合わなかった訳だ」


「だからそうだって言ってんでしょ!! 理解力ないわねっ!! ミジンコ並の脳みそしかないの、あんた!?」


 つまり俺をこんな所に連れてきたのは、この目の前の羽を生やしたアホということか。


 気の短い俺にしては我慢していたが、遂に我慢の臨界点を突破した。


「死ねぇぇっ!!」


 俺が気に入らないヤツは殴る。

 女子供だろうが関係ない。


 こいつの場合、殴ろうが誰も文句は言わなさそうだしな。

 むしろ称賛を浴びそうだ。


「ぎゃあぁぁ!! ちょっと! こんないたいけな女の子に拳振り回さないでよねっ!! 最低っ! このケダモノ!!」


「うるせぇ、この人拐い!! 飛ぶな!!」


 アカリは飛んで俺の拳をかわす。

 まるで小ハエの様だ。クソむっかつく。


「だから帰せないのっ! それにあんたにとって第三世界で生きてった方がいいと思うけど!?」


「知らんわ! 元の世界に帰らせろ!!」


 俺の要求に対し、アカリは初めて真剣な顔になる。

 真剣な顔がこうも似合わないヤツは初めて見たな。


「無理すればできないことはないけど、いいの?」


「あん?」






「第七世界にいたままだと、あんた三日後に死ぬけど」





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