第18話 エヘッ! 18

「私の名前はおみっちゃん! 夢はお江戸で歌姫になることです! エヘッ!」

 おみっちゃんの夢はお江戸で歌姫になること。

「いらっしゃいませ! 美味しい! 美味しい! お茶とお団子ですよ!」

 おみっちゃんは茶店で看板娘のアルバイトをしている。


「さあ、今日は何をしようかな?」

 人生に答えはない。おみっちゃんは暇な毎日を試行錯誤で乗り切る。

「私は最初と最後だけ登場して、お友達の一生を最初から始めよう。」

 新しい試みである。最初から考えるということで新作を書くと考えれば書くことには困らない。また1話5000字で20人分で10万字と考えれば、オムニバス作品みたいなものである。冒頭と最後だけおみっちゃんを出していれば茶店の歌姫という作品で問題はないだろう。

「これで完璧。エヘッ!」

 正にジキルとハイド的な実験を繰り返すエヘ幽霊。


「初回はガッキ―にしよう。何度も出てきているから最初から考えなくていい。エヘッ!」

 打算が計算できる賢いエヘ幽霊。

「ガッキーの夢は何ですか?」

 いきなり餓鬼のガッキーに尋ねてみる。

「私の夢はお江戸で歌姫になることだ。アハッ!」

 思わずおみっちゃんに被せてみることにした。

「何!? ライバル!?」

 おみっちゃんに戦慄が走る。

「ガッキー! 謀ったな!」

 今まで騙されていたことに気づかなかったおみっちゃん。

「幽霊だからさ。お江戸で歌姫になるのは、この私だ! ガハッ!」

 ガッキーはおみっちゃんに宣戦布告する。

「変な笑い方。エヘッ!」

 ガッキーの笑い方をバカにするエヘ幽霊。

「仕方がないじゃん。初めて笑ってみたんだから。」

 ガッキーの笑い声はガハッ!

「ガッキー。一緒に歌おうよ。」

 おみっちゃんはガッキーに共同戦線を持ちかけた。

「いいよ。私たちは友達だもんね。」

 直ぐに和解ができるのが友達である。

「デュエットだね。」

「仲良く歌おうね。」

 おみっちゃんとガッキーの熱い友情。

「1番! おみっちゃんとガッキーが歌います! 曲はお友達っていいな!」

 二人は歌い始める。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「ギャアアアアアアー! 耳が腐る! このままでは成仏してしまう! 歌うな! おみっちゃん!」

 危うしガッキー。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 更に気持ちよく歌い続けるおみっちゃん。

「みんな! お友達は選ぼうね! ギャアアアアアアー!」

 ガッキーは跡形も無く消滅した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 大好きな歌を歌い終えてご満悦なエヘ幽霊。

「あれ? ガッキーがいない。まあ、いいっか。ライバルが一人減ったもんね。エヘッ!」

 天然なのか、故意なのか。エヘ幽霊の冒険はつづく。


「そうか。オチは最後に私と歌を歌って、そのままフェイドアウトしていけばきれいに終われるんだね。」

 なに事も勉強のおみっちゃん。

「中の話が盛り上がらなかった。また、みんなが歌姫になりたいだとラブライブみたいなものになってしまう。それでもいいのかな?」

 既存アニメも細かいことに拘らず同じ内容の繰り返しなので気にしないでいいだろう。

「ということは、ガッキーは音楽学校の試験に落ちる。人前で歌うのが恥ずかしくて歌えない。でも、なぜか表参道にくれば歌が歌える。そしてスクールアイドルならぬ、お江戸で歌姫を目指す。」

 完璧。逆にどうしてアイドルモノはこのような同じ内容の繰り返しの作品しかないのだろうか。田舎の学校の債権から都会の学校に設定を変えただけ。

「アイドルになるまでが楽しい。なって、売れなくなって朽ち果てる所は暗いので描かない。」

 商売的に売れないということなのだろうか。

「話は元に戻り、最後はおみっちゃんとお友達が仲良く歌お歌って朽ち果てる。」

 オチはできた。


「入りが違うのか? どうしよう。」

 おみっちゃんと話ながら入るか? それともガッキ―から入るか。

「ガッキー周辺の設定があり、そこで苦労して、何とか乗り越える。そして今はおみっちゃんとお友達。」

 流れはこれでいこう。


「私は食べ物が少ない貧しい村で生まれた。」

 ガッキーは餓鬼村で誕生した。

「ギュルギュル!」

 ガッキーはお腹を空かせていた。

「もう・・・・・・ダメだ・・・・・・。」

 バタっと倒れるガッキー。

「食べ物! 食べ物を寄こせ!」

 餓鬼村では少ない食料を巡って争いが絶えない内乱状態であった。

「力こそが全てだ! 弱い奴は何も食うな! 食料も水も俺様のものだ! ワッハッハー!」

 悪い奴が強さや子分の多さで貴重な食料や水を独り占めしていた。

「コロコロ。」

 飢えて死んだ人々が干上がって骨だけの姿になり、頭蓋骨があちらこちらに転がっている。

(・・・・・・ああ、私もこのまま死んでいくんだ。死ねば貧しさや悲しみ。飢えの苦しみから解放される。)

 地面に倒れているガッキーは死ぬことを覚悟していた。

「ぺちゃ。」

 その時、ガッキーの頬に一滴の水が当たる。

(なんだ? 雨でも降ってきたのかな?)

 ガッキーは目を開けてみる。

「お水をどうぞ。エヘッ!」

 小さな女の子が両手の平に水を溜めてガッキーに持ってきてくれた。

「み!? 水だ!?」

 死を覚悟していたはずのガッキーは飛び跳ねて起き上がる。

「くれるのか? 私には何もあげられるものはないよ?」

 一応、確認するガッキー。

「いいよ。水はタダだもの。エヘッ!」

 少女は無邪気に微笑んでくれる。

「ありがとう! いただきます!」

 ゴクゴクっと少女の手から水を飲むガッキー。

「美味しい! 生き返ったぜ! ガハッ!」

 ガッキーは息を吹き返した。

「良かったね。お姉ちゃん。エヘッ!」

 少女は心から喜んでいた。

「ありがとう。お嬢ちゃんのおかげで生き返ったよ。お名前は何て言うの?」

 命の恩人の名前をガッキーは尋ねてみた。

「私の名前は・・・・・・。」

 少女は名前を名乗ろうとした。

「キャアアアアアアー!」

 少女の体が宙に浮いた。

「ワッハッハー! 若い女の子! 見つけた!」

 大男が少女の頭を掴み持ち上げる。何人か子分も引き連れている。

「そっちの女はガリガリだな。犬のエサにもならねえな。ワッハッハー!」

 ガッキーはガリガリだった。

「上手そうだ。やっぱり若い女の肉は柔らかそうでいいな。ワッハッハー!」

 大男は少女を気にいった。

「な、何を言っている? 女の子を離せ。」

 ガッキーは大男に訴える。

「嫌だね。こいつは俺のステーキだ。」

 大男は少女を食べるつもりだった。

「な、なに!?」

 ガッキーは絶句する。

「食べる物がないんなら人間でも食うしかないよな。意外に旨いんだぜ! 人間の肉はな! ワッハッハー!」

 大男は人間の肉を食べて大きく成長したらしい。

「そ、そんな!?」

 言葉も出ないガッキー。

「俺は先に帰る。おまえたち、そのガリガリ女でよければ好きに遊んでやれ。ワッハッハー!」

 大男は少女を連れて去っていく。

「お姉ちゃん! 助けて!」

 少女は泣き叫ぶしかできない。

「お嬢ちゃん!」

 しかし腹ペコで行き倒れ餓死寸前のガッキーにはどうすることもできなかった。

「へっへっへ! おばさんの相手は俺たちだ! 楽しませてもらうぜ!」

 大男の手下たちがガッキーを狙う。

「誰がおばさんだー! 私はこれでも10代だぞ!」

 ガッキーは痩せすぎて老けて見えていたのだった。

「よく言うぜ! 骨だけのチキンの分際で! 食べても不味ぞうだぜ! ワッハッハー!」

 ガッキーをバカにする手下ども。

「そうだ・・・・・・私は何も食べてないから力も出ない・・・・・・でも、でも私なんかに一杯の水を飲ませてくれたあの子だけは、どんな手段を使ってでも助け出さなければいけないんだー!!!」

 この時、ガッキーは人であることを捨てた。

「無理無理。子供を助ける前におまえが地獄行きだよ。ワッハッハー!」

 手下たちの魔の手がガッキーに迫る。

「え?」

 その時、手下の頭に何かが噛みついた。

「ギャアアアアアアー!」

 ガッキーだ。ガッキーが手下の頭に食いついたのだ。

「不味い、頭だ。」

 そのまま手下を丸呑みにして感想を述べるガッキー。

「なんだ!? こいつは!? 化け物だ!?」

 手下たちはガッキーに恐怖した。

「化け物? そうだな。私はたった今、人間を捨てた。久しぶりだ。肉なんかを食べるのは。ガハッ!」

 ガッキーは妖怪の餓鬼に転職した。

「おかげで私の体に身が着いてきたよ。」

 人間の肉は栄養満点でガッキーの骨皮筋衛門の体に肉が着いていく。

「来るな! 食うな! ギャアアアアアアー!」

 手下たちは慌てて逃げ出す。

「冷たいことを言うなよ。私と遊びたいんだろ? ガハッ!」

 ガッキーは次の手下に噛みついた。

「なんて不味いんだ。悪党は。」

 追撃の手を緩めないガッキーは次々と手下を食べていく。

「ギャアアアアアアー!」

 気がつけば、そこには血の雨が降っていた。

「お嬢ちゃんを助けに行かなくっちゃ!」

 ガッキーはお嬢ちゃんの救援に向かう。


「お嬢ちゃん! 助けに来たぞ!」

 ガッキーは大男の元までやって来た。

「遅かったな。ワッハッハー!」

 大男は美味しそうなステーキを食べていた。

「ま、まさか!?」

 ガッキーは最悪な想像をした。

「そのまさかさ。美味しそうな若い女のステーキだぜ。ワッハッハー!」

 大男が食べているのは女の子の肉だった。

「イヤー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ガッキーの悲鳴声が木霊する。

「おまえも食うか? ワッハッハー!」

 血も涙もない大男。

「救えなかった・・・・・・人間であることを捨てても助けようと思ったのに・・・・・・お嬢ちゃんを助けることができなかった!」

 ショックで悲しみと怒りが混同しあうガッキー。

「小さな女の子を食べるだなんて、おまえの血は何色だ?」

 ガッキーは悲しみを吸収して怒りに変えた。

「赤い色に決まっている。何をバカなことを言っているんだ。ワッハッハー!」

 大笑いする大男。

「おい、女の子の肉は美味しいか?」

 ガッキーは尋ねてみた。

「ああ、美味しいぞ。最高だ。こんな肉は食べたことがねえ。A5だ。A5。ワッハッハー!」

 大男は女の子の肉に満足していた。

「なら、私がおまえの肉を食ってやろう。」

 ガッキーは大男を食べる気であった。

「え? おまえは何を言ってい・・・・・・ギャアアアアアアー!」

 次の瞬間、ガッキーは大男の頭に食らいついた。

「くらえ! 必殺! 無限食欲!」

 ガッキーは大男を丸呑みした。

「不味い肉だ。おまえに女の子を食べる資格はない。」

 ガッキーは戦いに勝利した。

「いくら食べても満腹感が無い。私は困った体質になってしまったものだな。」

 餓鬼はどれだけ食べてもお腹が満腹になることはない。

「安らかに眠れ。」

 ガッキーはお嬢ちゃんのお墓を即席に作ってお祈りした。

「悪い奴は私が全員、食ってやる! ガハッ!」

 ガッキーの冒険が始まる。

 終わり。


「どう? エピソード・ガッキーは?」

 ガッキーは尋ねてみた。

「アウト! シリアス過ぎて茶店の歌姫シリーズではないみたいだ。子供を食べたらPTAから苦情が山の様にくるよ。」

 おみっちゃんは保護者目線である。

「それに食べられたお嬢ちゃんは「エヘッ!」って笑っていたけど、どう考えても、おみっちゃんだよ。」

 女将さんもツッコム。

「ええー!? 大男に食べられたのは私ですか!? ゲホッ! 気持ち悪い!」

 笑えないおみっちゃん。

「でも、こういう物語を描ければ一般大衆のファンはできるよ。ガハッ!」

 罪はかき消すガッキー。

「こういう時は全てなかったことにするのが一番ですね。といことで1曲私が歌ってあげましょう。エヘッ!」

 歌う気満々のエヘ幽霊。

「ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ! ガガガガガガガガッガガガガガアッガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!」

 おみっちゃんは極度の音痴でデスボイスの持ち主であった。

「さようなら・・・・・・ギャアアアアアアー!」

 ガッキーは見事に歌殺されて消滅した。

「ご清聴ありがとうございました! ああ~気持ち良かった! エヘッ!」

 デスボイスでもみ消すエヘ幽霊。

「臭い物には蓋をしろってね。昔の人はよく言ったものだよ。イヒッ!」

 女将さんが締めてきれいに終わる。

 つづく。

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