第23話 vsリカ①

 決闘はすでに始まっている。

 初めての負けられない決闘。

 カンイチはすぐさま切りかかり、リカは余裕の表情を崩さないまま斬撃を食らい、ダメージを負った。


「このターン私が使用した≪月輪の侵食≫は道具カード。終了フェイズに破棄される代わりに場に残ります。カウンターは1」

「道具カード? なんですかそれは」

「道具カードは場に残って効果を発揮するカード。カウンターが0になれば、破棄されてしまいます。そして、カウンターは毎ターン1ずつ減少致します」

「……??」

「すぐにご理解いただけるでしょう」


 2ターン目。


『オープン』

『デュエル!』


 カンイチがセットしたカードは一枚、対するリカは二枚。

 一拍目でリカはまたしても道具カードを使用し、向かってくるカンイチをガードするそぶりも見せない。

 カンイチはそんな堂々とした様子のリカに対して、警戒をより強くした。全く未知の謎のカードを使われて、何が起こるのかさっぱりわからない。そんな状況で警戒心が強まるのは当たり前のこと。しかし、その結果として踏込みが浅くなってしまう。

 続けてリカはまたも道具カードを使用した。

 カンイチに二の矢はない。


「終了フェイズ、このターンに使った二枚の道具カードは私の場に残ります。そして、前のターンに設置致しました≪月輪の侵食≫のカウンターは0に」


 リカの場に残っていた道具カードの内、一枚が破棄される。カンイチはホッと安堵の息を吐いた。


「安心するにはまだ早うございますよ! ここで破棄された≪月輪の侵食≫の効果【落日】が誘発致します。さぁ、選択の時間でございますよ」

「どうしていなくなったカードに効果が!?」

「これは破棄された際に効果が誘発する遅効性のカードなのでございます。そして、【落日】の効果であなたには二つの内どちらか片方を選んでいただきます」

「選ぶ!? こっちがですか?」

「はい。その通り。選択権はあなたにございます。

①“あなたは手札と燃焼領域からカード一枚ずつを選び、それらを山札の底に置く。”

②“山札の上から二枚を破棄し、一枚ドローし、手札一枚を捨てる。”

①か②のどちらか片方を選んでくださいませ」


 突然、選択を迫られ、カンイチは驚き戸惑っていた。しかし、固まっていても仕方がない。どちらか片方を選ばなくては前へ進まない。

 カンイチはカードの効果を確認する。

 ①と②どちらを選んでも、カンイチが損をして、リカが得をするようになっている。そういう意味では、どちらを選んでも大差ないのかもしれない。


「俺は①を選びます」


 カンイチは手札から次のターンで使用できない攻撃カードを選び、デッキに戻した。

 その様子を見て、リカは笑っていた。


 3ターン目が始まった。


『オープン』

『デュエル!』


「どう致しましたか? 攻撃はよろしいので?」

「……」


 カンイチは一枚もカードをセットしていなかった。さっきのターンで謎の選択を迫られたことで、一度相手の出方を見るべきだと判断したからだった。


「慎重な判断でございますね」


 リカもセットしていたカードは一枚のみ。


「私は≪瘴気開泉≫を使用致します。道具カードのカウンターを三つ増加。そして、終了ステップに≪月輪の侵食≫の効果が誘発、私の方が手札が少のうございますので一枚ドロー致します」


 リカも直接動くことはなく、準備を整えるだけでこのターンは終わった。


 そして4ターン目。


 カンイチはなんとなく、リカの戦術を掴み始めていた。

 直接、攻撃はせずに、道具カードを中心にじわじわと相手を追い詰めていく、ということなのだろう。


「だったら……」


『オープン』

『デュエル!』


 互いのセットしたカード枚数は共に0。


「わかってきましたよ、そのデッキ」

「そうでございますか。しかし、あなたはもう私の手のひらの上、既に時遅しでございますよ。……終了フェイズ!」


 終了フェイズにこのターン使用されたカードは全て破棄され、道具カード上のカウンターが一つ減少する。


「カウンターが0になった≪日輪の侵食≫の【落日】が誘発! もう一度選択していただきます!」

「俺は①を選択する」


 カンイチは間髪入れずに宣言した。

 手札から一枚を選んでデッキに戻す。

 決闘でのダメージとはデッキが減ること。つまり、②はガードできない二+一点分のダメージを受けるということでもある。カンイチをそのダメージを嫌ったのだった。


「リカさんのデッキに攻撃カードは入っていない、あっても少しだ。だから、ダメージを与える役割を道具カードの効果に頼っている!」

「……」

「だったら、ダメージを受けない方を選択し続ければいい。そうすればあなたはいつまでも勝つことができない。このゲームは毎ターンのドローで放っておいても少しずつ命は削られていくから、俺はただ待つだけでいい」

「……なるほど。あなたはご自分で答えをお導きになられた。それは素晴らしいことでございます」


 カンイチはリカのデッキの攻略法を見つけた。そのはずだった。

 それにも関わらず、このリカの余裕の態度は何だ。追い詰められているのはリカのはずなのに。


「しかしながら、……どうして私がそのような欠陥を抱えたデッキで勝ち続けているのか、とはお考えになりませんでしたか?」


 その言葉に、ハッと我に返る。

 言われてみれば、確かにその通りだ。初心者のカンイチが気づいたことに、ベテランのプレイヤーがこれまでずっと気付かなかったと考えるのは、いくらなんでも虫が良すぎる。


「さぁ、次のターンへ参りましょう。あなたの選択が正しかったのか、答え合わせをしてご覧に入れましょう」


 そして、5ターン目が始まった。

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