43 厄介ごとと言えば柾
学校も始まり、もうすぐで2週間。
俺と祈莉の噂は以前よりも少なくなった。とはいえ、それでもまだ密かに、その噂は主に男子を中心に拡大を続けている。
浅く広くの噂拡大だが、もうここまで来ると収集も付かないのでどうしようもない。
幸いなことに、これだけ噂が広がっても、俺の存在はばれることなく今も彼らは男の正体を探っている。
祈莉にはファンクラブ(仮)みたいなものまで出来ているためこの2週間はいつも冷や冷やしていた。
「かーなーたー」
「うるさい。お前が悪い」
俺に全然可愛くもない猫なで声で近づいて来る柾。
その手には、なんと夏休みの宿題がある。
大方、秋葉と一緒に過ごしていたらやっていなかったのだろう。
しかも、こいつ期限を伸ばしに伸ばして先生にも泣きついていた気がするんだが?それでまだできていないと?こいつマジで何やってんだよ!?
「お願いです、奏汰様!助けてください!!」
「お前がさっさとやっとけばよかった話だろ!?知らねーよ」
「うわーん!奏汰ぁー!!お願いだー!!」
こいつは恥とか無いのか?ここ、一応教室内だぞ!?
俺に抱き着いてわざとらしく泣きまねをする柾。
なんでこいつに泣きつかれなきゃいけないんだろうか?
「奏汰ぁー!!……ちらっ」
「ちらって、お前な!?」
その後もずっと話すことをしない柾。
課題を出していないのはこいつの責任。そう、柾の責任で、
「分からないところがあるんだよぉー!!」
「ぐっ……」
またもわざとらしい声を上げる。
ここで助けたら、絶対増長して俺の時間を確実に奪う……
「お願いだ奏汰!!俺は休日にまで学校には行きたくないんだ!!」
課題を2週間近くも溜めていたんだ。そりゃ休日にも学校でやれと言われるに決まっている。
でも、そろそろうざくなってきた。
土曜日まであと3日。この先毎日こうして泣きつかれるのか?
だとしたら迷惑も良いところだ。
「基本はお前一人でやらせる。それでも文句を言わず、今日から三日間きっちりやるっていうなら、手伝ってもいい」
「!!」
顔を上げて輝かしい笑顔で俺を見る柾。
「奏汰様。一生ついて行きます!!」
「ついてくんな、鬱陶しい!」
「またまたぁー、そうやって照れなくても俺はこれからも奏汰の親友でっせ」
「2週間、溜めに溜めた課題を親友に手伝わせるか普通?」
「普通は手伝わせるな!」
「聞いた俺が馬鹿だった」
やっぱり、手伝うなんて言ったから調子に乗ったんだ。
俺は、こうして今日から3日間柾の課題の手伝いをすることになった。
「おい、だからそこは違うって」
「えー!?じゃあ、どうすれば!?」
俺の部屋に来ては今も頭を抱える柾。
今は数学の課題を解いている。
「だから、ここは、」
「ほうほう、良し分かった!……」
さっきまで頭を抱えていたのに、また軽く分かったと言っては計算をしていく。
それにしても、ここまで酷いとは思わなかった。この一ページがほとんど間違いだらけなのだ。
冊子でそれが約50ページ。
「あれ?どうしてだ?なんで!?」
「はぁー。もう、諦めて土曜日の補修に行って来いよ」
「嫌だよぉー!!土曜日は秋葉とデートなんだもん!!」
「知るかそんなの!!というかだったらなんでやっとかねーんだよ!?」
「だって、分からないし?」
「答えでもなんでも写せばいいだろ?」
「俺、そんな卑怯なことはしたくない」
こいつー!?どの口が言ってんだ?
大体、柾の場合はそうでもしない限り自力で終わらせるのは無理だろうに。
毎回、赤点回避で精いっぱいだったはずなのに、この冊子が終わるはずないのだ。
「奏汰君、夕飯が出来ました!」
「お、白宮さん!毎日奏汰のために夕飯を……う、ぐす。健気だなぁー」
「柾うるさい。うるさい柾」
「じゃあ、俺もご相伴に預かろう、」
「お前は帰れよ?」
「えーいいじゃん!!」
「何が良いんだよ、何が?」
「俺だって白宮さんのご飯食べたい!!」
「今の言葉、秋葉にでも言っておくか」
「そしたら秋葉も食べたいって言うだろうなぁー」
俺の言葉なんてうわの空で秋葉の事を考えて顔が緩む柾。
駄目だ。これはもう、何を言っても聞きそうにない。
「奏汰君、私は別に良いですよ?」
「で、でも」
「ほら、白宮さんが良いって言ってるんだから」
「……分かった。祈莉が良いなら」
「奏汰って白宮さんには優しいよな?」
「当たり前だろ。祈莉がいなかったら俺はもう死んでいるからな」
まだまだ柾の課題は続きそうだが、今日は一先ず休憩だ。
「いいか?飯を食ったらこれから朝までやるからな?」
「私も手伝いましょうか?」
「いいや、祈莉は」
「今日も泊まりますよ?」
「そうか。でも、いいよ。こいつのは本当に徹夜になりそうだから」
そうだ。柾のために祈莉の健康を害することはあってはならない。
いつも美容には人一倍気を使っているのも俺は知っている。夜更かしどころか、徹夜なんてそれこそ健康に悪影響だろう。
「分かりました。でも、寝る前は私も手伝いますね?」
「そうか。まあ、祈莉が良いなら」
「はい。私が手伝いたいので」
「デュフフー」
「まさきもい」
「変な言葉作んなよー!」
こいつのためにこれからあと3日。
なんだか憂鬱になってきたものの、ここで放り出すのは違うのでせめて半分くらいは自力で出来るようにさせようと、俺は心に決める。
(これで出来るようにならなかったら、土曜日のデートなんて行かせないで、勉強会にしてやろう)
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