ゲーミングチェア探偵がビームで犯人を破壊するまで@2,677,500と900秒
あおいしろくま
プロローグ
第0話 決闘
青く染まった決闘領域の内部で、鴉の男と探偵が向かい合っていた。
探偵は赤髪長身の女性だった。トレードマークでもあり、武器でもある仕込み杖を片手に、向かいの男を睨みつけている。
探偵は男の得物へと目を向けた。
誰がどう見ても短剣だ。鞘には鴉の模様が彫り込まれている。
この男が今回の事件の中心にいるのは間違いない。探偵が決闘に勝利し、男が地に伏したとき、一ヶ月に及んだ捜査も終わることだろう。
決闘は既に一合の立ち合いを終え、2ターン目。
1ターン目では、次の準備を整える探偵に対し、鴉の男が先制攻撃を入れていた。
攻撃技のカードを駆使して相手のライフを0にすることが目的である決闘において、男は一歩リードしていると言っていいだろう。。
探偵は仕込み杖を正眼に構えた。
彼女の武器の特徴はその圧倒的なダメージ効率にある。
一撃の火力を上げ、一瞬で高いダメージを与える。それがこの武器のコンセプト。手数で勝負する短剣とは正反対だ。
「さぁ、今日も頼むよ。たんと持っていくといい」
探偵は仕込み杖に語り掛け、持ち手を握り直す。
前のターンに使用した≪溜め足≫の効果によって、探偵は相手よりも一枚多くのカードを使用できる。攻撃の準備は万端だ。
『オープン』
『デュエル!』
機械音声が戦闘の開始を知らせる。
先に動いたのは探偵、≪錬磨≫を使用し、デッキからカードを探して手札に加える。その隙を鴉の男は見逃さず、1ターン目と同じ≪影縫い≫で攻撃した。
幻痛と毒による痺れに顔をしかめる。
この男は事件における重要参考人だ。
しかし、探偵にとってはそれだけではない。
男とは因縁があった。より正確には、男本人ではなく、男の属する組織に対しての因縁が。
探偵はやや体勢を崩しながらも、返す刀で男の腕を狙う。攻撃技≪小手斬り≫だ。
そして、探偵が杖を振るのとまったく同じタイミングで、男も短剣を振るった。
キン、と甲高い音が鳴って、二つの武器がぶつかった。
「ワイルドカードで強化した毒を食らってそれだけ動けるとは、噂に違わぬ達人だな」
「その口ぶり、やっぱりあんたも適合者か」
「ああ、そうとも。祝福を賜ったのさ、我らが主直々にね。君もそうだろう? それなのに、どうして主に弓を引く? 理解できないね」
至近距離で刃を交える二人の間で火花が散る。
「何が祝福だ。……もう、こんな目に遭うのは私だけでいい」
探偵は吐き捨てるようにつぶやくと、強引に男を押し出し、そのまま地面を強く蹴って、真正面へと飛び込んだ。
「≪陽炎断ち≫」
探偵が技の名前を宣言すると、彼女の目の前で、半透明のカード二枚がひらりと舞った。
彼女はためらうことなく、空中で二枚のカードを“食べた”。
瞬間、仕込み杖が山吹色の炎を帯びる。
火の粉を纏った仕込み杖の刃を空中で大きく振りかぶり、男を正中線に沿って両断する。
「お前たちのボス、私をこんな体質にした赤いコートにシルクハットの男。あいつをシバきあげて、元に戻る方法を手に入れるまで、私は負けるわけにはいかない」
探偵は自らの目的のため、刃を振るった。
しかし、同時に、隠しきれない強者との決闘の喜びも感じていた。
自然と口の端が歪む。
そして、鴉の男もまた、多大なダメージによろめきながらも笑みをこぼしていた。
「これはまたいよいよ素晴らしいね」
二人は各々の武器を手に走り出す。
それはまさしく決闘に取り憑かれた決闘者の姿。
しかし、そこに探偵の助手の姿はない。
助手の役目は決闘の外にある。今も、助手自身の目的のため走り回っていることだろう。
助手は助手の、探偵は探偵の、それぞれの役目を果たす。今日までの一か月、二人はそうやって一連の事件の真相へと迫っていった。
そのやりかたはきっと間違っていなかった。だから今、こうして探偵は鴉の紋を刻んだ男と相対できている。
自らの因縁と助手の依頼に決着をつけるため、探偵は吼えた。
「ハアアァァァァ!!」
これは決闘に取りつかれた探偵と何も知らない助手見習いの、一か月に及ぶ奮闘の記録である。
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