第106話 東京上空の攻防
百合花たちを乗せた輸送ヘリの集団は、東京と神奈川の県境で聖蘭黒百合学園からの援軍を乗せたヘリ部隊と合流した。
飛翔能力を有するホロゥや対空攻撃能力を有したホロゥは、五分前に学園都市館山から援軍に来た海星女学院のワルキューレにより、掃討が完了していると報告を受けていた。
しかし、討ち漏らしがあるかもしれない上、五分という時間は戦況を変化させるのには充分だ。
警戒は怠らないようにしながら慎重に着陸地点までの移動を続ける。
ヘリの窓から外を見た静香がゴクリと息を呑む音が聞こえる。
「東京の町が……」
「これは酷い有様ね……」
静香の呟きに合わせて苦い顔をした三年生のワルキューレに同意するようにして百合花も頷く。
自衛隊の装備とホロゥの攻撃で町はボロボロの状態だった。
至る所で黒煙が立ち上り、火災が発生している場所も多い。
絶えず砲声とホロゥの奇声、そしてワルキューレたちの声が轟く市街は本格的な戦場だ。
「ここまでボロボロだと、都市機能の復興は年単位が必要になるんじゃ……?」
「ほぼ陥落状態……踏ん張らないと終わりね」
首都が落ちるかどうかの瀬戸際だ。
絶対に負けるわけにはいかないと、百合花たちが改めて覚悟を決める。
聖蘭黒百合のワルキューレと合流したことで、細かな配置や展開を百合ヶ咲学園側のヘリで同行していた杏華が指示を出している様子が通信機越しに聞こえてくる。
その会話に慣れていない者だと何を言っているのか理解できないが、要約すると、普段の市街戦で想定されたフォーメーションを組んで臨機応変にホロゥの撃滅を行おうということだった。
そして、一通りの説明を終えると杏華は司令部に回線を繋ぐ。
「司令部。鎌倉で未知の新型相手に神の鉄槌を打ち込んでしまったために我々の神器が失われました。補給は可能ですか?」
『安心しろ。北欧の名だたる神々が勢揃いだ。虚無の怪物たちを討ち滅ぼす鉄槌は用意してある。東京の根まで食い込んだ闇を祓うには、これしかあるまい』
「ありがとうございます! 我らの力、見せつけてやりましょう!」
『禁忌指定タイラント種が出たら順次運ばせよう。闇のない純然たる光の世界へと変えるため、神の力をその身に宿して戦うのだ!』
通信が終わったらしく、杏華が満足そうに胸を張っている。
「安心して良いわ百合花! 強いホロゥは私たち聖蘭黒百合学園が殲滅してあげる!」
「何を話していたのかちょっと私でも分からなかったけど、もしかして……ラグナロクチェインの弾丸があるの?」
「その通り! 発射に必要な人員も充分だから、もう余裕よ余裕!」
それは心強いと百合花も表情を緩ませた。
が、二人の会話がさっぱり分からない静香や他の百合ヶ咲のワルキューレたちは、首を傾げて詳細を尋ねる。
「あの、百合花ちゃん」
「ラグナロクチェイン? って、何のこと?」
「あっ、それはですね――」
秘匿されている情報でもないために百合花が説明をしようとする。
だが、口を開いた瞬間に近くを飛んでいた一機のヘリの扉が内側から爆発して吹き飛んだ。
何事かと百合花たちがそのヘリを見ると、通信機から夢の焦ったような声が聞こえる。
『全員退避! パイロットの方も急いで!』
直後に夢たちがパイロットを背負ってヘリから飛び降りた。
すると、進行方向側から無数の鋼鉄の羽が飛来し、誰もいなくなったヘリに突き刺さって粉々に破壊してしまう。
「正面に敵ホロゥ! データ照合、完了! タイラント種のヤタガラス! 数は三!」
「またあいつらね! 富士に続いてここでも……!」
撃墜しようと百合花がヘリの扉に手をかける。
しかし、聖蘭のワルキューレを乗せたヘリが動きを変えたのを見て、行動を中断した。
『百合ヶ咲組はそのまま進め!』
『我らのレールガンであんなカラス共は叩き落としてくれる!』
『闇に飛ぶ凶鳥よ! 輝く一閃の弾丸を受けてみよ!』
ヤタガラスたちを中心に抑え込むようにして周囲を旋回し、ヘリの扉を開けて交代で絶え間なくレールガンによる射撃を行う。
接近しようにも、迂闊に近付けば致命傷を受ける可能性が高いためにヤタガラスたちもヘリへの攻撃ができないでいた。羽を飛ばせば、その隙に頭を撃ち抜かれると本能で理解している。
長篠の戦いで織田信長が使ったとされるやり方と同じく、数人で射撃と次弾の装填と砲身冷却を行っているために攻撃は止まらない。
数体のヤタガラスの完全封殺に一瞬で成功した手際の良さは、百合花たちも驚愕するばかりだ。
ここは聖蘭のワルキューレに任せ、百合花たちは先へと進むことにする。
着陸地点は自衛隊が常に確保しているために安全だ。
目的地が少しずつ見えてきて、到着と同時に展開して戦闘を始められるように百合花たちは再度アサルトのチェックを行った。
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