27 強制的に海に行くことになりました!?

 夏休みが始まって今日で一週間といったところだ。

 今日は昨日から白宮が泊っている。とは言ってもなんか最近はことあるごとに泊まっているからそれが普通になりかけている。むしろ帰る方が珍しい。

 今も白宮はせっせと昼食の準備をしている事だろう。

 今日は昼から柾と秋葉が来るらしい。そのための準備なのだとか。


 では俺は何をしてるかって?何もしていない。ただぼーっとしているだけだ。

 いや、待って欲しい。確かにぼーっとしてるのだが、昨日から原稿を書こうとしていたのだ。しかも寝ずに。

 だが驚くことにその原稿は未だに一文字も書けていない。

 書こうと思い、どうするのか、どう書くのが正解なのか。果たして書き出しはこれで良いのか。

 そんなことを考えていたらいつの間にか時間が過ぎて、気づけばもう昼になっているのだ。


 「先輩。そろそろお二人が来るので着替えてください」

 「あ、あぁ……」

 「また進まなかったんですか?」 

 「一文字も」

 

 白宮だけは俺の仕事について知られているのでこうして話が出来る。柾たちになぜ言わないのか。

 別に言わない理由は無いのだが、言う理由もない。確かに友達だし、かなり親しい親友だとも思っている。が、それとこれは別だ。それに、万が一面倒ごとが起こった場合巻き込みたくもない。

  

 「取り敢えずは着替えてきてください」 

 「そう言えばあいつら何しに来るんだ?」

 「それは分かりません」

 「そうか。まあ、どうせ普通に遊びに来るだけだろうけどな」


 白宮とモールに行って一か月。その間珍しい事に柾からの連絡はない。

 あいつならいつもはもっといろいろ聞いてきそうなものだが、少し不気味でもあった。

 

 そして俺は自分の部屋で寝間着から部屋着へとシフトチェンジする。特に変わったことはない。強いていうならジャージになったくらいだ。

 寝てよし、家よし、外よしの優れもの。これだけでどこへでも行け、なんでもやれる。

 流石にこれでベッドには寝ないが、ソファになら寝れる。


 そんなことを考えていると玄関のインターホンが鳴って、来訪者の存在を告げる。どうやらうるさい奴らが来たようだ。


 「俺が出るよ!」


 上の階から下にいる白宮に聞こえるように大きな声で伝える。

 そのまま階段を降りようとするともう一度インターホンが鳴る。


 「待つってことが出来ないのかあいつらは」


 ゆっくりと階段を下りていくと、ついにあいつらはインターホンを連打し始めた。

 

 「おいふざけんな!!壊れたらどうすんだ!?」

 「ヤッホー奏汰ぁー!!よっしじゃあ行くぞ!!」

 「は!?どこに!?」


 そう聞いたものの、俺は目の前の二人の馬鹿みたいな陽気な姿にどこに行くのか察しがついていた。

 

 「どこって」 秋葉

 「そんなの」 柾

 「決まってるよ!」秋葉

 「「さあ、海に行こう!!」」二人同時


 まるで示し合わせたかのように、というか示し合わせたのだろう。何ならこいつら練習してるまである。

 

 だが、これで色々納得がいった。

 最近白宮は妙にスマホをいじる時間が長くなっていた。

 ゲームをやったりする性格でもないから恐らく誰かと連絡を取っていたのだろうが、それが恐らくこの二人だったのだろう。


 「でも、海って大体どこのだよ?」


 ここら辺には遊泳できるような海はない。そう言う海に行きたいなら近くても数時間は掛かる。


 「まあ、それはここだよ」


 柾は自分のスマホを見せて来る。そこにはやはり俺の考えている海が表示されているが、

 

 「そこ日帰りではいけないだろ?」

 「は?日帰りで行くわけないだろ?」

 「は?」

 「もう宿は取ってあるよ!」

 「てことで、はい、宿代プリーズ」


 柾は俺に手を向けて来る。

 つまり宿代はこいつが払っておいたらしい。

 

 「でも、それって親が付き添わないと駄目じゃなかったのか?」

 「それは私のお母さんが旅館に伝えてくれてるから大丈夫。ていうかそこの旅館の女将さんがお母さんの友達だから!」

 

 なんと、友達のコネというやつだ。つまり、こいつらは結構前からこれを計画していたことになる。

 

 「拒否権は?」

 「もうお金払っちゃったし」 

 「おいおい、俺にそんな金があるとでも?」

 「こんなデカい家住んでんだから親に言えばお金くらい出してもらえるだろ?」

 「そういう問題じゃねーだろ!?というか俺には予定が……」

 「無いのは知ってるぞ?白宮さんから聞いてるからな」

 「やっぱり繋がってたのか!?」

 「諦めろ奏汰。お前にはもう逃げ場はないんだ。ほら、この前のデートで白宮さんも水着選んでただろ?」

 「そう言う事だったのか……」


 つまり俺は最初から罠に嵌められていたらしい。

 しかもこの二人だけでなく白宮にまでだ。

  

 「騙すなんて、それでも友達か?」

 「だって、お前普通に行くって言っても絶対来ないじゃん」

 「当たり前だろ!」


 いや、でも案外最近ならそう言うのも良いのかもしれない、なんて思っていた。

 なのに、結果として騙された。

 俺の二人へのあの感謝の念は半分ほどこれで吹き飛んだ。

 

 「分かった。どうせ行くしかないんだろ?」

 「お、ようやく理解したか」

 「取り敢えず旅館代は?というか何日行くんだ?」

 「一応三泊四日だな」

 「結構行くのな。それで値段は?」

 「12万だな」

 「たけぇよ!!俺学生だぞ!?」

 「ああ、全員合わせてな?」

 「驚かすなよ、ってそれでも3万じゃねーか!」

 「ていうことでお金準備しとけよ?」


 こいつ、そんな大金俺じゃなかったら出なかったぞ!?

 こいつに仕事の事でもバレてんのか?


 「まあ、とりあえず今日はお前の家に泊まって明日出発だから」

 「そう言う事だから、奏汰はさっさと準備して!」


 柾と秋葉はそう言うとリビングに走っていく。

 なんて自由なんだろうか?というか、これほんとに俺で良かったな。

 

 俺はそうして渋々ながらも自室で着替え類を詰める。

 水着は持っていないが、恐らく向こうで買おうと思えば買えるだろう。


 俺は机横の棚の引き出しから通帳を出す。

 そこには一応結構な大金が入っている。

 まあ、3万程度なら出そうと思えば出せる。が、最近では白宮のおかげかしっかりとした金銭感覚も身についてきた気がする。

 

 「3万て、一か月の食費より多くないか?」


 いちいち食費で考えるのはどうかとも思うが、まあ、それなりの大金なのだ。

 だが、今さら行かないことは出来ないらしいので仕方なく通帳も鞄に詰める。


 そして、それから色々と柾と秋葉から説明を聞き、次の日の朝、俺達は結構な長旅に向かうことになるのだった。

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