46 修学旅行の班決め
「と言う訳で、来週の月曜から水曜までは修学旅行だから」
修学旅行。
学校行事が面倒だと思う俺の中でも断トツで面倒だと思ってしまうのがこの修学旅行。
なぜ赤の他人と寝食を共にしなければいけないのか分からない謎の宿泊行事。
俺の推測から言えば、恐らくは将来の社畜教育なのだろう。
行きたくもない場所に、一緒に行きたくもない上司と、一緒に出張をするときのための、いわば未来の社畜教育講座!
みたいな感じだろう。
本当に憂鬱になってくる。
ちなみにこれも俺が神と崇めるとある、大先生の著書に似たようなことが書いてあったが為の偏っているであろう思想だ。
まず、最初になぜ旅行と銘打ってさも楽しい感じにしようとするのかが分からない。
もうオープンで良いだろう?
どうせ勘のいいガキは中学、はたまた小学校で気付く筈だ。
恐らく俺は相当行きたくないという感情が顔に出ていたらしく祈莉に指摘される。
「奏汰君、そう言うのはもう少し楽しそうに言うのでは?」
「そうなのか?そんなに俺行きたくなさそうか?」
感情が顔に出ないことで有名(知ってるのは数人なのだが)な俺でも修学旅行の憂鬱さは隠せないらしい。
「行きたくないって顔に出てます」
顔に出てるらしい。
でも、考えても見て欲しい。
いつも教室でしか顔を合わせない。話もほとんどしない。そして、中にはキラキラした陽キャがいるのだ。
そんな奴らと一緒の部屋で寝るかもしれないのだ。
おまけに朝夕食は一緒、風呂も一緒のデススパイラルだ。
「物凄く苦そうな顔です」
「苦い?」
「こんな感じです」
祈莉はそう言うとすっぱいものを食べた時に見せる顔を作り出す。
それってすっぱい顔だよな?
なんて思いつつもう一点の方にツッコミを入れる。
「バカにしてるのか?」
「え?違いましたか?」
「俺はそんな可愛らしい顔出来ない」
「……」
全く以て心外だ。
俺がいつそんな顔をするというのだろうか?
心臓に悪いからやめて欲しい。最近は色々と心臓に悪い事が多い気がする。
「……祈莉?」
「か、奏汰君は馬鹿です!あ、洗い物しておいてください!」
「え、ああ分かった……?」
なんか急に食器を流しに置いて今はもう祈莉の部屋と化した客間に走っていく。
何か言ってはいけない事でも言っただろうか?
「って、これも美味いな。もっと食べればいいのにな……?」
祈莉の作った野菜の肉詰め焼きを頬張りながらそんな事を呟くのだった。
――――――
「かーなーたー、一緒の班組もうぜ!!」
「ああ」
俺にいつもの様にすり寄って来る柾。
最近では手もみも付けてさらにうさん臭さが倍増している。
柾だから面白くなるのだろうが、俺がやればきっと教室内が静まり返るだろう。
「あ、でもお前は他の奴と組むんじゃ?」
「俺が奏汰を差し置いて他の奴と組むわけないだろ!」
冗談めかしながらそんなことを口走る柾。
それでも俺にもこういった友人がいるのだと思うとやっぱりしみじみとした、それでいてなんとも言えない嬉しさがある。
「てことで、奏汰を誘ってから他の人を誘おうと思ってさ」
「自分だけ感動してなんか損したな」
そう。柾はいつだってこういう男だ。
「お前ってほんとマイペースだよな?」
「あっはっはー奏汰には言われたくないわー」
どの口が言ってるのだろうか?
柾なんてマイペース超えて、もはや自己中だろうに。
「お前が組むなんて、どうせ碌な奴じゃないんだろうなー」
「そんなことないって。あいつは良い奴だぞ?そりゃ属性は違うかもしれないけど、結構仲は良くなれると思う」
属性が違う、か。
つまり陰属性の俺とは違う属性で、しかも学校内なんてほとんど属性が二分される。
つまりは、陽属性の使い手だ。
俺、陽光とか苦手なんだよな。
浴びると灰になっちゃうんだよな。
真祖でもないから陽光耐えられないんだよな。
「やっぱりか」
「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ」
「そうはいってもな」
柾について行った先。
一番後ろの俺の席と違い、真ん中のいわゆるカースト上位席に座り、女子に囲まれるその男。
「おーい遥斗、一緒の班になろうぜ!」
「柾と、ああ佐々木か」
その完璧な爽やかイケメンは、どうやら俺の名前すらも憶えていたらしい。
「そっか、柾は佐々木と仲良かったもんな」
「そうそう。もう俺の親友って言うか、魂の絆でつながったソウルフレンド的な」
「意味の分からないカテゴリを増やすなよ。それで、柾が組もうとしてたのが結城で良いんだよな?」
「うんうん!部屋はこの三人で良いだろ?」
クラスの総人数は32人。
そのうちの15人が男子、17人が女子となっている。
まあ、残りの男子たちはもう班が決まっていたらしく、ほとんどの男子は女子に言い寄られている結城を見ては恨めしそうな顔をしているわけだ。
「なんか俺だけ凄い場違いな気が……」
「そんなの気にするなって。何ならいつものお出かけフォームを」
「しないっての」
「二人は本当に仲が良いんだな?」
驚いたような顔をする結城は、そのあとも穏やかな笑みを浮かべる。
どうりで女子から人気が高い訳だ。
こんなの、顔面重視率の高い女子からすれば好きにならない方がおかしいってものだ。
そんなこんなであっさりと班分けは終わる。
今はもう10月の中旬。
修学旅行は今から約一週間後。
前々から色々やってはいたものの、テストがついこの間終わったばかりだったり、この後は文化祭もあったりで何かと忙しい季節なわけだ。
行事ばかりがどんどんとやって来る秋。
この先、冬休みまでの事を考えて、また憂鬱になりながら今日は残りの授業を受ける。
「三日間、祈莉の料理はお預けか……」
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